第132話 魔女、燃やす
ジオールがどことなく懐かしそうに日記のページをめくっている。表紙はボロボロに見えるが中は表紙ほど悪くなっていないようでちゃんと読めるようだ。
「ふむ……この辺りかの、海賊船団を解散させ付いてくる者達と共に北へ向かった」
「解散させたのか? 俺が読んだ本には後継者に譲り旅立ったと書いていたが」
「それはワシの知らぬ事じゃな。まあワシの抜けた後に誰かが再び海賊をまとめたのではないかの」
「むっそうか、話を止めてすまない」
アダルの疑問に答えるジオールだけど解散後の事にはあまり興味は無いようだ。
「北へ向かったワシらは幾つかの小島を経由し氷に覆われた大地へとたどり着いた。だがその大地を暫く探索したわけじゃがいたのは魔物だけで人の姿は見受けられない上に、ワシ達の装備では奥地には進めそうになかった」
どうやらこの世界にも北極のような場所があるようだ。氷で出来た大地を進もうと思えば防寒着やら暖をとる方法が必要だろうから、なんの備えもないと移動もままならなかっただろう。
「結局歩いて氷の大地を超えることを諦めたワシ達は船に戻り氷の大地沿いを船で進むことにしたわけじゃ」
暫く氷の大陸沿いに進んだようだけど、食料が心許なくなり、一度氷の大地で魔物を倒しそれを食料とするために再上陸をしたようだ。
「巨大な白い熊、陸を滑るように移動する魚、氷の息を吐く巨大な鳥。何でも一番助かったのは氷で出来た草花じゃった。船医が言うにはその草花のお陰で船乗り病を回避できると言うことじゃった」
氷で出来た草花ってのは気になる。錬金術や薬学で使えそうな気がするしその内取りに行きたい。
「ただの、そこでワシ達は恐ろしい物を目にすることになった。そいつは氷の大地の下で蠢いており、ぱっとした見た目はクラーケン触手だけのような存在だった」
そういったジオールはそれを思い出したのか骨の体をカタカタと震わせている。
「あれは無数の触手を氷の下で揺れ動かしており、その触手の全てに無数の目玉が付いておった。そしてその触手の目玉に見つめられたと思われる者は気が狂ったように笑い出し、氷を割ろうとし始めおった。ワシ達はそれを見て一目散に船まで逃げ出した。狂った者は置いていった、流石のワシ達もあれには関わってはいけないと本能で理解したわけじゃ」
なんだろう? 一瞬頭にSAN値チェックという言葉がよぎった。多分そういう存在なのかな? 氷の下に封じられてる的な?
「それからワシ達は氷に大地から離れ一路南へ進むことにした。氷の大地に置いてきた者があの怪物を解放していないことを願っていたが、未だに世界が滅んでいないことを考えると大丈夫だったのじゃろう」
氷の大地には少し興味があったけどそういうのがいるなら関わりたくないね。そもそも氷の大地を管理している神はいるのだろうか? その辺り六神のゆかりに聞いたら答えてくれるのかな? 何となくだけど知らなそうではある。
「その骸骨化と触手の化け物は関係ないのか?」
ごもっともな疑問をアダルが投げかけるがジオールは首を振り関係はないだろうと答えた。理由としてはその後に亡くなった物は普通に弔うことが出来たからのようだ。
骨になった後のジオール達は仮に船から落ちたとしても気が付けば元の位置に戻っているのだとか。試しに希望者をバラバラにして海に投げ込んでも気が付けば戻っているようだ。確かにそれを聞くと何らかの呪いのように思える。
結局日記が途切れるまでの冒険譚を聞いてもそれらしい記述はなかった。ただ日記の最後は黒い霧に包まれた所で終わっている。
「最後の黒い霧が原因にしか思えないな」
「と言ってもその霧が何かだよね」
そんな考え事をしているところに船を探索していたガーリーが戻ってきた。
「それらしい物を見つけたがあれが原因なのかは分からないぞ」
「えっそれらしい物があったんだ」
「ああ、なんだか不気味な像が船底に隠されていた」
ジオールに知っているかという意味で視線を向けると首を振られた。
「取り敢えず行ってみた方が早そうだね」
「ふむ、もしそれが原因ならワシ達はとんだまぬけじゃな」
「どうかな、仮に魔道具類いだと二百年近く稼働し続けてることが異常とも言えるし何とも言えないね。それが呪具だとしたら誰がなんの目的でって所が気になるかな」
ガーリーに案内されながら船底まで移動する。目の前の扉の先にその像があるらしいのだけど何も感じられない。
「本当にこの中に?」
「ここは何度も調べたが何もなかったはずじゃが?」
「取り敢えず開けてみりゃ分かるだろ」
アダルがそう言って扉を開けた先は小さな小部屋だった。ぱっと見では何もないように見えるが私の目には確かにそれが見えていた。
とっさに収納ポシェットから杖を取り出して呪文を唱え魔術を発動する。
「燃えろ」
隠匿がかかっていたその像は私の魔術で一瞬にして燃え尽きた。その像は見た目は普通の人をかたどった像だったけど、中身からは濃い瘴気が漏れ出ていた。ここまで近寄らないと分からないとかとんでもない代物に思えた。
「エリー今のは?」
「多分だけど呪具の類いだと思う」
「燃やして良かったのか」
「さあどうかな? でもこれでジオール達の呪いのような物は解けたんじゃないかな」
着いてきていたジオールを見ると、ジオールは自分の姿をキョロキョロと見ている。
「よく分からぬが何だか楽になった気がする」
ジオールはそう言っている側からその姿を薄れさせ始めた。
「むむ、どうやらやっと解放されるようじゃ。おぬしらには礼を言う、この日記と船にある物は全部好きにするといい。本当に感謝する」
ジオールは慌ただしく日記をアダルに渡しそのまま消えていった。
「慌ただしくて情緒もへったくれもないね」
「それはエリーが問答無用で原因をもやしたからでわ?」
ガーリーに言われた通りなので反論が出来ない。もう一度小部屋を見てみても既に灰すら残っていない。
「取り敢えず戻ろっか」
「おう」
そう返事したアダルだけど、渡された日記は消えずに残っていたようで早速読み始めている。
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