第137話 魔女、憧れを語る

「それじゃあどういう船がほしいかをまずは聞こうか」


 ジオールの船を一通りいじくり回し満足したのかシオンに応接室まで案内され、早速船についての話をする事になった。


「要望としては一人で操船できることくらいかな?」

「それだとあまり大きくなくていいってことだね」

「そうなりますね、後は外洋に出ても大丈夫なものって所かな。荷物のたぐいは収納の魔導具があるのでそのためのスペースはあまり要らないですね。その代わり居住性を重視してもらえると嬉しいです」

「ふむふむ、居住性重視というのは面白いね。いつぞやアダルが持ち込んだ小舟を二回りほど大きくした感じでいいのかな」

「そのアダルが持ち込んだ船がどういうものかわかりませんが、そうですね」


 私はそこである船が頭に浮かんだ。収納から紙とペンを取り出し頭に浮かんだ船の絵を書いてシオンに差し出す。


「こんな感じのを作れるかな?」


 まずはシオンに外観を書いて渡し、続いて内装を書き込み追加で渡す。


「ほう、面白いね。これならそこまでの大きさでもないし居住重視という意味もわかりやすい」


 私がシオンに書いて渡したの船の絵は、いわゆるあこがれの大型クルーザーというものになる。ああいうのって一度乗ってみたいと思っていたのだけど、結局実物を見ることすらなかった。


「形も面白いが、これは実際に作ってみないとちゃんと動くのかはわからないね。それにこの部分はガラスというわけではないだろ? 流石に普通のガラスだと強度的に問題があるなだろう」

「あーそうですね、その辺りは私がなんとかします」


 作ったことはないけど強化ガラスのような物が必要そうだ。居住スペースから外の様子が見られないと何か会った時にとっさに行動できないからちゃんと外は見れ他方が良いだろう。


 いま世間に出回っているガラスは強度がイマイチで割れやすい。逆に厚みを増すと割れにくくはなるが透明度がどうしても悪くなる。そこで錬金術で強化ガラスを作ってみようと思ったわけだ。すぐには出来ないだろううけど、自前のクルーザーのためなら作ってみせる。


「問題は強度だろうね。外面は普通の木材だと問題がありそうだね」

「そうですね、その辺りの材料もなんとかしようと思います。案としては金属板を貼り付けるとかですね」

「ふむ、大きさを考えると金属板を貼り付けてたとしても、動力も事足りるだろう」

「あとは内装はできるだけ作る段階で一体化させてほしいですね。そうしないと船が傾く度に悲惨な状況になりそうですから」

「それくらいな問題ないな。それにしてもその発想はアダルの持ち込んだ小型の船を大きくしたものと似ているな。後でそれを見せてあげるから、素材を用意する参考にすると良い」

「それは助かりますね。よろしくお願いします」


 そこからも細々とした話し合いしていたらすっかり夜を通り越して翌朝になっていた。正直ここまで船一つで話が盛り上がるとは思わなかった。


「いやー、ここまで付き合わせて済まなかったね」

「いえ私も楽しかったです」

「それでは動力と内装部分は任された」

「私の方は窓と外に貼り付ける金属素材をなんとかしますね」


 お互いの厚い握手を交わし船造りに取り掛かることになった。



 私は今ヒューボルトの街まで来ている。港街ヒューボルト、この街はどの国にも属していない独立した街になっているらしい。もともとは海賊が作り上げた街で、周辺の国との戦いに勝利し続け最後は不可侵の街となったという経緯がある。


 今となっては海賊の街だった面影はなく、様々な地域から色々な物が一度集まりそれが再び陸路と海路を使って大陸中に運ばれる倉庫のような趣の街になっている。早い話が商人の商人による商人のための街へといつしか生まれ変わったのだとか、表向きは。


 いつどういった理由でそうなったのかは世間には知られていないけど、表向きは商人が仕切っている事になっている。ただアダルが言うには今でもこの街を仕切っているのは海賊なのだとか。それはそうだよね、街を作り出した海賊がいつの間にか居なくなるわけではないので、当たり前といえば当たり前の事だろう。


 ヒューボルトの街にやってくる時に上空から見た街はあまり整然とはしていなかった。港に近いほど、どこか窮屈な作りになっている。もともとの街がそういう作りだったからかもしれない。年数が経つに連れ港から離れた部分が拡張されていったのがよく分かる。


「ガーリーなにか食べたいものとかある?」

「肉」

「ガーリーってネコなのに魚じゃなくていいの?」

「魚は飽きた」

「まあその気持はわかる。船の上だとお肉って貴重だったからね。そう言うことならお昼はお肉だね」

「うむ」


 船の上だと自然と釣った魚になることが多い、ただ私の収納ポシェットにはいろんな食材が入っているので特に困るということはなかった。ただ、まあ、このなんと言ったら良いか、出来立ての美味しいお肉をたまに食べたくなる。そういうことってあるよね?

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