第139話 魔女、ギルドを尋ねる

 ヒューボルトの街にある冒険者ギルドは閑散としていた。建物も他の街にあるギルドと比べて小さく、受付も一つしか無い。その上解体などを請け負ってくれるような場所も見受けられない。極めつけは依頼の張られているはずの掲示板には何も張られていない。


「あの、ここって冒険者ギルドでいいのよね?」


 受付で居眠りをしている女性に声をかけてみるが起きる気配がない。仕方が無いので軽く肩を揺すってみるが起きない。続けて強く揺することでやっと目が覚めたようで、ふぁーと言いながら伸びをする。


「あ、あら、ごめんなさいね。昨日飲みすぎちゃって」


 暫く目をしばしばさていた女性は、私を見てそう言ってきた。


「ん? 初めて見る顔ね」

「昨日ここ着いたばかりだからそうでしょうね」

「あ、あはは、私はリンだよ、よろしくね。こほん、冒険者ギルドヒューボルト分所へようこそ。見ての通りこんな場所だけど何かようかしら?」


 分所ということは本所というか、本部がどこかにあるのだろうか?


「ほしい素材があってね、このあたりの魔物の分布図があればほしいかなと」

「魔物の分布図ですか? 少し待ってくださいね」


 リンダは立ち上がると、受付の奥にある小さな棚をゴソゴソとあさり始める。


「あった、けど、これは十年前の日付になっているわね。他には……」


 暫くごそごそと続けたあと、面倒くさくなったのかそれらしい物をまとめて持ってきた。


「この辺りだと思うのだけど、一番新しいので五年前のものになるみたい」

「見させてもらってもいい?」

「どうぞどうぞ、好きに見て頂戴」


 リンダはそう言って全ての資料を差し出してきた。ドレスレーナでは一般的に広まっている植物紙で書かれたものは一枚もなく、全てが丸められた皮紙なためにかさばって仕方がない。ただしギルドを見回してもテーブルもなければ座れる椅子の類も見あたらない。


「えっと受付の横の方使ってもいいかな」

「どうぞどうぞ」


 リンダが受付の真ん中から端の方へ移動してくれたので、空いた場所で一枚ずつ開いて年代別に並べてみる。一番古いもので十年ほど前のようで、一番新しい物は三年前の物になるようだ。


 欲しいものは飛竜の被膜にアイアンゴーレムから取れる魔鉄なのだけど、三年前の物には表記がない。ただし飛龍に関しては八年前に書かれているので、まずはそこへ言ってみるのがいいだろう。


「海の魔物に関する資料はないのかな」

「海は海運ギルドの管轄ですね」

「あー、そういう感じになっているのね」

「あちらはここと違って盛況ですけどね。まあこっちは楽だからいいのだけど暇すぎるのもね」


 どうやらここの冒険者ギルドは陸だけしか対応していないようだ。海竜あたりの皮も欲しいのだけど海の方はまた別に考えないと駄目なようだ。


(まあ海の上で釣りでもしていれば多分釣れるでしょう。問題は海竜がピンポイントに釣れるかどうかだろうね)


 大体方針はまとまった。問題はゴーレム系になるけどここではこれ以上情報は得られないかな。


「リンダありがとう、大体わかったわ」

「そう? まあこんな所で良ければいつでも来てもらっていいわ」

「気が向いたら寄らせてもらうわ」


 リンダと別れてギルドを出る。とりあえず飛竜がいた記録がある場所まで行ってみるしか無いかな。時間はまだ昼前なので、屋台で適当に食べ物を買い集めて収納ポシェットへ入れていく。


 ちなみにガーリーは朝から勝手に情報収集をするために出ていった。今のガーリーは猫の言葉もわかるらしく、だいたい新しい街にたどり着くと色々と面白い情報を見つけてきてくれる。


 港町ということで海産物が多い、この辺りではイカやタコに忌避感がないようで普通に足の串焼きが売られている。他にはスープの類が多いようだ。海藻が使われていていい出汁がでている。


 流石に露天で刺し身は売っていないのだけど、そのうち手持ちのお米を使って海鮮丼でも作りたいものだ。この街までの船旅では食べることが出来なかった貝の類が焼けるいい匂いが私の食欲を誘う。使われている調味料は醤油ではなくて魚醤のようだけどそれはそれで美味しそうだ。


 それにしても街のそこかしこに孤児らしい子供がいるのが見える。この街の冒険者ギルドがあんな感じなので、ドレスレーナ王国にある冒険者ギルドのように孤児や子供の為に依頼を出すということがないのだろう。代わりに幅を利かせている海運ギルドがそう言ったことをしているようにも思えない。


 ヒューボルトに来るまでに、ドレスレーナ王国以外の冒険者ギルドを見た。どこのギルドもドレスレーナ王国にあるギルドのように、ウッドやブロンズのために依頼を集めて提供するようなところはなかった。


 改めてドレスレーナ王国は冒険者の国だといい切れるくらい、あの国の冒険者ギルドは冒険者をひいては冒険者候補の子どもを育てる特殊な国なのだと思わされる。


 一通り屋台での買い物を終えて街の外を目指す。門兵はいるが陸地に関してあまりやる気が無いようでギルドカードの確認などもなく、あくびをしているだけで素通り出来る。


 実際の所このヒューボルトの街に来るには陸でくるのは結構面倒くさかったりする。途中までは街道が整備されているがこの土地を囲むように連なっている大山脈には街道が通っておらず、人が二人並んで歩ける程度の道しか無いようだ。


 そんなわけでわざわざ大山脈を超えてくる人は少なく警備もおざなりなのだろう。暫く街道を進み街から見えなくなった辺りで杖に横座りして空へ上がる。空を飛び向かう先は八年前に飛竜が確認された場所だ。

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