第128話 魔女、凍らせる

「あれって沈めてもいいの?」

「出来れば無傷で回収したいのだが」

「それじゃあ乗り込まないといけないね」

「そうなるか、よしおめーら戦だ、乗り込むぞ」

「「「おぉ!」」」


 私の視界には四隻の船がある、ただし海面が凍っているので移動できない状態になっている。


「お前は相変わらず非常識の塊だな」


 私の肩にぶら下がるように乗っている黒猫から呆れたような声が聞こえてきた。


「あの程度常識の範囲内だよ」

「お前の常識とワシの常識にはかなりの隔たりがあるようだな」


 そんなことはないと思うんだけどなー。師匠もできるしアーヴルもできるし、ディーさんもできる。ほかにも何人か思い浮かぶので少なくはないと思うんだけど。


「エリー頼む」

「はーい」


 アダルから声をかけられたので、この船から動けない海賊船へ色を付けた結界の道を作る。


「それじゃあ私も行ってくるからお留守番よろしくね」

「まあよかろう、大丈夫だと思うが気をつけてな」


 ぴょんと私の肩から飛び降りた黒猫のガーリーが毛繕いを始める、なんだかすっかり行動が猫になっているが本人は特に気にしていないようだ。


「よし行くぞ!」


 アダルとギーラが先頭になり海賊船へ乗り込み戦いが始まった。それと同時にティッシモの歌声と呪歌が聞こえてくる。それを聞きながら私も海賊船へと乗り込むが既に一隻目は制圧されていた。


 そこかしこに生きているのか死んでいるのかわからない薄汚れた男達が縛られて転がっている。今生きていたとしてもこの辺りの港まで連れて行かれれば奴隷になるか、名のある海賊なら縛り首になるみたい。


「エリー次へ頼む」

「はーい」


 船倉を漁るのは後回しにして先に他の船を制圧するようだ。この船から一番近い船まで結界で道を作ると見張りを残してアダル達は次の船へと乗り込んでいく。


「弱い!」

「確かに弱いな、新設の海賊か?」


 海の事情はわからないけど、海賊に新設とかあるのだろうか?


「船長、どうやらこいつらは逃げ出した奴ららしいですぜ」

「逃げ出した?」

「少し前に北の方で二つの海賊がバトったらしいんですがねこいつらはその戦いの最終に逃げたってことでさあ」

「そういう事か、別々に逃げ出して南下した所でまとまったってところだな」

「へえそうみたいでさあ」

「ちっなら賞金首みたいな大物はいないってことか」

「のようでさあ」


 アダルとアダルの部下の船員は話しながらも次々と海賊を倒していく。中には逃げ出そうとしたのか船から飛び降りる者もいたが下は氷で覆われているので良くて足の骨折、悪ければそのまま死んでいると思う。わざわざ確認はしないけど。


「ギーラ残りの二隻は二手に分かれて競争しようや」

「おっいいな、負けたほうが酒場の支払い全持ちな」

「おうよ、エリー頼めるか」


 残っている二隻の船へ結界で道を作ると、アダルとギーラが同時に駆け出す。他の船員は大体半々に別れてそれぞれについて行った。


 私はというと今乗っている船の船倉に人がたくさんいるのを感じたのでこのまま待機している。敵意はなさそうなので海賊に捕まった人なのかも知れない。


「よっしゃあ俺の勝ちだ」


 ギーラが先に戻ってきて勝利宣言をしている、今日の酒代はアダルが全負担することが決まったようだ。


「いやーどうやら俺のほうが旗艦だったらしくて乗ってた数が多かったようだ」


 愚痴りながらアダルが戻ってきた。


「まあいい、さっさと港に戻って今日は俺のおごりで飲むまくるぞ」

「「「おぉー」」」


 それを聞いた船員が雄叫びを上げている。


「船はいつもどおりでいいの?」

「おう頼めるか」

「アイアイ。それとねこの船の船倉に二十人くらいの気配がするんだけどもしかして襲われて捕まった人かも」

「ギーラ確認に行ってくれ」

「おう」

「オメーらいつも通り監視は任せる、他は船に戻るぞ」

「「「へい」」」


 アダルたちと一緒に船に戻った所で船を留めるために凍らせていた海を溶かす。ロープを魔法で四隻の船へと飛ばしあちらの船に残っていた船員がロープを受け取り船を一直線に鳴るようにつなげる。


「全部つなげたよ」

「よし港へ戻るぞ」

「「「おう」」」


 アダルの操船で船が動き出す。普通の船なら四隻も船を引っ張ることは出来ないだろうけど、アダルの船は特殊なので問題なく進んでいく。今から戻る港はここ数日滞在している港で今回の海賊退治もその港で受けた依頼になる。


 後ろからついてくる船を見ているとギーラが器用にロープの上を走ってくるのが見えた。結構な速度で船は進んでいるはずなのにそれをものともしないでこちらの船までわたってきた。


「エリーすまんが手を貸してくれ」

「怪我人?」

「ああ、足の腱を切られているようだ、それと男より女性の方が良いだろう」


 それを聞いて大体どういった状態なのか理解できた。生き残った海賊度も全員海に投げてやろうかな。


「わかったわ、後は私に任せて」

「すまん」

「気にしないでギーラが悪いわけじゃないでしょ」


 さすがの私もロープの上を走るなんて芸当は出来ないので、収納ポシェットから杖を取り出してその上に腰掛けて空を飛ぶ。船倉に人の気配があった船に降りる。


「姐さん頼みやす」


 いつからかアダルとギーラ以外の船員から姐さんと呼ばれるようになっていた。別にそれっぽい事をした覚えはないのだけど、怪我の治療などをやっていたらいつの間にかそう呼ばれるようになっていた。


 まあそれはどうでもいいので、船倉へと降りていく途中に船員はいない、気を利かせているようだ。船倉の扉にノックをしたけど反応は返ってこないのでそのまま扉を開けて中に入る。


 そこには一糸まとわぬ姿の女性が何人も寝かされていた。

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