第138話 魔女、男たちを転がす

 港町、そして酒場。これだけの条件を並べたら何を思い浮かべるだろうか。最初は野次を飛ばしていた外野の姿も既にない。私の足元に屍のように倒れ伏す日に焼けた肌の海の男達。


「おめえさんすげーな」

「そう?」


 手に持つジョッキに残っていたお酒を飲み干してテーブルに置く。


「今日は店じまいだな」

「あはは、これじゃあ仕方ないよね」


 私が何をしていたかというと、たまたま目についた酒場に入りなにか食べようと思った所で絡まれた。そこからは、あれよあれよといううちに飲み比べ大会になりその結果が完全に酔いつぶれた男たちというわけだ。


「お前はどれだけ飲んでも酔うことはないのか?」


 ガーリーが肩に飛び上がってくると呆れたようにそうつぶやいた。


「そんなところだね。それより美味しい魚介を食べられるいい店とかないですか?」


 自分の飲んだ分のお酒代として金貨一枚を差し出す。


「酒大は敗者のこいつらからもらうからいい。魚介の美味しい店か、どの店もうまいといえたらいいのだがな、地図を書く少し待ってくれ」


 酒場の店主が適当な布に炭で地図を書いて渡してくれた。


「そこは俺の知り合いの店だ。身内びいきとしてもこの港で一番うまい店だ」


 地図に書かれた店はここからは少し離れた場所にあるようだ。


「ただしそこは酒は出ないがな」

「あはは、純粋に美味しいご飯が食べたいだけですよ。ありがとうございます早速いってみますね」


 倒れ伏す男たちの間を踏めないように抜けて酒場から外に出る。改めてあたりを見回すと、この場所は酒場が集まっているエリアになっているようでそこかしこで酒盛りが行われている。


 ただここにいるのは真っ当な船乗りというわけではなく、ほぼ全員が海賊のようだ。ただ比較的に真っ当な? 海賊のようで血の匂いや陰気のような物は感じられない。海賊と言っても商船を襲い人を殺し積荷を奪うばかりではない。


 この街の海賊は護衛もするし、商船を襲っての略奪もする。その時その時の時世によって変わるので、まとめて海賊と言われている。魔物の数が増えれば護衛で稼ぎ、魔物が少なく慣れば商船を襲う。その襲ってくる海賊を倒す海賊がいたりと結構混沌としているのがこの街の実情のようだ。


 それらをコントロールしているのがこの街を牛耳っている商人たちであり海賊団だというわけだ。現在の街の方針は多い魔物から商談を守る方になっているようで、昼間から飲んだくれている男たちは、商船を護衛して来た海賊たちとなる。


「外からでもわかる、この匂いは当たりだね」

「確かに美味しそうな匂いが漂ってくるな」


 さっそく店に入ると女性の店員が案内をしてくれた。一瞬私の肩に乗っている黒猫の姿に驚いた表情を浮かべたが空いている席へ案内してくれた。そして出てきた物はどれも美味しかった。


 小洒落たお店ではなく、そして酒場のように酒飲みがたむろする類の店でもない。町民のための食堂のようだ。そしてこの店は宿もやっているようで一階の食堂から見える二階部分には複数の扉が並んでいる。


「ねえねえお姉さん、ここって宿もやっているの?」

「やっていますよ、空きもありますね」

「ペットは可?」


 店員の女性はちらりとガーリーを見てから、大丈夫かなとつぶやいてから頷いた。


「部屋を汚したり傷つけた場合は修繕費をもらうことになりますけどそれでもいい?」

「そう、それならお願いできるかな」

「一泊素泊まりで銅貨五枚、二食付きなら銀貨一枚。別にお湯とかいる場合は別離料金になるけど」

「それでお願いするわ。食事も美味しかったからね」


 とりあえず十日分として金貨一枚を差し出す。


「確かに、少し待っててね帳簿と部屋の鍵を持ってくるわ」


 そう言って食べ終わった食器を手に持ち厨房へ下がっていった。カウンターの奥に目を向けると、目付きの悪い四十代くらいのおじさんが私を見てから先程の女性店員に頷いて返しているのが見えた。


「おまたせ、ようこそ海鳥亭へ。わたしはリーリャよろしくね」


 青い髪をした二十歳くらいの店員さんがそう言って鍵を差し出してきた。私はそれを受け取りながら名前を名乗る。


「私はエリー、この子はガーリーよ、よろしくね。今日この街に来たばかりだから色々と教えてもらえると助かるわ」

「部屋は階段を上がって一番手前になるわ。食事は店がやっている時間ならいつでも出せるから好きな時に言ってね。ちなみにあそこの目付きが悪いのは私の父よ、別にに機嫌が悪いわけじゃないから気にしないで」

 

 カウンターの奥にいる目つきの悪い男性に目をやると、会釈をしてきたので会釈し返す。顔つきだけ見ると殺し屋に見えるけど、そうでもないのだろう。


「ありがとう、暫くお世話になるわね」


 一度部屋を確認するために階段を上がり鍵を開けて中に入る。部屋の中はベッドが一つだけで、それ以外はテーブルもない。ただ周りの建物が一階建てなため、窓から海が見えるのはポイントが高い。


「暫くここに滞在するのか?」

「まあね、とりあえず素材集めも必要だから魔物の情報とかも欲しいね」


 窓を開けて連絡用の魔石を取り出してからアダルとシオンの二人へと暫くヒューボルトに滞在すると連楽をしておく。明日はギルドでいい素材になりそうな魔物がいないか調べないといけないね。


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2024年8月26日にて、書籍化するよーと言っていいとご報告をいただきました。

近況にてご報告させていただきましたので、ご存じの方もいるかも知れませんがこちらにも書いておくことにいたします。


現在改稿作業中になりますが(実は6月辺りからやっていて今第三稿ですね)、webと現在改稿している書籍予定のものとは書き方など変わっております。そしてめちゃ加筆もしています。逆に加筆しすぎて減らす作業も含めての第三稿です(=^・・^=)。

それでOKが出るかはまだわかりませんが……。


今後の詳細などは、許可が出た段階で追って文末や近況などでご報告させていただこうと思います。


ということで今後ともwebエリーさんをよろしくお願いいたします。

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