第134話 魔女、地下へ下りる
「見えてきたぞ、あそこが目的の造船場だ」
アダルの指し示す先を見ても海岸があるだけで特に何かがあるように見えない。どうやら何らかの方法で隠されているようだ。そのまま船は進んでいくと海岸の一部が左右に開き始める。
手動で開閉しているようには見えない事から、機械仕立てだろうか? かなりスムーズに開いていく。崖が開き切り船が進めるほどの洞窟が現れる。何も知らない人が見たらそこが造船場だとは思わないだろう。よくよく見てみると崖の上には監視塔のような物が隠されているのが見える。
「こういうのって他の船員に見せてもいいものなの?」
「ああそれなら大丈夫だ、こっちのルートはここで作られた船じゃないと開かないようになっているという話だからな」
「確かこの船ってアダルとギーラしか動かすことが出来ないっていってたよね」
「そうなっている、だから奪われる心配はないわけだ。それにここのことは近くにある港町で聞けばすぐに分かることだからな」
「そうなのね」
船が洞窟に入ると、洞窟内は灯りが灯っていて意外と明るい。他の船員もキョロキョロと珍しげに辺りをうかがっているようだ。暫く進むと広い場所にたどり着いた。そこは船着き場になっていて他にも一隻船が泊まっている。それ以外にも作りかけの物が一隻あり作業をしているようだ。
船は滑るように空いている桟橋へ横付けされて止まる。いつ見てもアダルの操船はうまいと思う。性格は豪快なのに船の操作となると繊細なんだよね。
「それじゃあ俺は話をしてくる、お前らは卸す荷物と下船の準備をやっててくれ」
アダルはそう言うと下に垂らしたロープを掴み船から降りていった。港にいた出迎えの男とともに奥へ進んでいく。ギーラと他の船員が忙しく動いている中、私とティッシモとガーリーは手持ち無沙汰だ。一応私たちはお客様という立ち位置なので手伝いなどはしていない。
思ったよりも結構な人数がここで働いているようだ。てっきり秘密の造船場なのかと思っていたけど実際はそうでもなさそうだ。暫く待っているとアダルが戻ってきて下船の許可が下りたということで下船を始める。上り下りは縄梯子を使い荷物は木製の組み立て式のクレーンで下ろしていく。
「おうエリーはちょくら着いてきてくれ」
「私だけ?」
「その方が良いだろうな。ギーラ後は任せる積荷を引き渡したらいつものように」
「おう任せておけ」
アダルがギーラにそう声をかけた後に、私を先導するように歩き出す。私だけってことだけどガーリーが肩に乗ったままなのは何も言われないので、一緒に行っても良いのだろう。
港を抜けるとそこには宿屋や酒場に商店が立ち並んでいて小規模の街にも見える。
「ここは?」
「造船所で働いてる奴らのための施設だな、こんな立地だから近くの街にもなかなか行くことが出来ないわけで作られたらしいな」
「そうなんだ」
「まあここにいる奴らの大半は訳ありだったりするからな、街に行けない奴らもいるのも理由だな」
「元海賊とか?」
「そんな感じだ。といってもヒューボルトの街もここのことは把握しているからな特に揉めたりはしない」
洞窟の中なのにずいぶんと明るいのだけど、どうやら天井が発光しているようだ。魔力の流れを感じないので全く原理はわからない。もしかするとこの造船場は古代遺跡の類なのかもしれない。
街の中を暫く進むと正面に石造りの建物が経っているのが見えた。その建物は一言でいうと五階建てのビル、あちらの世界だと見慣れた鉄筋造りのビルだ。全ての階にずらりと窓が付いている様はこの世界では異様と言っていいだろう。
「すごいだろ、俺も始めてみた時は驚いたもんだ」
つい立ち止まった私にアダルはそうなるのは分かるといったように頷いている。
「ほんと驚きだね」
再び歩き始めたアダルに着いていきビルの入口にたどり着くと自動ドアがスライドして開く。中に入ると一階には何もなく奥にエレベーターと思われる物があるのが見えた。アダルは慣れているようでそのまま進みエレベーターの開閉スイッチを押して中に入り私に向かって手招きをする。
エレベーターの感じを見るとなんだかあちらの世界のものよりも出来が良い気がする。見慣れた一から五の数字は移動する階を示しているのだろう。ただアダルはそのボタンを押さずに腕輪から一枚のカードを取り出して読み取り機にかざす。
カードの情報を読み取ったのか階を示すボタンの下がスライドして開、新たにボタンが一つせり出してくるのが見えた。なんと言ったら良いのかな、ファンタジーがいきなりSFになった気分だ。
こういうのってアニメや映画でしか見たこと無い。それをこの魔力が基本の世界で見ることになるとは思わなかった。この施設が古代遺跡なのだとするとこれが普通にあった時代はあちらの世界よりも文明的に発展していたのかもしれない。
アダルが新たに出てきたボタンを押すと、エレベーターの入口が閉じて動き出す。かなり早い速度で動いているの、私の体はあの懐かしい浮遊感に包まれた。エレベーターは上に行かずに地下へと下りていっているようだ。
「エリーは大丈夫か? どうも俺はこのふわっとする感覚に慣れないんだよな」
「なんだかヒゲがピリピリする」
ガーリーの尻尾の毛が逆立っている
「私は大丈夫だよ、それにしてもすごいね」
「似たようなものは古代遺跡でたまに見るがな、ただ使えるものは珍しいな」
そうこうしているうちにエレベーターが止まり入口が開いた。アダルが先に出て私はもエレベーターから降りると、部屋の奥に白衣を着た女性が座っているのが見えた。女性は私たちに気がついたのか顔を上げこちらを見てきた。
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