第135話 魔女、SFに出会う

 エレベーターもそうだけど、この場所も古代遺跡と思われる見た目をしている。地球の文明よりも進んでいるというか、まるでアニメなどに出てくる機械文明のような感じだ。


 鉄で覆われた密室に、空調の効いた室内は熱くもなく寒くもない。天井から降り注ぐ灯りも天井自体が発光していて電球のようなものもないようだ。正面のテーブルの上にはノートパソコンのような物が置かれていて、女性がその蓋を閉じた。


 私とアダルが近寄るのに合わせて白衣の女性も立ち上がりこちらへ向かってきた。女性は私の姿を上から下まで見た後に手を差し出してきた。


「私はササラギシオンだ、名前がシオンなのでシオンとだけ呼んでくれていい」


 私はその手を取り握手をする。


「私はエリーよ、よろしくお願いします」

「立ち話も何だ少し移動しようか」


 シオンはそう言って握手をしていた手を放して左手の方に移動する。入ったときには気が付かなかったがそこにはテーブルとソファーが備え付けてあるのが見えた。それにしてもシオンということは転生者なのかな? 金色の髪にメガネをかけているけど顔立ちはこちらの世界の様相をしている。


「すまないね、お茶の一つでも出せれば良いのだけどここでゃ飲食禁止なんだ」

「いえお構いなく」


 私の返事に頷いてからシオンがアダルに視線を送る。


「エリーは私に依頼があるということはアダルから聞いている。珍しい素材なんかも持っているということもね」

「どう聞いているかはわかないですけど」

「おっとかしこまった話し方はしなくて良い、私もこうだからね」

「そう? それならそうさせてもらうわ」

「それで頼むよ」

「えっと、そうだね依頼というのは船を作ってほしい。大きさは気にしないけど外洋を超えられて一人でも操船可能な船をね」

「ふむ、可能かどうかと聞かれれば可能だ。ただ作ったことのないものだからね色々試しながら作る必要がある。外洋を超えるというのが特に難しいかも知れないな実際に外洋へ出て戻ってこれた船というものを来たことがないからな。それでも強度をなんとかすれば行けるだろう」


 外洋から戻ってきた船、一つ心当たりがある。アダルに視線を向けると黙って頷く。同じ考えに至っったようだ。


「外洋から戻った船なら一つありますよ、今も港に持ってきています」

「ほうそれは興味深いな、詳しく話してもらえるだろうか」


 そういうわけで、ジオールの海賊船の話をする事になった。手に入れた経緯やそこで手に入れた日記を手渡したことで今はそれをパラパラとめくっている。


「北の氷に覆われた大陸か、それの他にも謎の闇に包まれた場所にたどり着き戻ってきたというわけだな。実に興味深い」


 また後で読ませてくれと言ってシオンがアダルに日記を返すと立ち上がり「早速船を見させてもらえるかな」といってエレベーターの方へ歩き出す。私とアダルは急いで立ち上がるとその後へ続く。


「エリーは余りこの施設に驚いていないようだね。アダルと共に似たような遺跡を巡ったということでいいのかな?」

「そうなるね、いくつか古代遺跡は行ったかな。ただここみたいにまともに動いている遺跡は無かったね」

「俺もここを見た時は驚いたな」


 私よりも古代遺跡に詳しいアダルでさせもちゃんと稼働している遺跡は珍しいようだ。そもそもこの古代遺跡自体がどれくらい前のものかもわからない。滅んだ理由は獣人大陸の北側にように何か禁忌を犯して滅んだと考えるのが自然だろう。


 よく見てみるとシオンの腕にもアダルやギーラが持っている腕輪と同じようなものがあるのが白衣の長袖からチラリと見えた。私もアダルから渡されている腕輪だけど古代遺跡を動かすのに必要なものなのだろう。


 SF的な考えからすると市民IDとかそう言うものが連動しているのかも知れない。そう考えると遺跡ごとに反応する腕輪、というか腕輪に付いている宝石が違うのも頷ける。アダルの腕輪だけは特別性なのか複数の宝石を付けることが出来るようになっているのは、王族とかそういう古代遺跡時代のトップなどが使っていたものなのだろう。今はその宝石自体二つしかついていないけど、あれが全て揃ったら何が起きて何が出来るのかというのは気になるところだ。


 エレベーターで入口ホールまで戻った所でシオンは白衣を脱いで腕輪の収納にしまい込み代わりに黒いコートを取り出してそれを羽織る。


「ここで白衣は目立つからね」


 コートを羽織ったシオンについてビルの外に出る。


「ちなみに上の方は私の生活スペースになっているし、二階や三階は表の客をもてなすために設えている」


 一度振り返りビルを見たためかそう説明してくれた。この感じだと地下の部屋はあそこだけではない感じかな。普段は見えない所に緊急脱出用の通路なんかもあるのだろう。そうしないとなにかがあった時に生き埋めになったりすることもあるだろうからね。


 それにしてもこの世界というか、この大陸の古代の文明レベルがよくわからないね。魔導具作りあの変態が生まれた時代よりももっと古い時代の遺跡が今も動いているのも意味がわからない。


 過去にこの大陸を滅ぼした魔女たちはわざとこういう遺跡を残したのだろうか? まあ流石に何百何千年も動き続けるとは思っても見なかっただけな気もする。その答えは遺跡を巡っていけば分かる日が来るのかも知れないね。

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