第119話 魔女、殲滅する

side:カルラ・カルマ


 上空に突然大きな岩の塊が現れたと思えば、エリーが一方的に皆を避難させよと言ってきよった。あれが落ちれば前線で戦っておる者たちも、ただでは済まないであろう。


「皆のものよく聞け、今すぐ戦闘をやめ砦まで逃げるのじゃ。これは厳命じゃ、魔物は無視して直ちに逃げるのじゃ」


 陰陽の力を使い戦場にいる全てのものに声を届ける。砦から戦場を見渡すと妾の声を聞いた者たちが魔物から離れ砦の方へと戻ってくるのが見える。逃げる者たちの後を追おうとする魔物もいるようだが、逃げに徹した獣人には追いつけないだろう。


 近くにいるティッシモと呼ばれるエルフの奏でる音楽が軽快なリズムのものへと変わった。それと同時に退避してくる者たちの移動する速度が早くなったように見える。


「少しばかり移動速度を上げる呪歌を使っています。それにしてもエリーさんはまたとんでもないことをやらかしましたね」


「本当に何を考えているのやら、あんな物を落とせばどれだけの被害があるのかわかったものではないわ」


「あはははは、エリーは本当に規格外だな、ここまでとは恐いる」


 ティッシモの護衛として残ったアダルと呼ばれていた人間が大笑いをしておる。確かに恐ろしいの、妾に同じことができるかと問われれば、似たようなことはできようがあれほどの事は出来ぬな。同じ魔女でもできることが高尾まで違うとはな。


 ふむ、大体のものは砦と城壁を超えその裏へ回ったようじゃな。大岩の塊はどんどんとその大きさをまして大連山へと向かっておる。


「ごめんなさい、結界を張るからカルラたちは念の為に砦の裏に回っておいて」


 エリーがよくわからないものを杖にぶら下げながら空から降りてきた。


「いや、妾はここであれを見届けようと思う、自分の身くらいは守れるでな」


「そう? まあいいけど。アダルたちとティッシモはどうする?」


「俺も面白そうだからな見学させてもらうぜ」


「私も見させていただきますよ」


 それぞれがエリーに返事をしている。もう一度戦場を確認する。逃げ遅れたものはいないようじゃな、魔物はこちらへと向かってきておるがその速度は遅い。もう一度大連山へと落ちていく岩の塊を見る。エリーはあのようなものを落としてどうするつもりなのじゃろうか。



 空から逃げ遅れた人がいないのを確認してカルラ達がいる砦へと降りる。カルラたちには念の為避難を促したのだけど見ているようだ。カルラ達がいる砦の上に降り立ち前方へ結界を張ろうとした。


 ん? マナの密度が薄い? このままじゃ強固な結界が張れない。ってそうだった、メテオストライクを使ったからここら周辺のマナがごっそり減っているんだったわ。


 収納ポシェットから魔力回復のポーションを取り出していつでも飲めるように口に咥えて、前方へ結界を張る。使う魔力は残っている薄いマナと私自身が持つ魔力だ。


 それにして初めて使ったメテオストライクだけど、今度使う時はちゃんと大きさをどうにかしないとね。流石にデカすぎた気がするけど、あれくらいのデカさがなければ、今回の魔物の大群を倒しきれないと思うしちょうどいいとも言える。


「それでエリーよ、そこに転がっておるのはなんじゃ?」


「んー、んんんーんん」


「なんと言っておるのかわからぬ」


 ポーションをくわえたままだからそれはそうだ。魔力にまだ余裕があるけど念のために一度ポーションを飲み干して、容器を収納に入れて新しくポーション取り出す。


「魔物をこっちに誘導してきた人だね」


 ここに残っていた人達の視線が一斉にガーリーへ向く。ガーリーは最初にあった時同様に無表情で光の触手に巻き付かれたまま転がっている。


「ふむ、こやつがの」


 カルラは興味深そうに鱗で覆われているガーリーの顔を見ている。


「大丈夫だと思うけど衝撃に備えてね」


 そう言った後にポーションを再びくわえる。私は大連山へとぶつかる直前の隕石を見ながら周りに注意を促す。全員の視線が隕石へと向けられたと同時に大連山から大爆発が起こり少し遅れて結界が衝撃波で震える。結界の向こうは砂埃が舞っていてよく見えないが、結界にはひっきりなしに何かがぶつかる感触が伝わってくる。


 結界に衝撃が走る度に魔力がごっそり減っていく、魔力がある程度減ったところでポーションを飲み干してから新しいポーションをくわえる。誰だこんな滅茶苦茶なことしたのは、はい私ですねごめんなさい。


「うぐっがぁ」


 ガーリーがうめき声を上げている。魔物が倒されたことで体内の魔石になにかの影響があったのかもしれないね。しばらくするとぞろぞろと砦や城壁の上に人が集まってくる。未だに砂埃で結界の向こう側は晴れない。魔法でちらしても良いけどこのまま休憩しても良いかもね。


「しばらくは砂埃が晴れないと思うから結界をこのままにして休憩するね」


 もう大丈夫かもしれないけど、くわえていたポーションを飲み干してからその場に座る。


「そうじゃの、魔物の生き残りがいるかも知れぬしの、キッカよ皆にしばらく休息と伝令を頼む」


「かしこまりました」


 キッカは周りにいる部下たちに指示を出して本人も走って行く。


「それでエリーはどうしてあのようなモノを落としたのじゃ? それにこの者をどうするつもりじゃ?」


「あー隕石は、まあ魔物の殲滅のためかな。そいつの名前はガーリーなんだけど、なんか色々と拗らせているみたいなんだよね」


「こじら、その言い方はなにか心を抉られるのだが」


 先程までうめいていたガーリーは落ち着いたのか、拗らせているという言葉に反応して情けない声で反応をしてきた。


「ふむ、ようわからぬがもう抵抗する気はないのじゃな」


「この状態で抵抗もできないからな、ワシはもうそこのものに全てを託すことにした」


 ガーリーは視線だけで私を見てくる。正直なところ捕まえたのは良いけどそうしたものかな。本人は死にたそうにしているけど、殺したからといって詳しく調べてみないと本当に闇が晴れるかもわからない。


「あなたの望みは闇を晴らすことでしょ? でもそれはあなたを殺したとしても晴れるとは限らない、そもそも闇っていうのがよくわからないんだよね」


「そうじゃの、妾も闇についてはよくわかっておらぬからの、魔女が揃った時に選択を迫られると聞いてはおるからの、闇について知っておくのは悪くないの」


「聞きたいことがあるなら何でも答えよう」


 ガーリーの声は相変わらず感情のこもらない平坦なものだった。

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