第123話 魔女、声を聞く

 ガーリーの魔石が収納ポシェットに入らないことを確認した。思った通りこの魔石にはガーリーの魂が宿っている事がわかった。そもそも魔石に魂が宿る事自体がおかしいのだけどね。魔石というものは魔物の体内に生成されるもので、魔物は魂を持たない……はず、この辺の考えは人によって違うし私もよく知らない。


 ただ師匠も私も魔物には魂が存在しないと考えている、まあ私の場合は師匠の考えをそのまま引き継いでいるっていうのもあるのだけどね。人と魔物の違いは魂の有り無しって考えればわかりやすいからね。まあ魔石や魂に関しては長くなりそうなので今は良いでしょう。


 収納ポシェットから革袋を取り出してそこに魔石を入れてからローブの内ポケットに入れる。そして足下に転がっている仙石を一つずつゆっくりと拾い上げる。仙石からはガーリーの魔石同様に魂が感じられる。仙石って不思議な感じがするね、魔物でもないのに仙人の体内で作られた魔石のようなものなのかな。


 ちなみに私たち魔女には、そういった魔石や仙石のようなものは存在しない。そのあたりも魔女と仙人は似て非なるものだ。賢者の石はどうなんだって? あれはもうとっくに私の血肉として分解されているよ。


「エリー、その仙石をわしに渡して下され」


 リュウセンが私に向かって歩いてくる。


「どうして?」


「闇を晴らすために必要だからじゃよ」


「それって嘘だよね、それにリュウセンが仙人だということも」


 私がそういうと、リュウセンは歩みを止めて立ち止まった。


「なぜそう思われましたかな?」


 リュウセンの雰囲気が変わったのを感じてか、カルラやアダルにティッシモたちが、リュウセンから距離を取った。


「この人たちがね、教えてくれたんだよね。それにあなたの中には仙石らしきものはなさそうだからね」


 そう言って仙石を一つ手に取ってリュウエンに見せる。そうなんだよ、仙石を手に取った時に中に残っている魂が訴えかけてきたんだよね。「違う」「解放を」「闇を」「敵」って感じでね。


「どうしても仙石を渡す気はないと?」


 私は手に持っていた仙石をガーリーの魔石を入れた内ポケットにまとめて入れ、収納ポシェットから杖を取り出しリュウセンへ突きつける。


「それであなたは何者なのかな? 答えによっては渡してあげてもいいけど、ただし嘘は駄目だからね」


「はぁ、騙し切れると思ったのですが仙人どもが邪魔をしたというわけですか」


 リュウセンはやれやれといった感じで首をふると、見た目通りの口調に変わった。今までは仙人の演技をしていたのだろう。


「リュウセンという名前は本当ですよ、仙人というのは嘘ですけどね。仙石を渡してもらえればこのまま去りますし、闇もちゃんと消しますよ」


「嘘はついてなさそうだね、それで仙石はなにに使うつもりなのかな」


「言わなければいけませんか?」


「教えてくれるならちゃんと聞きたいかな」


「まあ良いでしょう、その四つの仙石はある目的のために必要なのですよ」


「その目的って?」


「それは秘密です、お教えしても仕方がないことだと思っていますので。さて正直に話しました、仙石を渡してもらえませんか」


 どうするべきか、なんて考える必要はないか。私は内ポケットから四つの仙石を取り出す。手に持つだけでも仙石から声が流れてくる。もう少し色々とちゃんと聞きたい気もするけど、仙石の中にいる魂とはまともな会話はできなさそうだ。


「やっぱりあなたには渡せない」


「なぜですか?」


「仙石の中の魂がね、あなたに食われたくないって言ってるのよ」


「そんな石にこびり付いた者の言葉を聞くとはエリーは優しいですね。それなら仕方ありませんね、力ずくで奪うとしましょうか」


 リュウセンはそういうと懐に手を入れて一振りのナイフを取り出した。


「みんな絶対に手を出さないで!」


「エリーよ急にどうしたのじゃ」


「あれは、あのナイフは神殺しよ」


「これのことをご存知でしたか」


「そりゃあね私も一本持っているから。そういうわけだからみんなここは私に任せて、先に戻っていていいよ。ティッシモもアダルとギーラも先に都へ戻っておいて」


「エリー済まない任せる。ダイゴ、キッカ監視のために残っているものも全員帰還させよ」


「「ハッ、かしこまりました」」


 ダイゴはカルラに付き従い、キッカは伝令のために城壁を駆けていった。


「わかりました、エリーさん無理だけはしないでくださいね」


 ティッシモのその言葉に頷いて返す。神殺しが危険だと感じたのかアダルとギーラは素直に私とリュウセンから離れていく。神殺し、私もあれに傷つけられたら危ない、それこそ心臓にでも突き立てられたら即死だろうね。


「仙石を渡していただければ戦わずにこのまま去りますが、それでも戦いますか?」


「神殺しを持つ相手となんて戦いたくないわよ、でも仙石をあなたに渡したらこの仙石に残っている魂は消滅してしまうのでしょう?」


「そうですね、その魂すらも利用するつもりですから。ただそんな者のために私と戦うほうを選ぶということですね」


「まあそうなるわね」


 私はリュウセンを警戒しながら仙石を再び内ポケットに放り込み、代わりに収納ポシェットから愛用の杖を取りだし構えた。


「本当にエリーとは戦いたくないのですけどね、仙石を渡してもらえないなら仕方がありません。なるべく殺さないようにはしますが、死なないでくださいね」


 リュウセンは神殺しを片手に持ち、ゆっくりと私に向かって歩みを進めてくる。

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