小話 ダイゴとキッカのその後 その1

 ふんっ! ふんっ!

 気合とともに太刀を振り下ろす、それを何度も何度も繰り返す。


「とと様」


 その声を聞いて太刀を鞘に納める。


「おぉキーリどうした」


「かか様がとと様を呼んでくるようにと」


「そうかそうか、では共に行こうか」


「はいっ」


 わしとキッカの娘キーリがぴょんと飛び上がるとわしの肩に座る。こういうお転婆なところを見ると、子供の頃のキッカを思い出す。道場から渡り廊下を通り居間へ入ると妻のキッカと客人が来ていた。


「ようゲンタ上がらせてもらってるぜ」


「むっトウジか久しぶりだな、まだ色々と飛び回っているのか?」


 トウジの正面に座るとキーリがぴょんと肩から飛び降りてキッカと共に部屋から出ていく。白虎獣人のトウジは俺とキッカの幼馴染で、俺達とは違い武頼にならずに実家を継いで商人をしていた。


「おうよ、今度は北まで出向くからなその前に寄らせてもらった」


「そうか、それであっちの様子はどんな感じだ」


「まだまだ落ち着かないな、あちらの大陸から人が渡ってきたのは良いが、国同士でのいざこざは耐えられないな。一応六神教が間に入って仲裁はしているがそれでもだな」


 トウジは数年前まで闇に閉ざされていた大陸へ行商にいっていた。今では新大陸と言われ海の向こうの東大陸から人や物が運び込まれてきている。ゆかり様たち六神が教会を通して信託を下し、各国が新大陸の開拓を協力して行っている。


 そのためにどこの国の領土という考えはない、という事になっているがそうそううまくは行っていないようだ。ただ獣人が六神の名のもとに人と同じと信託が下り、昔のように迫害を受けるということはなくなったようだ。


「しばらくはこっちにいるのか?」


「そうだな、次の任務まではまだ間があるからなしばらくはいるつもりだ」


「そうか」


外から声がかけられキッカとキーリが部屋に入ってきて、わしとトウジの前にお茶と茶菓子を置く。


「とうじのおじちゃん、たびのはなしをきかせて」


「おういいぞ、何の話が良いかな」


「んーとね、しんたいりくのおはなし」


「新大陸の話か、そうだな」


 トウジは懐に手をいれるとそこから色とりどりの小さい宝石のようなものが入った小瓶を取り出してキーリに見せた。


「これはな別の大陸から新大陸にやってきた者からもらったものなんだがなコンペイトウっていうあお菓子だ」


「おかし? あまいの?」


「おう、甘いぞ。これは俺からのキーリちゃんへのお土産だ」


 そう言ってトウジがキーリに小瓶を渡す」


「すまんなトウジ」


「ありがとうございますトウジ」


「ありがとうトウジのおじちゃん」


「はは、良いってことよ、とまあこういう感じであちらの大陸から色々な物が入ってきているわけだ」


「あちらの大陸からは新大陸のほうが近いからな」


「そうだな、ここは良くも悪くもあっちの魔の森が邪魔をして遠回りしないといけないからな」


 キーリはさっそく小瓶を開けてコンペイトウを一つつまんでキラキラと目を輝かせて見ている。


「あまーい」


 パクリと一つ食べ目を見開き両頬を手で抑えてゆらゆらと体を揺らしている。


「はははは、いつ見てもキーリちゃんはかわいいな」


「やらないからな」


「バカ言え」


 キーリがコンペイトウを一つ一つわしとキッカとトウジに渡して来た。


「ありがとうキーリ」


「どういたしまして」


 キーリに礼を言ってコンペイトウを口にいれる。ふむこれは砂糖菓子か、確かに甘いな。エリー殿を探しているときや旅の最終では見かけなかったものだ。


「それを持ってきたのは商業国家と呼ばれている所なんだがすげーぞあそこは、まずは船がでかい、そして船の動力は魔石を使っていやがる」


「魔石か」


 ここ獣人大陸はまだいいが、新大陸では魔石が手に入りにくい、魔物の数が少ないのが理由だ。あの戦争の時、黒髪の魔女殿がバカでかい岩を落としたことでほとんどの魔物が魔石とともに消滅してしまったようだ。


「あのまま戦っていたら多数の死者が出たと思うと、あれは間違いではないと思うが魔石はもったいないとしかいえないな」


「過ぎたことだな、ただ海の魔物からなら魔石は取れるだろ?」


「まあな、それと少しずつだが魔物のも増えているようだ、魔物が増えて喜ぶことがあるとは複雑な感じだけどな」


「言えてる」


「「はははははは」」


「それではそろそろ御暇させていただくかな」


「トウジさん晩ごはんを食べていってくださいよ」


「むっ」


 トウジはどこか苦い思い出を思い出すような表情を浮かべている。


「どうした?」


「いや、むかし無理やり食べさせられた泥団子の味がな」


「ああ、あれか、あれは酷かったな」


「も、もう、それは子供の頃の話でしょう」


 キッカが恥ずかしそうに頬を赤く染めている。


「はっっはっはっは、それでは久しぶりキッカ殿の飯をいただこうかな」


「そうしろそうしろ、わしもとっておきの酒を出してやる」


「それは楽しみだ」


 わしは立ち上がり自分の部屋から隠していた酒を取り出し部屋へ戻る。そういえばこの酒はあの黒髪の魔女殿も嬉しそうに飲んでいたなと思い出し懐かしい気持ちになった。


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突然のことでありますが、諸事情により六月いっぱいまで週一更新とさせていただきたいと思います。

早めに目処がつきましたらその時は改めてご報告させていただこうかと思います。


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