異世界に落ちた元アラフォー社畜は魔女となり魔女の弟子を名乗る

第124話 魔女、やる気が出ない

　リュウセンに向かって魔術を発動する。複数の手のひらサイズの尖った岩がリュウセンへと殺到するが、リュウセンは体をゆらりと揺らすように回避する。

「ああそうでした、一つ訂正をしておきましょうか」

　続いて風の刃や火の矢などの魔術を使うもそれらも当たること無く回避される。

「この体ですがね、元は仙人のものだったのですよ、ですがエリーが持つ仙石の元となった仙人とは別のですけどね」

「つまりさっき言っていた五仙っていうのは本当のことだったって言いたいの？」

「そうですよ、ですのでガーリーが仙人の数を四仙だと思ったのはそういうことですね」

　続いて魔術を放とうとした所で、リュウセンの体が視界から消えた。勘に従い後ろへ跳躍すると目の前を神殺しの刃が通り過ぎていった。危なかった。もう数瞬回避が遅れていたら斬られていた。牽制のために適当に魔術を撃ちながら距離を取る。

「いい反応ですね、エリーあなたとは本当に戦いたくないんですよ」

「どうしてって聞いても」

「それは秘密にしておきましょう」

　正直に言うとさっさと仙石なんて渡してお帰りいただきたいのだけどね。手元にある仙石からは相変わらずリュウセンに利用されてくないという声が聞こえてくる。

「ちなみに、神になってなにがしたいの？　大陸の管理とか面倒くさいとおもうんだけど」

「大陸の管理に関して私は関わるつもりはありませんけどね、そもそもこの大陸の管理者になるつもりはありませんので」

「どういうことよ、仙石を利用するなら闇に閉ざされた大陸の管理者たる神になるってことでしょ？」

「エリーは勘違いをされているようですね。その仙石はあくまでエネルギー源として使わせていただくだけで、その仙人たちの役目まで引き受けるつもりはありませんよ」

「それじゃあ、大陸の管理はどうなるのよ」

「それでしたら闇さえ晴らせばそのうち生まれてきますよ」

　何度か攻防を繰り広げた所でリュウセンは足を止め、手の中で神殺しを弄びながらつまらなそうに答えた。本当に私とは戦いたくないのかやる気が感じられない。いや、まあ神殺しなんて当たり所が悪ければ私でも死んじゃうからね。私の方もほとんどが牽制のため本気で魔術を使わなかったわけだし。

「エネルギー源ね、別のなにかじゃ駄目なのかな、例えば魔石とか」

「はは、その辺りの魔物の魔石程度では代替になりませんよ」

「それじゃあ、これならどうかな」

　私が収納ポシェットから取り出したのは、師匠の元から旅に出てすぐに辿り着いた捨てられた街で見つけた大きな魔石だ。今では魔石を加工する技術が失われたのか旅の間でも見かけなかった代物だね。ちなみに内包している魔力は手元にある仙石十個分くらいはあるんじゃないかな？　限界チャレンジのつもりで少しずつ魔力を注ぎ込んでいたからね。

「はぁ、なんですかその魔石は……だがこれなら。エリーその魔石をいただけるということでよろしいですか？」

「こんなのでいいなら」

　相応の数の魔石さえあれば作れるからね、目算千個くらい？　私が手を広げて囲むのに三人ほど必要な大きさの魔石だからね、それくらいの数は必要だと思う。小さい魔石を集めたら良いんじゃない？　って思うかも知れないけど、まとめて大きな魔石にするのと小さい魔石を千個使うのとではやっぱり魔力のロスや保有量が違う。

「エリーはこの魔石に内包されている魔力の価値をご存知ないのですか？　仙石などよりも数段上ですよ？」

「わかってるよ、これに魔力を貯めたのは私だからね。何に使うかは教える気はないでしょうけど、悪いことには使ってほしくないとだけ言っておくわ」

　リュウセンは神殺しのナイフを懐に入れる。懐に収納出来るものが入れてあるのだろうか、ナイフの膨らみが見えない。

「悪いこと、には使いませんよ、それにしても本当に頂いて良いのですね？　もう返しませんよ？」

　地面に置いてある大きな魔石に手を触れて収納に入れたリュウセンが言ってくる。

「いいって言ってるでしょ、ただしちゃんと闇を晴らしてよ」

「えっと、それではこちらを」

　リュウセンが何かを私に放り投げてきたので受けとる。

「これって仙石？　だけど中からは何も聞こえてこないね」

「闇に関しましてはその仙石と残りの仙石を使えば晴らすことが出来ると思います。どう使うかはお任せしますが、いちばん簡単なのは砕いてしまうことですね」

「砕くってそれじゃあ守った意味がないでしょう、まあなんとかしてみるわ」

「それではエリー、ありがたく頂いていきます。今回やむなく敵対しましたが次会うときは友好的に会いたいですね」

「私もそう思うわ、だからその魔石を悪いことには使わないでね、もし使っていたのなら一発殴らせてもらうからね」

「それは痛そうですね」

　リュウセンはそう言った後、空気に溶けるように姿が薄れていき消えた。結局リュウセンの正体はわからずじまいだったけど、お互いに本気で戦っていたらどうなっていたんだろうね。リュウセンがどうして私と戦いたくなかったのかはわからないけど、一件落着ってことでいいのかな。

　ああ、後は手元に残った五つの仙石をどうにかして闇を晴らさないとね。さてと取り敢えずみんなに合流しましょうか。私は手に持つ杖に座り空へ飛び上がる。都に戻ったらやることが色々あるね、ガーリーの魔石もあるし、闇を晴らすために仙石をどうにかしないとね。

　あっ、魔石……、その場で一度止まり砦の向こう側を見てもあれほど大量にいた魔物の死体すら見えない、つまりは魔物の死体や魔石も隕石とともに吹っ飛んでいったってことだよね。うわーもったいない事したー。