第136話 魔女、別れを切り出す

「ほうほう、これは面白いね」


 さっそく港でジオールの元幽霊船を見て回っているシオン。


「あれ止めなくていいの?」

「元々シオンへの土産として持ってきたものだからな、それにシオンが調べてなにか分かれば今後の船にも使えるだろ。エリーも船を頼むなら最新のほうがいいだろうからな」

「それはそうだけど、最新と言ってもね」


 今建造中の大型船を見ても旧来のモノと同じに見える。鉄甲船のように鉄板を貼り付けているわけでもない。まあアダルの船は帆や漕ぎてがいなくても海を走ることが出来るので、そう言う意味では最新式なのかもしれない。


 ちなみにアダルの船には魔物避けの超音波のようなものを発しているので小型の魔物は襲ってこないようになっている。ただ逆にその超音波を不快に思った大型の魔物には狙われることもあるのだとか。ただそういった大型の魔物は大体深海にいるので反応するものが少ないようだ。


「それでエリーはどういった船を頼むつもりだ?」

「前にも言った気がするけど、大きさは特に大きくになくて良いかな。どうせ乗るのは私とティッシモくらいだろうからね。あとはアダルの船のように自走出来る感じでできればいいかな」

「このまま俺の船で共に旅をするという手もあるが?」


 確かにそれはそれで良いかも知れない。ただそれだと気軽に内陸の国は回れないというのは余り良くないと思う。それに結局私たちとアダルたちとは生きる時間が違う。今はいいけどきっとそのうち別れることになるのはわかりきっている。


「まあ、ほらアダルの目的の古代遺跡だけど海沿いだけってわけではないでしょ? 私もこの古代遺跡には興味があるし海の周辺はアダルが担当して内陸は私が探すというのもいいと思うのよ」

「それは、たしかにそうかもしれんな。俺が生きているうちにすべて揃えることができれば良いのだが……」


 アダルの寿命はまだまだ先だろうけど、いつまでも現役として冒険家を続けられるわけではないのだろう。言葉には出していないがアダルも私との共にいられる時間が同じではないというのはわかっているのだと思う。


「まあ船を頼んでも材料集めやそれに伴って船が出来るまでは時間がかかるでしょ? それも考えて一旦ここで陸路でドレスレーナまで戻るのもいいかなと思ってね」

「そして俺が海路であっちに言って再びここに戻ってこようってことか」

「そうだね、陸ならアダルたちが行けなかったところなんかも行けるからね」

「例えばエルフが住む森とかか」

「そうそう、ああいう所にも古代遺跡の一つくらいあってもいいと思わない?」

「ただの人間じゃああそこは入れないと聞いている、エリーなら大丈夫なのか?」

「ティッシモもいるし知り合いもいるからユグドラの森なら問題ないかな」

「それは羨ましいことだな」


 心底羨ましそうにそういうアダルは、古代遺跡に関わらず未知への探求というものに魅了されているのだろう。古代遺跡を巡るきっかけも腕にはめている腕輪の宝石がすべて揃った時に何が起こるかという好奇心からきているのだろう。


「問題の連絡方法はこの腕輪の通信機能がどのくらいまで機能するかだけど、念の為にこれを渡しておくよ」


 私は収納ポシェットから通話用に魔文字を刻んだ親指サイズの魔石を何個か取り出してアダルに渡す。


「この魔石に魔力を流しながら声をいれた後に、硬い地面にでも叩きつけて割れば私に言葉が届くようになっているから」

「わかった預かっておく」


 アダルは腕輪から小袋を取り出してその中に魔石をいれると腕輪の収納に入れている。なんやかんや言っても結構長い間一緒に旅をしていたから寂しくはある。


「まあ今すぐに別れるってわけでもないでしょ。お互いに補給もいるだろうしヒューボルに向かうでしょ?」

「それもそうだな、こっから歩いて行くのは結構手間だからな」

「一応歩いていけるんだ」

「行けるが崖を越えたり川を超えたり、魔物も巣を作っているしと結構手間ではあったな。俺もここに最初来た時に船が出来るまでの暇つぶしにと思ってギーラと一緒に行ったら大変な目にあった」

「それはそれで興味深いけど今回はアダルの船でお願いするよ」

「おう」



 結果的にジオールの船は結構なお値段で買い取られることになった。シオンが言うにはあの元幽霊船は本物の幽霊船だったようだ。試しにマストからボロボロの帆を外して新しいものと交換してみた所、しばらくするとその新しい帆が最初のようにボロボロの帆に変わっていたのだとか。


 それと同じく一部板を剥がしてみた所その剥がした部分がいつの間にか新しい、というよりは古い板が再生していたようだ。魔物化とでも言えばいいのかそういうものになっているみたい。長い間幽霊船として活動していたためにそうなったのだろう。


 そういった事も含めての値段となったみたいで、アダルの船の船員たちにもボーナスとして振る舞われることになった。こうなってしまえば当たり前のようにお金を使うために近くにあるヒューボルの街へ行こうとなるわけだ。


 ただし私はまだどういった船を作るかという話をしていないので結局お留守番となった。そのためにお買い物はティッシモにお願いして、後ほど街で合流することにした。私一人だと空を飛んで行けばいいわけだからね。ガーリーも一緒なので昔見たアニメのような魔女っ子ごっこが出来るわけだね。

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