第5話 張淑妃の場合
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張淑妃の場合。
豊かではないが、それなりの平民のことして生まれたのが張。
下働きとして農夫にでも嫁げればと育てられていたところだった。
クリクリの目と栗毛色の髪。両親どちらにも似てはいない。
母は娘の容姿でいろいろと苦労したようだが、
父親の絶大な信頼があって様々な疑惑からは逃れたようだ。
凡庸な両親には似ていない容姿に気づかれ、
容姿が他の幼児と比べ優れていると気が付いてから育てられ方を変更された。
平民としての生まれだから働きもするし、
ある程度市民感覚を残して縁談が来たのだった。
琴や香、衣装のことについて興味があってできるだけの知識を入れた。
近くに香を専門に扱うことがあったから出入りしていた。
美容についての知識には長けた。
(三歳から進路変更したにしてはすごくまともに結果を出せているわ。今のところは。姐さんに感謝だわ)
淑妃の教養の多くは姐さんと呼ばれる近所の女郎からきている。
花街というわけではないが、そういう女性の出入りがある場所で育ったのも功を奏したのだろう。
ある程度教養のある娘たちを扱っている場所であったゆえに主上の寵愛を受けている。いつの時代にも二番目に。
生まれ故郷で美人と褒められるのはいつも二番目。
その後も色々な立場で比べられてきたけれどもいつも一番にはなれなかった。
その上、後宮でもまた二番目の扱い。
(妃になれるだろうか。子供さえ産めれば評価も変わるのだろう)
夜の指名はまだまだ少ない。
身ごもった子供を死なせてしまったのがとても大きい。
一番になってみたい。
痛烈な願いを胸に抱いて、商談の話やそのほかの日に主上やその周りの宦官たちの目に留まるようにそれとなくふるまって見せる。
(これも地道な努力よ)
いつの世も英雄は色を好むのだ。
だからこそ色香を失う前に子をなさねばならない。
早く準備が整えばいいのだ。帝のお通りは月に二度あるかどうか。
「早くお子が欲しいですわ」
「そうだな。早く男が欲しいものだ」
「ええ。聡明な子であればなおよいですわね」
かるく主上に匂わせてみても、雑な返答が返ってくるばかりだ。
「ああ、そのうちに」
(そのうちにと待っていたら私の旬が過ぎてしまうわ。何とかしなければ。もっと機会があればよいのに)
貴妃に負けているだけならば我慢もしよう。
三番目になるのは自分のプライドにかけて許せない。侍女の中で一番古参のものに相談を持ち掛ける。
「そういうことならば」
古参のものには頼れそうだ。
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