3話懐妊とは

 徳妃である自分の役目を粛々と行っていった結果。

 半年ほどで懐妊した。


 懐妊したら、することは山ほどある。

 水銀や、鉛の入ったものを警戒するもの必要だ。


 毒殺についての監視を強化することも必要だし、

 腕の良い産婆の確保、乳母の確保。


 何よりも信頼できるものを厳選しなければならない。

 弱みを把握されないように側近である侍女を徹底的に調べ上げる。


 これらをしないとならない。


 王は当たり前だが、妃に忠誠を誓うもの。

 そうでなければならない。

 人は金や地位には弱いものだ。


 一族郎党の面倒を見ようと提案されれば抗える人は少ないし、

 個人に多額の報酬をやるといわれたら揺らいでしまうものだ。


 そんな誘惑に打ち勝てるものでなくてはならず、

 人手は足りない。

 ただでさえ、後ろ盾のない妃だ。

 追い落とすことはほかの妃に比べるとたやすい。


 女児を懐妊したら、

 きっと二人の妃たちはさらに嫉妬するだろう。


 ☆☆☆

 お茶会という名のもので開かれた婦人会。


 後宮の中で宦官が護衛についてもらうが、女の園だ。


 にこやかな顔で、舌戦が繰り広げられることも多々ある。


「これから楽しみですわねえ」

「本当に。男児あれば驚きですわ」

 貴妃も淑妃も私が懐妊したことに驚きもしない。

 そして想像以上の嫉妬もしない。

 自分の方が優れているという絶対的な自信が

 嫉妬などみっともないと告げていた。


(まぁ、あまりに立場が違うとそうもなるか)


 嫉妬も嫌がらせもないとすると

 次に懐妊するのは自分だと

 機会は巡ってきたという気持ちなのだろう。


(実際に、主上をお迎えできる体調ではないことは確かだし)


 つわりとはこんなにもひどいのかというほどつらいものだった。


 主上お気に入りの香も駄目で、

 食事に関しても粥くらいしか食べられない。

 栄養を考えればきちんとしたものを食べた方がよかったのだが

 そんな気持ちにはなれない。


 さて、これからの寵愛はどちらへ行くのか。


 噂を仕入れてきたのは次女として後宮入りから支えてくれているメイリンだ。

「主上は貴妃の方へかよわれているそうですわ」

「李貴妃様かぁ。どちらへ通われても納得だけれど勝ち目はないわ」


 正直な話、女の自分から見てもどちらも美人だ。

 勝ち目なんてないのが当たり前だけれども、

 李貴妃には教養が有り余るほどにある。


(こんな立場で選ばれなかったのなら李貴妃に仕えたいくらい)

 彼女の元で働ける侍女は幸せだろう。


「ちらっと見たら気遣いがすごかったですわ」

「そうでしょうか。きっと徳妃様の前でだけですわ」

 さみしく笑うしかない。

「だと、少しは憎めたのですけれど」


 お茶会に出ていると、いつも皮肉を言い、衝突しにいくのは淑妃の方で。

 どこか余裕のある貴妃である。

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