第129話 魔女、世話を焼く
総勢に十人の少女と女性。足は鎖で繋がれてる上にギーラが言ううように片足のアキレス腱を切られている。更に傷口は清潔とは程遠い状態で膿んでいる人もちらほら。一瞬生き残った海賊共を海の藻屑にしてやろうかとも思ったけど、どうせ港についたら縛り首だろうからどうでもいいと思い直した。
まあとりあえず治療を開始する。収納からまずは中級ポーションとナイフを取り出す。中級ポーションは失った部分を生やしたりは出来ないけどそれ以外のことならだいたい治すことが出来る。
まずは失っている体力を回復させるために一口飲ませる。半開きの口に流し込むとコクリと喉を鳴らして飲み込んだ。ポーションを飲んだために痛みが引いたようで顔色がすこし良くなっている。
「足の治療をするから少し我慢してね」
耳元に顔を寄せてそう言ってから足元に移動する。用意しておいたナイフを魔法で熱してからざっくりとアキレスの辺りを切り取りすぐにポーションをかける。切り取られた傷がポーションの効果ですぐに塞がった事と、最初に飲ませたポーションの効果で痛みは感じていないはずだ。
顔を確認すると青白かった顔色は色を取り戻していて寝てしまったのか寝息が聞こえてきた。収納から掛布を取り出して治療を終えた女性にかけてから次の人の治療へと移る。
同じ作業を続けて全員の治療を終えるまでに一時間以上時間がかかった。何人かは恐怖からか暴れたりもしたけど今は全員落ち着いている。大体の人が治療を終えるとともに眠ったけど中には起きている人もいる。
大きめの桶をいくつか取り出して、魔術でお湯を入れていく。まずは起きている人から体を洗ってもらうことにして、液体石鹸と布を手渡す。
「まずは体を拭いてください、何なら桶にそのまま入って体を洗ってもいいですよ」
「ありが、とう」
少女の一人が桶にタオルを漬けてから体を拭き始めると他の人も体を洗い始めた。
「石鹸使ってくださいね、使い方はわかりますか?」
「えっと、すみません、わからないです」
「えっとこう布に少量取ってこすり合わせると泡が出るでしょそれで体を洗えばいいよ」
「やってみます」
恐る恐る液体の石鹸を手にとり泡立たせて体を洗い始める。泡立った布で体を拭う度に汚れが取れていき、薄汚れていた肌が綺麗になっていく。汚れた水は部屋の外に待機している船員に捨てに行ってもらい、新しい物を何度か用意する。
寝ていた人も起き出してきて周りの人に説明されながら体を洗い始める。洗い終わった人から収納から取り出した服を渡していく。サイズが合わない人もいたけどそのへんは我慢してほしい。
そもそもどうしてこんな大量の服を持っていたのかと言うと、こういう事と遭遇したのが初めてではないからだ。そういうわけで古着を大量に仕入れて収納に入れているわけだ。
体もさっぱりして服を着た所で、軽めの食事を収納から出して食べてもらう。今までの食事事情はわからないけど、まともな食事を食べていたとは思えないので、胃に優しい物を食べてもらうことにした。
「食べながらでいいので状況を説明するわね」
大半の人が頷くのを確認してから状況を説明する。
「この船を含めて海賊船四隻を鹵獲して今は近くの港へ向かっています。大体あと一日で到着するでしょう。あなた達はその港で降りていただこうと思っています」
その時に海賊船の売却益から幾ばくかのお金は渡すつもりではある。とりあえず港につくまでに今後どう行動するかはそれぞれが決めてくださいと言っておく。
「それじゃあ私は一度船長に報告に行きますので、また後で来るつもりですがなにかありましたら外にいる見張りに言ってください。えっと見張りは男性ですが皆さんに手を出すことはないので安心してもらいたいです」
部屋から出て見張りに「よろしくね」と言ってからアダルたちの乗っている船へと飛んで移動する。流石にギーラを初め船の船員のようにロープの上を全力で走るなんて芸当は出来ない。
「ただいまー」
「おうエリー戻ったか、それでどうだった?」
「ギーラが言うよに全員片足の腱を切られていたので治療をしておいたよ。それにしてもギーラはあの部屋に入って一人ひとり女の人の裸を見たってことだよね?」
「ば、ばかやろう、流石にあんな状態の女になにかしようとは思わねーよ」
「ふふ、わかっているわよ冗談よ。それよりも先に死んでいた人を隣の部屋に運んでおいてくれたのでしょ、ありがとうね」
「ちっ気づいていたか」
ギーラはバツが悪そうに頭を掻いている。
「治療の後は体を拭いてもらって買い込んでいた服を着てもらったわ。後は軽めの食事を出しておいたから港につくまではあのままで大丈夫でしょう」
「そうか」
「何かあれば連絡が来ると思うからその時は呼んでちょうだい。ちょっとつかれたから私は少し休ませてもらうわ」
「ああ、ゆっくりしてくれ」
アダルとギーラにそう言ってからガーリーを回収して割り当てられている個室のベッドへ転がり目を閉じる。彼女たちは今後どうするつもりなのかななんて益体もないことを考えながら少し眠ることにした。
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