第118話 魔女、捕まえる

 剣と杖がぶつかり合う音が響く。ガーリーは剣を使い慣れていないようで、私の攻撃を防ぐのでいっぱいいっぱいに見える。ただ私の方も攻めあぐねている。理由としては魔力を杖に乗せられないことが理由。


 あの吸魔の効果を持つ剣でわかったことがいくつかある。まずは世界に満ちている魔力であるマナは吸収できないこと、次に一定範囲内で発動しようとした魔力は吸収されてしまう。ちなみに今私たちが足場にしている結界は、魔術ではなくマナで作られているので吸収される心配は無い。


 何度か杖で殴り、わざと魔力を吸わせて確認したところ、ガーリーの持つ吸魔の剣はただ魔力を吸い取るだけの効果しかないようだった。いや、一応魔力を溜め込む事ができるようで魔術師が持てば魔力タンクの役割はできる気がする。


 吸魔の効果を持つ武器には色々な種類がある。ガーリーが使っている魔力タンクのものや、魔力を吸うほど切れ味が上がるもの、吸収した魔力を使い魔術を使うことができるものなどだね。


 対処方法はいくつかある、物理的に壊してしまうか吸収量限界以上の魔力を吸わせて飽和状態にして破裂させる、ただし今回のような魔力タンク型はどれくらいの貯蓄量があるのかわからないので飽和させるのは現実的ではない。流石の私も無限の魔力を持っているわけではないからね。


「なんだその杖は、どうしてこの剣と打ち合うことができる」


「ただの杖だよ、まあすっごく硬いけどね」


 お互いに一度距離を取る。ちらりと地上を確認すると前線は魔物と接触していて戦いは激しさをましているように見える。それ以外にもなんだか大きなもふもふした動物のようなものが見えたけどなんだろうかアレは。


 その後も何度か剣と杖をぶつけ合った所でガーリーの持つ剣が砕けた。剣が砕けたことにより溜まっていた魔力が溢れ出し散っていった。ガーリーは一度距離を取り、手に持っていた剣の持ち手を収納すると同じような剣を取り直した。


「一本じゃなかったんだ」


「まだまだあるぞ」


「そのようだね、それよりその腕輪ってどこで手に入れたの?」


「これか、これは他の大陸から来たと名乗った物の忘れ物だ」


「その人たちってあなたとどういう関係だったのとか聞いても良いのかな」


「聞いてもつまらぬ話だぞ、それよりも下は良いのか? ワシを早く殺さねば下の者どもが先に死ぬことになるぞ」


「下はまあカルラに任せておいても良いけど、そうだねせっかく用意した魔法を使わせてもらおうかな、あなたをどうするかは魔物を全て倒してからでも良いよね」


「何を言っている、魔物をすべて殺す? 先程の雷でも殺しきれなかったではないか」


「あなたを殺すと言っても、あなたは魔力体だから簡単には死なないでしょう」


 ニコリと笑いかけるとガーリーはなにか不穏なものを感じたのか、足場の結界から飛び上がり空へと舞った。私は杖をガーリーに向けて魔法を発動する。


「捉え、掴め、絡め取れ」


 準備しておいた魔力溜まりに魔術を使うことで魔法が発動すると、なにもない空中から無数の光の触手がガーリーに絡みつき捉えようと蠢き出す。ガーリーは吸魔の剣を振って応戦しているけど、マナを吸収できない吸魔の剣では切ることしか出来ないでいる。


「何だこれは、魔術ではないのか吸魔が効かない」


 いくら触手を切っても途切れること無く襲い来る触手に対処ができなくなり、数秒後には光の触手にぐるぐるまきにされて結界の上に落ちてきた。いやー、どうせ触手プレイするなら美少女のほうが目の保養になって良いんだけどね。あ、はい、冗談ですよ冗談。


「ぐっ、なにが目的だ、なぜワシを殺さない」


 なんとか抜け出そうとしているガーリーに近寄って、触手を操り腕輪を回収する。


「これは貰っておくね」


 腕輪についている宝石を腕輪から抜き取る。


「それと、勝手に死のうなんて思わないでね。まあ魔力体のあなたは自分で死ぬことが出来ないのだろうけどね」


「む、わかっていたのか」


「そりゃあね、これでも魔術や魔法には詳しいから。詳しい話はまた後でね、とりあえず魔物倒しちゃうから」


「魔物をどうにかしたいのなら、ワシを殺せばいいだろうに」


「あなたを殺しても、魔物が散らばってそれはそれで面倒だと思ってね、ちょうど一箇所に集まってくれているのだから一気にね」


 一度目を閉じて集中する、ガーリーと戦う前から準備していた魔法。これは魔術でもなく、魔法と魔術の合成でもない純粋な魔法。閉じていた瞼を開くと私の見る世界は極彩色に彩られる。世界に満ちているマナを視認しながら杖を振るい、マナを操り高濃度の魔力溜まりを作る。


「さあ来なさい、星の子よ」


 魔法なので別に言葉は必要ないけど雰囲気は大事だよね。魔術でもなく呪文でもないので言葉に意味はない。私の意思に従いマナがそれを掴み引き寄せる、それは宇宙を漂う岩の塊。ここまで語れば私がなにをしようとしているのかはわかってもらえるでしょうね。


 見つけたそれを掴むように片腕をあげて握り込む。マナもそれに合わせて岩塊を包み込み私が集めた魔力溜まりと道がつながる。


「メテオストライク」


 マナに包まれた岩塊はマナの道を通り魔力溜まりを出口として、空間を超え一瞬にしてその姿を表す。これは瞬間移動の応用で、対象を手繰り寄せることができるのだけど、まあ距離と対象の大きさによって相応の魔力が必要なんだよね。使っている魔力はマナなので周囲にあるマナがごっそりと消費されるのが見える。そしてマナを操作して隕石を大連山へと向ける。


 そして今私は冷や汗をかいている。思ったより隕石が大きい気がする。手頃な大きさだと思ったけど思いの外大きかった。急ぎ魔法でカルラに通信を送る。


「ごめんカルラ、全員急いで砦の裏まで退避させて」


「エリーお主何をやっておる、あの降ってきている岩の塊は何じゃ」


「文句は後で聞くから急いでみんなを避難させてね、よろしく」


 返事を聞かずに通信を一方的に切って杖にまたがりガーリーを回収する。落ちていく隕石を一度確認してから大急ぎで砦へと向かって結界から飛び上がった。

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