第131話 魔女、幽霊船に乗り込む
「それでだ、あれは何だと思う?」
アダルの指差す方向、そして私の視線の先にある濃霧に視線が集まる。
「あれが本当の幽霊船ってところかな?」
「まあだよな……今鹵獲したのとは別口だよな?」
「なんか怖がってるしそうじゃないかな?」
甲板に縛られて転がされている幽霊船に擬態していた海賊の船員の顔色が悪いのは、先の未来を知ってかなのか突然現れた怪現象によるものかはわからない。アダルの部下が問いただしているけど明確な答えがでてこないことから別口なのだろう。
「それでどうする? 逃げる?」
「逃がしてくれると思うか?」
「私がサクッとやっちゃうっててもあるけど」
「あれをか? それはそれで気がとがめそうだけどな」
「だよね、とりあえず接触しましょうか」
濃霧の先はっきりと見えるボロボロの船の甲板には、これまたボロボロの古めかしい船長服とキャプテンハットを被った骸骨がいた。その周りには似たようなボロをまとった船員らしき骸骨が抱き合って喜びを分かち合っているように見える。なんというか戦う気が失せるというか、無性に事情を聞きたくなるのはなぜだろう?
「悪意のようなものは感じないな」
ガーリーが肩に乗ってきて尻尾をフリフリしている。
「大抵のアンデッドは意思というものがないのですが、あれにはちゃんと意思があるように見えますね」
ティッシモが言うにはあれららは普通のアンデッドではないようだ。アンデッドというのは魂の抜けた肉体にその辺りに漂っている魂の残滓が少しずつ蓄積されて生きているように動き出すものらしい。
そして大体のアンデッドと呼ばれる魔物はその僅かに残った肉体に蓄積された様々な魂で満たされることで動き出すがそこに特定の意思はないようだ。ただ長年生きて? 死んでいるけど長い年月存在して魂が一つの形にまとまったアンデッドは進化を果たし意思が芽生えるようだ。
それ以外にも自らの体をアンデッドへと変えたり、それこそアルダやベルダのように体内にダンジョンコアや魔石を埋め込んでアンデッドのような姿になる例もあるので意志あるアンデッドになるルートはそこそこあるようだ。
さてそれでは近づいてきている幽霊船の上の骨アンデッドを見てみよう。落ちくぼんだ眼孔には光が灯っているように見える、あれが瞳の代わりをしているのだろうか。衣服の内側で見えている部分は全て骨のようで内蔵などはなさそうだ。そしてあれら骸骨にはなぜがアンデッド特有の陰気さを感じない。だからといって陽気というわけではないのだけど、姿が骨なのを除けば普通の人に見えなくもない。
ほどなく船が横付けにされる、相手からこちらにやってくるのかと思っていたが渡し板をかけたにも関わらずこちらにわたってくる気配がない。どうやらあの骸骨たちはあの船に縛られているのかこちらに来られないようだ。
「じゃあ行くのは私とアダルとガーリーでいいのかな?」
「そうだな何かあった場合エリーとそのネコなら問題ないだろう、俺も一人ならなんとでもなるからな」
ティッシモはアンデッドとは相性が悪いということで留守番だ。ギーラはいつも通りに船の番だけど何かあれば突撃してくると思う。
「それじゃあ行くか」
アダルが先頭になり渡し板を渡って幽霊船へ乗り込む。乗り込んだ幽霊船は想像とは違い特にボロボロというわけではなかった。ただ流石に帆だけはボロボロで所々破れているのは想像の幽霊船っぽい雰囲気を出している。
「よく来てくれた、ワシはジオール、キャプテンジオールじゃ」
「ジオール……大海賊ジオールか」
「アダルの知り合い?」
「んなわけあるか、ジオールといやあ二百年ほど前に大海賊船団の大将だ」
アダルの言葉を聞いてジオールが少しショックを受けたように見える。実際は骸骨の顔色なんてわからないけど、そう感じただけだ。
「二百年……もうそれほど時が経っていたのか」
「それでアダルはジオールが最後にどうなったとか知っているの?」
「ん? ああ、俺が知っているのは世界を超えるため大海原へ旅立ったってやつだな。今の船乗りのあこがれの人物の一人として本も出てるぞ」
「へー、世界を超えるね」
ただアンデッドとしてここにいるってことはそれは成功しなかったのだろうね。
「それでキャプテンジオールは俺達に何のようがあるんだ?」
「むっ、そうであったな、なんとなく予想はついているであろうがワシらをこの呪われた体から解放してほしくてな」
「解放か、エリー出来そうか?」
「んーちょっと調べてみないとなんともね」
詳しくジオールと他の船員を見てみるも呪われているようには見えない。
「呪いではないと思うけど、よくわからないね」
「ワシらのこの状態は呪いではないというのか」
「私が見た感じではそうかな、そうだねジオールは何か思い残していることって無い?」
「思い残していることか? あるとすればそれこそ世界を超えられなかったことだろうか」
「あ、超えられなかったんだ」
「世界の端まではいけたのだがな、そこからは……よく思い出せない」
「多分その思い出せない事が原因な気がするね、よければその辺りの話し思い出せるだけ話してもらえないかな。それで解決するかはわからないけど何も無い所から探るよりはましでしょうね」
ジオールは「ふむ」と少し考える仕草をしてから骨の船員にテーブルと椅子を運び込ませて私たちに座るように促してきた。
「それでは少し話をするとしようか」
ジオールが手元にどこからともなく表紙のぼろぼろになった日記を取り出した。幽霊船といえばボロボロの日記だよねと、なんとなく思った。
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