第122話 魔女、塵にする

 その男は自らを仙人と名乗ったようだった。男の目的は魔石を体に取り込むことで、人ではなくなったものを殺し救う事だと語ったのだとか。


 仙人はそれだけをいうとガーリーたちに襲いかかって来た。戦いは数日間に及び、最後に残ったガーリーが仙人の首を落とすことで決着が付いた。ただ首だけになっても仙人は生きていて、首の無くなった体がひとりでに動き、自らの体にある仙石と呼ばれるものをガーリーに埋め込み笑いながら死んでいったのだとか。


 理由もわからずそこで意識を失ったガーリーは夢の中で仙人と語り合うことになった。仙石とはその仙人そのものでありそれを埋め込まれたガーリー自身を仙人と同じ存在へと変えるものだと語った。


 夢の中で様々な事を知ることになった。その一つが魔石に関してだった。魔石をその身に受け入れた者の本来の魂は既にそこにないのだと語った。どうやら魔石というものは体内に取り込まれ、その身と一つとなることで意識のみが複製され本来の魂は死を迎えて世界へと散っていくのだとか、この場合の世界というのはこの大陸のことだね。


 本来なら大陸に散った魂は混ざりあい再び別れ新たに生まれた生命へと宿るという、いわゆる輪廻転生といった感じなのかな? だけど、闇に閉ざされた世界では新たに生命は誕生しない、そして闇を晴らすには魔石をその身に取り込んだ禁忌の存在をある程度間引きしないといけないという結論に仙人たちは至ったと語った。


 私が思うに仙人たちってどこかで狂ってしまったんじゃないのかな。自分たちで決断して世界を闇で閉ざしたのに、それを晴らすには元とはいえ人を殺し続けなくてはいけなくて、それを続けた結果心が先に参ってしまった気もするね。


 なんていうか、そもそも闇で閉ざす原因である人たちだけどうにかしたら良かったのだろうけど、リュウセンが言うには気がついた頃には既に禁忌に手を出した国だらけで手遅れだったようだ。


 魔物の魔石を人に埋め込む技術はあちらの大陸にもあるわけで、広がる前になんとかしないといけないね。あまり乗り気になれないけど小国家群をなんとかしないといけないんだろうね。


 少し脱線したけど話は続いて、ガーリーになぜ仙石を埋めたのかという話になった。簡単にいうと、その仙人は完全におかしくなっていたとしか思えない。仙石を埋められたガーリーだけど、既に複数の魔石が体内に同化している。そんな所へ仙石なんてわけのわからないものを埋め込まれた結果、その体は魔力体という今の姿になったようだ。


 その仙人がいうには、己を殺した呪いとだけ言って消えて、その後いくら語りかけても反応しなかったようだ。ガーリーから言わせると何やってくれてるんじゃってなって、キレたというわけだね。まあ抵抗して殺しちゃったのが原因かも知れないけど酷いとしか思えない。それを聞いた私たちはガーリーって仙人たちの被害者だよねということになったのは言うまでもないでしょうね。


 その後ガーリーは仙人絶対殺すマンとなり大陸を巡って仙人を殺し仙石を取り込み、全ての仙人を殺した所で闇は晴れること無く数十年過ぎた頃に他大陸から怪しい集団がやってきて、獣人大陸のことを知り今に至ったと。


 所々でリュウセンの話と違うところもある気がする。魂に関してだとか、リュウセンは一言もいっていなかった、どちらが本当のことかは私には判断できないけど、ガーリーの方がそれっぽいかな。ただガーリーの魂は未だにガーリーの中にある気がするんだよね、複製ではない本物が……。


「ねえリュウセン、結局悪いのってあなたたち仙人だよね」


 私の言葉にこの場にいる全員が頷く。


「今となってはそうじゃの、だからお主たち魔女も選択を誤らぬようにな」


「そうだね、思うところがあるから気をつけるよ」


「それでリュウセンにガーリーよ、おぬしらはどうするのじゃ?」


 なんとなくだけど闇を晴らすだけならガーリーの中にある仙石を取り出せばいいだけな気がする。まだ世界を見る目を閉じていない今の私にはガーリーの中に核となっている魔石とそれと同じくらい魂が込められている四つの仙石らしきものが見えている。


「ねえガーリー、あなた生きたい?」


「生きたいかどうかなど自分でもわからない、お前たちに話を聞いてもらった事で、未練は無くなった気がする。ただ──」


「ただ?」


「ただ、闇が晴れた世界を、そして外の世界を見て回りたいと言った者から受け継いだ思いを、叶えられないのが心残りといえばそうかも知れない」


 世界を見て回りたいか……、よし決めた。


「リュウセン、ガーリーを殺すってのはガーリーの中にある仙石だけを取り出したら良いってことだよね?」


「ふむ、確かにそれで闇を晴らすことは出来るだろう。じゃがどこにあるかわからない仙石のみを取り出すことなど出来ぬのではないか?」


「ガーリー立ちなさい、今からあなたから仙石を抜き取るわ。そしてあなたの魔石は私が預かろうと思う、いいよね」


 私は立ち上がりガーリーに近寄る。ガーリーは私の言葉を聞いて立ち上がる。


「お前に捕らえられ負けた時に覚悟は出来ている、好きにするが良い」


 私は手に魔纏を纏う。多分だけど仙石を抜き取れば魔力帯は維持できずに霧散するだろう、その後何もしなければ仙石と繋がっていた魔石が砕ける気がするんだよね。勘だけど間違ってはいないはずだ。


 腕を引き、見えている四つの仙石らしき物に狙いを定める。最小の動きでほぼ同時に四つの仙石を抜き取るつもりだ。


「ふっ!」


 ガーリーの胸の真ん中には魔石がある。仙石はその魔石を囲むように上下左右に等間隔に並んでいるように見える。ガーリーの体は魔力帯なので円を描くように腕を動かして仙石の回収に成功し、その仙石を足元に落とす。


 それと同時に魔纏により魔力体が切り裂かれた事と仙石を失ったことにより、魔力体が維持できなくなった中央にある魔石にヒビが入るのが見えた。私は魔纏を解いてその魔石を両手で掴み保護するために魔力で包みこむ。


 私が中央の魔石を抜き出すように確保したことにより、ガーリーの体に埋め込まれ取り込まれていた他の複数の魔石が一瞬にして砕け、魔力体と共に塵となり風に飛ばされて散っていった。



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