第126話 魔女、念願が叶う

「それではお気をつけて」


「それじゃあねキッカにダイゴ、二人とも幸せにね」


 キッカとダイゴの二人に別れを告げて、アダルの船に乗り込む。


「エリーもういいのか?」


「来ようと思えばいつでも来れるからね」


「そうか。出港だ! 錨を上げろ!」


「「「おぉーー」」」


 アダルの船が出向する。甲板から見送りに来ていたキッカとダイゴに手を振る。船員は獣人大陸に来たときとは若干顔ぶれが変わっているし、中には獣人が混ざっていたりもする。船はこのまま北へ向かいアダルが船を作ってもらった商業国家へ向かう予定になっている。途中でいくつかの港町を経由するようだけど到着までは一ヶ月くらいかかるようだ。


 ウォンとの話し合いは数日間続いたようだ。ウォンは依代のままだと安定しないという事で、ガーリーの体を作るついでにホムンクルスを作りそこに埋め込んだ。無茶な使い方をしなければ百年くらいは持つんじゃないかな。


 あの後ウォンは闇の晴れた大陸に戻り、生き残りを探す旅をするようだ。そしてゆかりたち六神が信託を下して闇の晴れた大陸との交流を促進したりするようだ。そうすることによって新たな仙人をできるだけ早く生まれさせる事ができるかも、ということだった。


 カルラたちが話し合いをしている間は、ホムンクルス作りの他にもチワンくんに薬草学を教えたり、アダルと一緒に腕輪を調べたり結構いそがしかった。残念ながら錬金術に適性のある人はいなかったので錬金術関係は諦めてもらった。その代わりにポーションの類いをそこそこの量を作って渡したのでしばらくは問題ないだろう。そんな感じで出港出来たのはあの戦いから一月ほど経った頃だった。


 船は進み続けて陸地が見えなくなった所で船内に降りていく。船内の船倉に騎竜の部屋を作ってもらった。今はそこには四騎の騎竜が繋がれている。私とティッシモとアダルとギーラの騎竜になる。結局私の騎竜の名前はギンレイにした、漢字で書くと銀鈴になる。実はこの子女の子だったわけで、そりゃあ男の子の名前は嫌なわけだよね。


 かわいそうだけどしばらくは船倉で暮らしてもらうことになる。波の穏やかな日はできるだけ甲板で運動させて上げたいとは思っている。しばらくの間ギンレイに魔力を渡したりして戯れた後へ部屋に向かう事にする。


「ただいまー」


「戻ったか」


 部屋の壁に固定されているベッドの上には黒猫がいて私を見てそう答えた。


「どう体の調子は」


「問題ない、尻尾でバランスを取るのにも慣れた」


 この黒猫の中にはガーリーの魔石が入っている。最初はヒト型のホムンクルスを作りそこに入れようとしたのだけど、どうもガーリーの魂が残っている魔石だけでは体を維持できなかった。


 そこで仕方なく、うん仕方なくだよ、そう仕方なく動物型のホムンクルスを用意したわけだ。そしてガーリーの魔石を入れてみた所、体が崩れることも魔力体になることもなく、黒猫として存在できている。ちゃんと声帯も調整して喋れるようにした。しばらくは慣れずにフラフラしていたけど、今は本物の猫の様に動けているようだ。


 私は黒猫を抱き上げてベッドに座って太ももの上に乗せてナデナデする。我ながらいい手触りだと思う、いつまでも撫でていたい。


「おい、やめろ」


 喉をコショコショすると、気持ちよさそうに目を閉じてゴロゴロ言っている。


「だからやめろと言うに」


 猫パンチをしてくるが手を掴んで肉球の感触を堪能する。


「おい、いい加減に」


 ヘソ天にしてお腹をワシャワシャすると身悶える姿もかわいい。


「エリーさん、そういう事をするから嫌われるのではないですか?」


「あ、ティッシモいたの?」


 ティッシモの声を聞いて手を離したら黒猫に逃げられた。


「ずっといました」


「最初から?」


「はい、最初から」


「さーてと、外で釣りでもしようかな」


「絶対にやめてくださいよ、以前それで酷いことになったじゃないですか」


 猫じゃらしに似たおもちゃを取り出して、ベッドの下へ逃げ込んだ黒猫に向かってフリフリするとその動きを追って首を降っている。近づけたり離したりしていると手を出してくるので、少しずつ距離を離してベッドの下からおびき寄せて捕まえる。


「くっ、なぜだワシは猫ではないはずなのに目で追ってしまう上に体が勝手に動いてしまう」


 捕まえた黒猫を肩にのせる。


「ちょっとまた甲板に行ってくるよ」


「私も後で行きます」


 黒猫を肩に乗せたまま部屋を出て甲板へ向かう。ふふふ、今の私ってめちゃ魔女っぽいと思う。そもそも何で私は動物に好かれないのかわからないままだ、黒猫になったガーリーに聞いてみても別に私のことは不快ではないと言ってくれているので、ホムンクルスと純粋な動物はなにか違うのかも知れない。


「どこを見ても海しか見えないな」


「流石にずっとこれだと飽きるけどね」


 ガーリーが私の肩から飛び降りて手すりに飛び乗る。


「落ちないようにね」


「大丈夫だ」


 釣りを始めている船員の邪魔にならないように、私とガーリーは穏やかな海を眺め続けていた。


──────────────────────────────────────


 これにて7章は終わりになります。

 次の章は……、寄り道編って感じになると思います。

 その前に小話をいくつか考え中です。

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