小話 ダイゴとキッカのその後 その2

「それでトウジは結婚をしないのか?」


「血痕?」


「わざと言ってるだろ」


 キッカの料理を堪能した後は、キーリがトウジに旅の話をせがみ話を聞いていたが、そのうち船を漕ぎだしたためキッカがキーリを寝かしつけにいった。キーリから開放されたトウジとわしは、お互いに酒を注ぎながらキッカの用意してくれたツマミとしてカブの漬物を食べる。甘酢に漬けられたもので甘いが酒に合う。


「一応だが婚約はした」


「ほう、どんな人だ?」


「東大陸から新大陸にやってきた商人の娘なんだがな」


「ああ、そういう事か」


 二人して酒をあおって再びお互いに注ぎあう。そこへキーリを寝かせたのかキッカが戻ってきた。


「うちもいただきますね」


 キッカは自分で酒を注ぐと一気にあおった。


「はぁー久しぶりに飲んだわ。それにしてもダイゴこんな良いお酒を隠していたのね」


「別に隠していたわけじゃないがな」


「ふふ、そういうことにしておきましょうかしら。それで何の話をしていたの?」


 トウジと顔を見合わせて、トウジの婚約の話をする。


「外の人族の方なのね、それじゃあ主様に見てもらわないと行けないわけだね」


「そういう事で今回は急いで戻ってきた。面会は明日だな」


「そうか、良い結果が出ると良いな」


「まあ、駄目なら駄目で俺が新大陸に行けばいいだけだからな」


 新大陸と獣人大陸は大連山に出来上がった通路によって行き来が手軽になった。一応は大連山の真ん中に砦が築かれて出入りは管理されている。それも相まって数年前にあるお触れが獣人大陸に発せられた。


 その内容は獣人同士以外で婚姻をする場合はカルラ様の先見の能力で診てもらうことになった。カルラ様に見てもらい獣人大陸で暮らすかそのまま新大陸で暮らすかを決められることになる。どうしてそういう事をするのかは色々と理由があるようだが詳しくは知らされていない。


「もしそうなったらなかなかこちらに戻って来れないだろうな」


「そうでもないだろ、どちらにしろあちらに店を構えてるつもりだから頻繁に行き来することになるだろうな」


「良い結果が出ると良いわね」


 酒を注ごうとしたがもう空っぽになっていた。いつの間に飲みきったのだろうか。


「おっと酒も無くなったようだな、ちょうどいいそろそろ御暇させてもらおうかな」


 トウジは立ち上がるがふらりと倒れそうになる。


「おいおい、そんなので帰れるのか?」


「これくらい大丈夫だ」


「すまんキッカ、こいつに水を」


「はいはい、もう少し座っててくださいね」


 キッカもそこそこ飲んでたようだが全く酔っていないようだ。わしもまだ平気だがトウジがふらつくくらい強い酒なんだがな。


「はい、トウジお水よ」


「おぉう悪いな」


 トウジは水を一気に飲み干して息を吐く。


「ふぅ、それじゃあ帰るは」


 トウジと共に玄関から外に出ると外は満天の星空だった。


「新大陸はやはり寒いのか?」


「ん? ああ冬になると雪が積もるな」


「ほう雪か、このあたりには降らないからな」


「あまり雪の積もる時期はおすすめしないが、あれはあれで良いものだぞ」


「そうか」


 門の外まで共に出る。


「それえは気をつけて帰れよ」


「おう、またな」


 トウジは背中越しに手を振りながら確かな足取りで帰っていく。それを見送りわしは家へ入る。


「トウジは大丈夫そうでしたか?」


「ああ」


「それにしてもトウジが結婚ね」


「それも東の大陸の者ととはな」


「ふふ、東大陸と言えばエリー様は今ごろ何をしているのでしょうね」


「さてな、元気であることは確かだろうな」


「まあそうでしょうね」


 キッカはそう言って俺にしなだれかかってきた。


「少し酔っちゃったみたいだわ」


「それでは寝るとするか」


 わしはキッカを横抱きにして寝室へ向かった。

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