第121話 魔女、原因を知る

 モヤモヤする理由はわかっている。同じように終わりを望んでいたアルダとベルダの二人は本当に心から終わりを願っていた、だからお互いに全力で悔いが残らないようにと戦った。その結果はああなったけど、最後は納得してくれたと思っている。だけどガーリーは口では闇さえ晴れれば死んでもいいと言っているけど、本心は違うように感じられる。


「はぁ、ティッシモありがとう、落ち着いたわ」


「そうですか、エリーさんはもう少し私を頼っていただいてもいいですよ」


 ティッシモから離れてから、私はガーリーの拘束を解く。ガーリーをぐるぐる巻きにしていた光の触手が溶けるように消えていく。


「どういうつもりだ」


 拘束が解けたことで立ち上がったガーリーだけど逃げる気はないようだ。仮に逃げたとしても逃げ切れないとわかっているのかも知れないけどね。


「リュウセン、ガーリーを殺す前に色々と聞かせて欲しいのだけど、いいよね」


 これは私の勝手だけど、何も事情を知らないまま死ぬよりは、ちゃんと知ってから死んだほうが良いだろうと思ったから提案した。私もだけど、ここに残っているみんなも知りたいんじゃないかな。


「ふむ、そうじゃの、そのものも何も知らずに逝くよりは良いかも知れぬな」


 リュウセンはよっこいせと言ってガーリーの正面へ座った。ガーリーはそんなリュウセンを睨んでいるが、何か行動するつもりはなさそうだ。カルラが座るとキッカとダイゴはカルラの後ろへ回り控える。アダルとギーラは私とティッシモの近くに座った。


「それでなにから聞きたいかの」


「そうだね、それじゃあまずは、どうして仙人はあっちの大陸を闇に閉ざそうと思ったのかな」


「まあもっともな疑問じゃな」


 そもそも仙人があちらの大陸を闇に閉ざさなければこんなことにはならなかったんじゃないかな。ガーリーがいつ生まれて、いつあの体になったのかはわからないけどね。


「事の起こりは五百年ほど前じゃたかの、当時は大陸の全ての国が争っていたのじゃ、その中の一つの国が禁忌を犯した」


 こうして始まったリュウセンの話をまとめるとこんな感じだった。一つの国が禁忌を犯すと、他の国も真似をして禁忌の手を出しはじめ、禁忌に手を出さなかった国から滅んでいった。最後には残った国同士敵味方関係無く戦いを続け、最後に勝ち残った国も自滅して滅んだようだ。


 禁忌というのは、想像はついているだろうけど魔石を人体に埋め込む行為のことだ。アルダとベルダのように、変態がダンジョンコアに一度加工したものとは違い、魔物の体内から取り出した魔石を人の体に埋め込むことを禁忌としていたのだとか。


 なぜ魔物から取り出したものを、無加工で埋め込むことが禁忌かというと、その魔石には魔物の力と共に魔物の意識のようなものが残っている場合があるからだね。弱い魔物ならまだいいのだけど、強力な魔物の場合手に入る力も相当のものだけど、意識が魔物に乗っ取られるわけだね。


 魔物の魔石を取り込んだ時は、その手に入った力を存分に発揮できるのだけど、時間が経つにつれ人の意識が侵食されることになる。弱い魔物の意識なら逆に取りこむことができるだろうけど、やはり強力な魔物ほど意識は強力なので取り込まれることになるわけだ。


 そうして意識を取り込まれ肉体を奪われ、最後はすべてを奪われることになる。そうなればもう人とは呼べる存在でなくなってしまうわけだね。初めて聞いた話だけど納得はできる。ダンジョンコアに加工済みのものでさえ埋め込めばアルダやベルダのように骨のアンデッドになるわけだからね。


 アルダとベルダがダンジョンコアを埋め込んだ上にその存在が変わったとしても意識を持ち続けられたのは、ひとえに変態の手により加工されたおかげとも言える。


 まあそんな理由で、魔石を埋め込んだ人ならざるものが戦いに暮れる場となった。そしてこの大陸をもとに戻すことは難しいと思った仙人たちが、大陸を闇に閉ざしたのは仕方がないのかも知れない。


 本来なら闇に閉ざされたことにより、人も魔物も僅かな生き残り以外は死に絶える予定だったが、魔石をその体に入れた人ならざる者たちは生き残っていた。そしてその中にガーリーたちのように理性を持った者たちがいたみたい。


 大陸を闇に包みこんだ仙人たちは、そこで力を使い果たし深い眠りに入ったのだとか、そしてリュウセン本人は少し前に目覚めたようだ。だからその間になにがあったかは予想はできても詳しくは知らないということで、代わりにガーリーが補足するように語ってくれた。


 闇に閉ざされた大陸では、いつしか魔石を取り込んでいない普通の人はいなくなったようだ。残ったのは魔石を取り込み知性を無くした者と、魔石を取り込み魔石の意識に乗っ取られたもの、魔石を取り込み理性を保ったもので戦いが続いていた。


 そんな中で、ガーリーたちのように理性あるものは、いくつかのグループに分かれて生きていたようだ。魔石を取り込んだことにより寿命はほぼなくなり生き続けていた。ちなみに、どうして闇に閉ざされていた大陸から外に出なかったのかというと、魔石を取り込み変質した人たちは、闇から出られなかったということだった。


 皆の視線がガーリーに向いた。闇から出られないはずのガーリーが、どうして闇から出られたのかそれはガーリーたちが隠れ過ごしていた集落に一人の男がやってきたことが始まりだったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る