第143話 魔女、魔鉄を手に入れる

「アダルはどう思ってる?」

「そうだな、新しい区画が出来てそこに迷い込んだかもしくは……」

「転移系のなにかを踏んだかして戻れなくなった」

「まあ、そんなところだろうな」


 私とアダル、そしてダダンが付けてくれた案内役の三人で、アイアンゴーレムを倒しつつ遺跡を進んでいる。アイアンゴーレムというのは、人の形をしたまるでSFなどにでてきそうな機械じみたゴーレムになる。


 古代遺跡と一言で言っても色々な物があり、今いる古代遺跡は機械文明じみた作りになっているタイプになる。入口の方は洞窟になっていてある地点から継ぎ目のないまっ平らな通路となっていることから、ここは何らかの理由で穴をほっていたら遺跡に繋がったというパターンなのだろう。


 こういう機械文明っぽい遺跡にはだいたいアイアンゴーレムと言われる物が出てくる。いくら倒しても尽きることがない事から、どこかで絶えず追加で作られているのだろう。動力は魔石でほぼ全身が魔鉄と呼ばれる魔力を含んだ鉄でできている事から全てが素材として回収できる。


 ただし相応の重さがあるので普通は一体倒し回収をしたら戻ることになる。私やアダルの場合は収納があるので取り放題である。ダダンが未帰還者の捜索の代わりに分け前を受け取らないといったのは、収納という物を想定していなかったためだろう。


 ただしアイアンゴーレムが出てくる数が少ないので思ったよりも魔鉄が集まっていないのは私にとっても想定外ではある。一応必要な数は確保できたのでいいでしょう。そういう訳で今は未帰還者の捜索に専念している。先程の会話はお互いの考えをすり合わせるために聞いてみた。


「結構奥の方まで来たと思うけど、今のところ新しい区画が見つかったって雰囲気ではないわね」

「そうだな」

「あの、どうしてそう思うんですか?」


 私たちの会話に入ってきたのは、ダダンが付けてくれた案内役の青年だ。名前はラルダ、見た目は青い髪の優男だが音を鳴らさない足運びを見るに結構なやり手だとわかる。海賊というよりもどちらかと言うと斥候といった感じに思える。


「新区画が見つかった上に未帰還者が出たという割にはアイアンゴーレムの数が少ないからかな」

「それのどこがおかしいです?」

「もし新区画見つかったのなら魔物ないしはアイアンゴーレムの数が増えるはずなのよ。まあ必ずそうなるとは限らないけどね」

「そういうもんなんですか」


 ここのアイアンゴーレムはいくら倒しても枯れることがないことから、どこかで今も補充するための施設が動いているのだろう。そして閉ざされていたか隠されていた区画が見つかったのなら、そこを守っていたアイアンゴーレムが外に出て来ることで数が増えてもいいはずだ。その傾向が見られないことからただ単に新区画が見つかったとは考えられない。


「そうなると転移系の何かの可能性が高いな」

「もしそうなら問題は行き先がどこかだね」


 私とアダルは揃って顔を上に向けた。ただ単に天井を見上げたのではなく、以前に転移した時の事を思い出したためだ。あの時は成層圏に浮かぶ塔に飛ばされるとは思わなかった。さすがの私も成層圏から飛んで地上に戻れるかわからなかったので焦った。


「ラルダあれが最奥ってことで良いのか?」

「そうですね、あの扉の先が最奥になります」

「今のところ隠し部屋とか別の区画みたいなのは見かけなかったね。未帰還者の人たちってここまで来れるくらいの実力者なの?」

「ええ、全員がここまで来れますね。ただここまで来るのはめったにいませんけどね」

「魔鉄が目当てなら来る必要はないだろうからね。それでもここまで来ていたって事は魔鉄以外に目的があったと考えれば良いのかな」


 魔鉄目当てならアイアンゴーレムを倒して、その素材を持ち帰るのが普通の流れだろうから、わざわざアイアンゴーレムを回収しないで最奥であるここまで来るのはそれ相応の理由があったのだろう。


「さてと開けるか」


 罠の類がないか調べ終わったアダルがスライド式の扉を開く。昔は自動で開いたのだろうけど動力かもしくは開閉の機能が壊れているのか手動で開けないといけないようだ。ただ扉は錆びているわけでもないようで、重さを感じることもなくスムーズに開いた。扉の先は通ってきた通路と同じで、非常灯がついていて意外と明るい。


「特に何もねーな」

「そうだね、ここより先に繋がる扉も通路もなさそうだね」

「そうですね、以前来たときと変わりないようですね」


 部屋の外から中を覗くと、中は十畳ほどの広さがある部屋があるだけだった。


「んーなんだろう、なんか違和感が……」

「エリーもそう感じるか」

「違和感ですか?」


 何もなさすぎるとでも言えば良いのだろうか、そもそもアイアンゴーレムが部屋の近くにも中にもいないのがおかしい気がする。


「どうする?」

「入るしか無いんじゃねーか?」

「未帰還者を探すのならそうなるよね。ということでラルダはここで待機ね、何かあったらここに人を入れないようにしたら大丈夫だと思うってダダンに知らせて」

「なにかあるんですか?」

「多分ね。何があるかわからないけどね。ちなみにラルダはここから一人で帰れる?」

「それは問題ないです。アイアンゴーレムにも魔物にも見つからずに戻る自信はあります」

「そう? それじゃあ私たちに何かがあったらよろしくね。あと伝言をお願いできるかな」

「伝言ですか?」

「それと届け物もお願いするわ」


 私は今日回収した魔鉄を全部取り出してから、収納袋を取り出してすべていれる。


「それって収納袋ですか」

「そうよ、これを街の何処かにいるティッシモっていうエルフの吟遊詩人に渡してもらえるかな。依頼料は金貨一枚でどうかな」

「わかりました、その依頼受けます」


 金貨が効いたのかあっさり請け負ってくれた。


「ティッシもには後はよろしくとでも言っておいて」

「俺の方もギーラに後は任せると言っておいてくれ」

「わかりました」


 今日会ったばかりのラルダを信用して良いのかというものはあるけど、不義理を働くなら戻ってきてからダダンに何とかしてもらえばいいと思っている。


「何も無い可能性もあるけど、それじゃあアダル行きましょうか」

「おう」


 私とアダルそれからローブのフードの中で寝ているガーリーは、ラルダを残して部屋の中へ踏み込んだ。

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