第125話 魔女、問う

「んー、これどうしたら良いと思う?」


 私の前に並べられた五つの仙石。場所は最初にカルラと話した奥の間で、部屋の中には私とティッシモとカルラの三人と、シロさんとクロさんがカルラの隣に控えている。


「ふむ、それならば──」


「依代を使えば良いんじゃないかな」


「主様!」


 いつの間にか部屋の中にゆかりが現れていた。前回同様カルラの姿が狐の姿になりゆかりに飛びついていた。ゆかりはカルラを抱きながら、先程までカルラが座っていた場所に腰を下ろした。


「依代って、陰陽師とかが使うヒト型の紙のやつかな?」


「そうだね、別に紙じゃなくても良いのだけど用意しやすいのは紙だね」


 そういうとゆかりは、手をサッと横に降ると何もないところから五つの人の形をした紙がひらひらと降りてきて、仙石一つにつき一つの依代が被さった。そのまま見ているとヒト型の依代が仙石を包み込むと、質量が増えいつしか白い服を着た老人が五人座っていた。


「むっ、こここは」


 一人の老人がつぶやきあたりを見回してから、ゆかりの所で目を留める。他の五人も同じようにゆかりを見ている。


「エリーとそこのエルフはこっちへおいで、そこだと話しにくいでしょ」


「そうだね」


 私とティッシモは座布団を持って移動してゆかりの斜め前に座る。ゆかりを見ていた老人たちの視線が私に集まったと思えば、同時に頭を下げてきた。


「このたびはわしらの所業の後始末をして頂いた事に感謝を」


「流れのようなものだし気にしなくていいよ。それよりもあなた達は仙人ってことでいいのよね?」


 頭を上げた老人の一人が「そうだ」と答える。


「じゃあさ、あっちの大陸の闇を晴らしてもらえるかな?」


「そうですね、そうしましょうか」


 一人がそう言うと五仙が何やらお経にも聞こえる呪文を唱え始めた。聞いたことのない言葉なので何を言っているのかわからない。一応警戒はしているけど悪い感じはしない。しばらくして呪文を唱え終えた五仙の体からなにか光が立ち上ると、砦の方向へと飛んでいった。


「これで闇は晴れました」


 なんか意外とあっさり過ぎないかなとも思うけど、五仙が揃えばこんなものかも知れないとも思えた。


「うん、ちゃんと闇はなくなっているね」


 ゆかりが認めたことから闇はちゃんと晴れたってことだね。それよりも五仙の様子を見てみると体や服にヒビが入っている。今の闇を晴らす行為のせいだと思うけど、もうあまり持ちそうに見えない。


「すまないが後は任せる」


 一人の仙人がそういうとそのまま体が崩れてビリビリに破れた依代とヒビの入った仙石が転がっていた。続いて一人また一人と同じように体が崩れ仙人は最後の一人になった。


「よろしいかな?」


「いいよー」


 私にはわからないけど、最後の仙人とゆかりの間ではなにか通じ合っているように見える。最後に残った仙人がヒビの入った四つの仙石を手にとり飲み込んだ。どうやら仙石を一人の仙人に集めて他の仙人は消えたようだ。ヒビの入っていた仙石からは既に魂の気配が感じられなかった。


「お待たせしました、わしはウォンといいますじゃ。色々と聞きたいこともあると思いますので最後の一人として全てお話いたしましょうぞ」


「ボクは特に聞きたいことはないから、エリーが知りたいことに答えてあげてよ」


 ゆかりはそれだけ言うとカルラを撫で続けている。きっとゆかりは私の知らない事を色々と知っているのだろうけど、自分からは教える気はないんだろうね。とりあえず一番気になっていることを聞いてみることにする。


「リュウセンって何者でなにが目的か知ってたら教えてほしいかな」


 目の前に残った一人の仙人の見た目がリュウセンに似ているから、リュウセンが言った通りならこの仙人がリュウセンに体をとられた人な気がする。


「そうじゃな、あれはここやお主たちの大陸とはまた別の場所から来たものじゃ。残念ながら目的まではわからぬ」


「やっぱり別の大陸の者だったんだね」


「そうじゃな、あれはわしらとは在り方が違うように思えた。仙人やお主たち魔女とも違う感じだったの」


「一体どこにある大陸から来たんだろうね、ゆかりは知ってる?」


「ボクの知る限り簡単に行ける場所にはないね」


「そっか、それじゃあこれ以上考えても仕方がないか」


 私から魔石を手に入れたことで目的は達成したということだったから、もう合うことはないかも知れないね。リュウセンはまた会えるような事を言っていたけど社交辞令的なものだったと思うしかないね。


 この後も色々質問をした。あちらの大陸の神についてや今後あちらの大陸はどうなるのか、ウォンは今後どうするのかどうなるのかとかをね。まずは神についてだけど、そもそもあちらの大陸には神は存在しなかったんだって、そのかわりに仙人が半神という事で大陸を管理していたようだ。


 ただわかっているように、今代の五仙は大陸の管理などそっちのけで好き勝手していた結果、闇に閉ざす自体に陥ったということだった。そして今後どうなるかは新しく命が生まれるようになるので、そこから新しい仙人になるものがそのうち現れるだろうという事だった。


 それは魔石を宿した生き残りからかも知れないし、私たちの大陸から移住するのもや流れ着くもの、獣人大陸からもあちらの大陸へ行くものも現れるだろうから、そういった人たちの子どもからいつか現れるだろうとのことだった。ただそれは十年後か百年後かはたまた千年後かはわからないと、それまでは管理者のいない状態が続くと言っている。


 ゆかりが前に言っていた転生者や転移者が、こちらの世界に落ちてきた時の対応を神がしているって言っていたけど、それってどうなるのかと聞いたら、仕方がないので新たな管理者が現れるまでは、私たちの大陸の神が分割して対処する事にするんだとか。


「あー、もう何人か新しい神になる人材が欲しいなー(チラチラ)」


 とか私の方を見て言ってきたけどお断りですからね。そもそも神ってそんな適当に増やして良いものなのかが疑問だよね。きっと私たち魔女の知らない神の事情なんかが色々とあるのだろうね。

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