第133話 魔女、お小遣いを得る

「それで結局さっきのあれはなんだったんだ?」


 甲板まで出て来た所でアダルにそう訪ねられた。


「さあ? 良くないものとしか言えないかな」


 実際よく分からなかった。ただあれほどの瘴気が人型の像の中で蠢いていたのはただただ気持ち悪かった。


「どうやらジオールだけではなく他の骨どもも解放されたようだな」


 ガーリーが言うように辺りを見回しても骨の船員は見受けられない。それどころか霧も晴れる太陽が降り注いでいる。


 そう言えばジオールも船員も魔石を持っていなかった。つまり彼らは魔物でも無くアンデッドでも無かったと言うことになる。一人くらい残っていたら色々調べたかった気もする。


 結局彼らはあの人型の像の中にいた瘴気に捕らわれていたと言うことだろうか? ただ理由も目的も分からないのは不気味だ。


 多分その答えを得ようと思えばジオール達が立ち入ったという世界の端へ行かないとダメなのだろう。


 その世界の端というのもよく分からない。この世界は地球と同じでちゃんと球体型の惑星だし宇宙もちゃんと存在する。


 つまりジオール達が世界の端と思った物は獣人大陸の北部と同様に闇に包まれた大陸だったのではないだろうか?


 そこでジオール達は何かと遭遇し、その上で帰されたと言うことになる。その時点で既に骨になっていたのかは既に消えてしまったジオール達に聞くことも出来ないので謎のままというわけだ。


 そんな考え事をしながら渡し板を超えてアダルの船に戻る。それと同時にアダルの指示で持ち幽霊船の探索と牽引のために船員があちらへ渡っていく。


「結局この船も持って行くの?」

「このまま放置と言うわけにも行かないだろう。それに二百年前の物とは思えないぐらいきれいだと思わねえか?」

「確かにボロボロなのは帆くらいだね」

「もしかすると好事家が高く買ってくれるかも知れねーしな」


 元幽霊船は年期は感じさせるが二百年前の物とは思えない、もしかするとあの瘴気が沈めないために守っていたのかも知れない。


「よし港に戻るぞ」


 いつの間にか牽引準備は終わったようだ。幽霊船に扮していた海賊船の後ろに元幽霊船を繋いで進み始める。あちらの船にはギーラが乗っている。


「取り敢えず海賊どもは近くの港で渡して、一泊してから目的地へ向かう」

「もしかして近いの」

「おう、三日もすれば着くだろうな」

「最北端の港町ヒューボルだよね」

「そうだ、俺のこの船を作ったやつは少しばかし港から離れた場所に造船所を持っているからな、ヒューボルによらずに直接行くつもりだ」

「元幽霊船を持って?」

「何となくそうした方がいい気がするからな、まあそういう分けだから必要な物は今から行く港で何とかしてくれ」

「分かったよ」


 まあ、そう言うことなら色々と買い集めてみるのもいいかな。大体どの港にも特産のような物はあるので何があるか少し楽しみだ。



 大陸の北へ来たことで流石に気温が下がっている。私のローブは耐熱耐寒もバッチリなので問題ないが、海の男とはいえ船員達は若干寒そうではある。


 雪が降る時期ではないのでそこまで対策は必要ないようだけど、いつの間にか全員が厚手の長袖に着替えていた。


 幽霊船海賊の船を売ったお金と賞金で買ったようだ。そのお金は私やティッシモにも分けられてちょっとしたお小遣いになっている。


 本来なら今回の幽霊船海賊のアジトを攻めて追加で資金を手に入れるのだけど、今回はアダルがそれを放棄したために港を納めている領主と海運ギルドが色をつけてくれたとのことだった。


 なので今、港の方では幽霊海賊船のアジトへ攻め入るための船が次々と出港していっている。尋問と言う名の拷問の末アジトはこの港から船で半日ほど進んだ所にあるようだ。


 幽霊船海賊の船長は既に処刑済みで、幽霊船に偽装するための魔術を使っていた魔術師と尋問を生き残った船員は犯罪奴隷になっているようだ。


 この港のある国はドレスレーナ王国とは違い奴隷制度がある。大陸北部は海賊が多いことも奴隷制度がある理由の一つらしい。


 海賊と言っても一応船乗りになるので船の上での技術は持っている。そして海の上では戦闘では真っ先に敵船へ乗り込む役目を負わされる。


 一応解放される条件はあるようだけど大体は解放されずに亡くなるのだとか。ただ環境が悪いとか酷使されるとかではなく、海の魔物が出たときにどうしても逃げられない場合の囮として使われるようだ。


 一応その場合でも小舟に乗せられ武器も渡されるので、魔物をどうにか出来れば晴れて解放される。


「さてと俺たちも出発するか」


 海賊のアジトへ向かった船団が視界から消えたところでアダルが出向の合図を出す。なぜこのタイミングなのかというと海の魔物が出るとするなら船団の方に行くからだ。


 そういうわけで私たちは比較的安全に出発が出来るというわけだ。まあ魔物が出ても私がなんとでもなるのだけど、今回はジオールの船があるので絡まれない方が良いのは確かだ。


 アダルの号令で船は港から離れていく、目的地の造船所までは寄港する場所もないようなので暫くは陸とお別れだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る