第6話 装備
倉庫の扉は木によって塞がれており、これはライゼンの固有能力による樹木の操作でしか開かない。
人っ子1人来ない大木の家の倉庫に何故こんな厳重な封がしてあるのかと聞けば、1人でに動き出す呪いの品があるのだとか。
それを言われても懲りずに俺が気になる物を見つけては、それにまつわるエピソードを聞いていたので、ライゼンは頻繁に倉庫の扉を開け閉めするはめになっていた。
そんなライゼンによって、再び扉が開かれる。
鬱蒼とした倉庫に、大樹の魔力を利用した明かりがポッと灯る。
薄暗いガラクタの山から、俺はお目当ての物を探り当てた。
「ライゼン、これ欲しい!」
そんな俺に、ライゼンは呆れた顔をする。
「だからそれは呪われとると言っとろうが……」
俺が手に取ったのは、鼻から下をすっぽり覆うマスクであった。
その表面にはぶっとくて鋭い牙が剥き出しにズラっと並んでおり、端は爬虫類のような黒い皮で縫い止められている。
なんとも禍々しい見た目をしているが、自分は舐められやすい雰囲気をしていると日本にいる時に言われた事があったので選んだのだ。
中学生の頃はいじめの的になりかけ、いじめっ子をとある方法で逆襲した事があったので、その対策である。
「どうよ」
早速装備して見せれば、ライゼンは苦笑いしていた。
「呪いのマスクなんじゃが……。 体に異常が無いなら好きにせい」
このマスクは、古に殺された龍の怒りと憎しみが込められているとの話があるのだとか。
実際つけた者が村人をマスクの牙で噛み殺す凄惨な事件があったらしい。
その村人を倒したライゼンが危険だからと引き取った結果、今俺の手元にたどり着いたのだ。
他にも、龍皮で作られた灰色のコートと、黒々とした棍棒を手に取る。
龍皮のコートは頑丈でありながら柔らかく、昔ライゼンが大勢と水龍を討伐した際に、素材の一部を貰って作ったと言っていた。
1部だけで作られたにも関わらず、羽織れば俺の全身を覆う程大きいので、水龍はどれほどの大きさなのか………いつかお目にかかりたいものである。
一方の棍棒は片手で持てる大きさで、黒々とした六角の鈍器である。
何かの骨が化石になりかけた物を加工したらしく、こちらも何人か殺っている曰く付きの品だが、使い勝手は良さそうだ。
ただ、もし難点があるとするのであれば……
「うむ。 禍々しいのう」
完成したのが、灰色のマントを羽織った牙剥き出し仮面だという点か。
他人から見ればヤベー奴だが、これでいい。
「これなら変なやつには絡まれんで済むでしょ」
「常識のあるやつは、それ以上に寄ってこないぞ」
「ごもっとも」
そればかりは妥協せざるをえない。
ないったら無いのだ。
「じゃがいくら威圧するのが目的とは言え、素手で持ち歩くのは面倒じゃろう。 少し待っておれよ……」
ライゼンは干してあったバイコーンの毛皮と自分で生やした蔦を使って、あっという間にベルトと鞘を作ってくれた。
ありがたく受け取り、早速装備する。
「やはり禍々しいな。 だが見た目に違わぬ実力はあるし、まぁ大丈夫じゃろう」
それを聞いてふと疑問が浮かぶ。
「俺って今、どれくらい強いの?」
ライゼンは少し考え込むと口を開いた。
「冒険者の中で言うなら、中の上辺りじゃな。
新人としては破格の実力じゃが、強いやつに喧嘩を売ればコテンパンにされるじゃろう。
自惚れるで無いぞ」
「了解であります」
俺TUEEEEとはならんらしいが、飯に困る事も無さそうだ。
あ、ちなみにだが、この世界には冒険者なる自由な仕事がある。
傭兵のような仕事からドブ掃除、定番のゴブリン退治など、言ってしまえば『戦える派遣社員』だ。
冒険者を纏めるギルドは国境を越えた組織であり、1度登録してしまえば身分証になるのだとか。
さて、これで欲しい物は揃った。
「実際に野営をしてみれば、他にも欲しいものが出てくるかもしれん。 ここは開けたままにしておくゆえ、好きに使って良いからの」
「あざーす」
出発は明日の早朝なので、あまり遅くならないようにするべきだろう。
その日の夜
フル装備で眠ろうとしたら、おもちゃをもらった子供かとライゼンに呆れられてしまった。
●●●●
「忘れ物は無いか?」
「大丈夫! 無かったら森で調達すればいいし!」
まだ朝焼けが空の端に残る頃、野営に出発する俺に、ライゼンが口酸っぱくして最終確認をしてくる。
「危なくなったら逃げるんじゃぞ」
「安全第一で行くよ」
「ムアとノゾムで、協力し合うようにな」
「分かってるって。 実力はライゼンが自分で太鼓判押してくれたでしょ」
「む、うむ……」
まだまだ言い足りない様子のライゼンだったが、不意に肩の力を抜いて、ふっと笑う。
「……楽しんできなさい」
そう言って、ライゼンは俺とムアの頭をぽんと撫でる。
誰かに頭を撫でられるなど、記憶に無いくらい久しぶりだ。
少し恥ずかしくなって、出発を急ぐ事にした。
「んじゃ、行ってきます」
「あぁ。 行ってらっしゃい」
遠ざかってゆく1人と一匹の背中を、ライゼンは見えなくなるまで見送っていた。
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