第116話 魔女、仙人について聞く
空中戦というのは正直苦手だ、やっぱり人間地に足がついていないとね。魔術で牽制しつつ降りられそうな場所を探してみるけど、地上はどこも魔物だらけで足の踏み場もないといったところだ。砦のあちら側に行くわけにも行かないし、後は大山脈のあちら側はどうなっているかだね。
ガーリーの攻撃をいなしながら、少しずつ上へのぼっていく。ある程度のぼれば大山脈の向こう側が見えると思ったのだけど、なんだか膜が張っているようで暗くて見えない。きっとこの膜が原因で闇に閉ざされているってことになっているのかな。
これじゃあ、あっちの状況もわからないし、仕方がないけど魔法で足場を作るしか無いか。ガーリーの攻撃を回避してから大きく離れる。
「ちょっとタイム」
「タイム?」
「あー、少しだけ待ってもらえるかな」
「なにをするつもりだ」
「足場を、ね」
ガーリーが律儀に待ってくれている間に足場となる結界を作る。
「何を……、これは結界か」
「正解、さてと強度は十分かな」
試しに思いっきり足下の結界を踏みつけたら、あっさり踏み抜いてしまった、強度が足りなかったか。もう一度魔法で同じ結界を作り、その上に更に結界を重ねる。軽く蹴ってもびくともしなかったので、先程よりも強めに踏んでも問題なさそうだった。
「お待たせ、どうやらあなたには生半可な魔術じゃ効果がないようだからね。ここからは私も素手で相手してあげる」
「ほう、お前のような娘がワシと無手で戦うというのか」
私は杖をポシェットに放り込み構える。構えた私を見てガーリーも結界へと足をつけると構えをとった。一歩二歩と最初は足下の結界の具合を確かめながらゆっくりと進み始め少しずつ速度を上げていく。ガーリーはあえて待ちの姿勢のようだ。私は走りながら魔纏の準備をする。
「ハッ!」
まずは魔纏を隠すために蹴りを放つと、ガーリーがそれをガードする。蹴りを防がれたがそこを軸にして回転するようにガーリーの頭に蹴りを放とうとしたけど、途中で空気を蹴って一度離れる。あのまま蹴りを放っていたら足を掴まれていたと思う。
着地と同時に再び攻撃に移り、今度は魔纏を使った拳で攻撃をする。ガーリーはそのまま片腕で防ぐつもりで私の拳を受け、そしてあっさりとガーリーの片腕が消し飛んだ。
「は?」
「なに!」
ガーリーは大きく後ろに飛び下がった。私は私で腕が消し飛ぶとは思っても見なくて変な声を出して追撃をすること無く立ち止まっていた。ガーリーに目をやると驚いた表情をして吹き飛んだ腕の場所を見ている。
「何だ今のは」
ガーリーはそれだけ言うと一瞬にして腕が元通りに再生させた。
「もしかしてあなたの体は魔力体なの?」
「ほう、ワシのこの体を知っているのか」
「見るのは初めてだけど知識としてはね。あなたの中にある複数の魔石はその魔力体を維持するためってところかな」
魔力体は読んで字のごとく、魔力で作られた体のことだ。ただし言うは易しって感じで成功例は殆ど無いのだとか、多分埋め込まれた魔石の一つが状態を形作る役割をしているんじゃないかな。
はっきり言って私でも魔力体を、ああも生身の体みたいに見せたり維持したりはできない、もしできるならあれだビームな剣を作ったり、剣の柄だけ用意して魔力体で剣の形にしたりできると思う。そして何より魔力体というのは頑丈なんだよね……普通は。
今回私の攻撃で腕が吹っ飛んだのは魔纏を使っていたかなんだと思う、ガーリーの魔力体よりも私の魔纏に使っていた魔力が上回ったために腕が吹き飛んだのだろう。
「この体は様々な魔石を取り込んだ結果こうなっただけだ。それにしてもワシの腕を吹き飛ばすとは、お前は仙人か?」
一瞬だけガーリーから殺気のようなものがにじみ出たが、それも一瞬のことですぐにわからなくなった。
「違うよ、さっきも言ったけど私は魔女の弟子を名乗っているわ」
「魔女か、仙人と同じ存在ではないのか」
「いや、あー、それはわからない。だけど私は仙人じゃないのは変わりないから」
「確かに……な、仙人はワシらが全て殺した、それゆえお前が仙人の理由はないな」
「殺した?」
「ああ、四人の仙人を仲間とともに全て殺した」
私の考えが正しければ仙人って結局は私たち魔女のこちらの大陸バージョンって事だと思うんだよね。それを殺したって事だよね、もしかすると闇が晴れないのって晴らす事ができる仙人を殺しちゃったからじゃないのかな? 魔女と仙人の人数の違いはなにか意味があるのかな、よくわからないね。
「ガーリーは仙人についてどれくらい知っているの?」
「不老にして天候を操り空を飛び、そして長年にわたりワシらの大陸を闇で閉ざし続けた者たちだ。ただ仙人共を殺しても闇は晴れなかった事から、この闇と仙人は関係ないのかもしれないな。だからワシは獣人共の大陸を滅ぼすことに決めたのだ」
「闇に閉ざされたままなのは、あなたが仙人を殺したからじゃないかな」
「どういうことだ」
「世界を闇に閉ざし、ある程度の人や魔物を減らし、その後に闇を晴らすのが仙人だったんじゃないかな?」
「その可能性もあるのだな……、これではまるでワシは道化だな。ワシらの体を好きにした者共を殺し、世界を闇に閉ざしたという仙人どもを殺した、それが原因で闇が晴れないというわけか」
「だと思うけど本当のところは分からないよ。ちなみにこっちの獣人大陸には仙人はいないって話だね」
「それはわかっている」
「わかってる?」
「仙人を殺したことでわかるようになった」
殺すことでなにか得るものがあったってことかな、仮に魔女を殺したら殺した本人が魔女になるとかあるのかな? でもガーリーが仙人になっているわけでもないからそれはないか。
「私が思うにあなたが死ねば闇は晴れるんじゃないかな。人の数が減り魔物の数も減りだけど闇が晴れていないのは、あなたが原因にしか思えないんだよね」
「そうかも知れないな、だがワシが死ぬのはこの獣人どもの国を滅ぼしてからでも遅くはないだろう」
「ほんと強情だね、仕方が無いそれなら決着を付けましょうか、あなたも本気できなさい」
「よかろう、仙人ではないにしろお前はそれと似たような存在のようだからな」
さてと魔法の準備はできた、いつでも発動は可能だけど、どうしたものかな。
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