第115話 魔女、敵と相対する

side カルラ・カルマ


 エリーが飛んで行きよった。杖に座っておったがその必要があるのかの? まあよいか、ここからは妾の仕事じゃからな。


「皆のもの、我が友により敵はうち倒された、されどまだ生き残りがおるようじゃ」


 陰陽術を使い戦場全体へ声を届ける。仲間の盾にしたのか倒れ伏す魔物の下から生き残った魔物が這い出てくるのが見える。どの魔物も操られたままのようで逃げる事もなくフラフラとこちらに向かってくる。


「今こそ我らが戦うときぞ、我らが国は我ら自身で守らねばの」


 腕を振って手に持つ扇子を開く。それと同時に九つの炎の塊を生み出し、扇子を持つ手を一度あげて振り下ろす。九つの狐火が生き残っていた大型の魔物に飛んでいき消し炭にする。


「さあゆけ無頼の兵どもよ、今まで鍛えたその技を持ちて敵を打ち砕くが良い!」


「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」


 そこかしこから雄叫びが上がり、砦から武頼の剣士たちが走り出していく。


「さて私も始めるとしましょうか」


 エリーの仲間として着いてきていたティッシモというエルフが楽器を手にとり演奏を始める。戦いに向いた勇壮な調べを聞くと気力が湧いてくる。エリーが呪歌と言っていたものじゃな。


「それではキッカよ後は頼むぞ」


「かしこまりました主様」


 キッカが部下を連れて砦から出ていく。後は任せて妾は少し休ませてもらおうかの。久しぶりに外へと出たからか疲れたの、年は取りたくないものじゃな。



 下が盛り上がっている中、私は杖に座って空を進む。黒いナニカからも私が見えたようで待ち構えているのがわかった。近づくにつれ黒い塊かと思ったのだけど少し違った。まず顔は人のそれだが目の色が赤くて、肌が鱗に覆われているように見えるがそれよりもその体を覆っている可視化できるほどの黒い魔力が気になる。


「先程の雷はお前の仕業か、お前は何者だ?」


 ある程度近づいた所で声を掛けられたので止まる。


「あなたこそ何者なのかな、この魔物の群れはあなたの仕業でしょ」


「ワシか、ワシのことは魔人とでも呼ぶがよかろう」


 特に感情を表すこともなく淡々と答えてくる。気迫もなにも感じられない。


「魔人ね元は人なんでしょ」


「そうだな魔人となる前はただの人であった、それももう数百年も前の話しだがな」


 見た感じ複数の魔物の魔石を埋め込んでいるように感じられた、その全てになんだか魂のようなものを感じる。


「それで、どうしてこっちにまで魔物をけしかけたのかな?」


「闇が晴れぬからだ、その原因がこの大山脈を超えた人ならざるものの国だと教えられたのでな、ここを滅ぼすためだな」


「教えられたって一体誰に……」


 なんとなく想像はつくけどね、きっと私が殺すことになったあの獣人の少女たちに魔石と魔結晶を埋め込んだ奴らでしょうね。


「そのものらは他の大陸から来たと言っておったな、その殆どはワシが糧としたがいくらかは逃げおおせたであろうな」


「それが嘘だとしたら?」


「今更止めぬさ、滅ぼしてみれば嘘か真かはわかるわけだからな」


 話しているうちも私が倒した以上の魔物が大山脈を超えて山を転がるように下っていくのが見えた。あまり長々と話しているわけにも行かなさそうだね。


「はぁ、なんだかやりにくい、これを止める気がないってことでいいんだよね」


「無い。そうだなワシを殺すことができれば魔物共は止まるだろうな」


「一応聞くけどあなたの望みは、いえ願いはなにかな」


「ワシの望み……願い、闇が晴れること、生き残りがいるかはわからぬがそのもの等が許されること」


 表情は全く変わらないけど、なんとなく悲しんでいるように感じられた。なんだかなー、この魔人を名乗る人もなにかの犠牲者ってところなのかな。


「そうだね、もし生き残りを見つけたら、できるだけのことはしてあげる」


「そうか、ならばワシを殺してみせろ、そうしないとこの地の生きるもの全てをくらい尽くすまで止まることは無いからな」


「あなたの手で止めることって出来ないの?」


「言ったであろう、ワシは止めるつもりはないと嘘か真かは滅ぼせばわかると、ワシとてむざむざ死ぬつもりはない、ワシ自身が背負い仲間に託されたモノのためにな」


「そっか、それじゃあ仕方ないね、私が全力であなたの生を終わらせてあげる」


「やれるものならやってみろ」


 私は座っていた杖から降りて空中に立ち上がり、杖を構える。空中に立てているわけは足場を魔法で作っているからだ。流石に魔物がうごめいている下で戦うわけにも行かないからね。


「私はエリー、魔女の弟子を名乗っているわ」


「ワシはガーリー、魔人ガーリーだ」


 私は杖を構える。ガーリーは武器などは持たず無手だが、構えは徒手を得てとしているのがひと目で分かる構えをしている。上空にいるため私のローブは風でバサバサとなびいている。それじゃあやりますか、まずは小手調べ。


「穿て」


 普段のように長距離の狙撃仕様ではなく、ただ魔力の弾丸を飛ばすだけだったが、ガーリーは特に回避も防御もすることはなく片手で受け止めた。傷一つ付けられていないことからこの程度じゃ駄目ってことだね。さてとどうしたものかな、次に撃つ魔術を考えているとガーリーが空中を一歩一歩踏みしめるように走って来た。


 正直どういう原理で空中を踏みながら走ってきているのかわからないけど、拳を振り上げ殴りかかってきたので杖で受け止めるが、空中のために踏ん張ることが出来ずその威力のまま後方へ飛ばされることになった。


「火よ、水よ、風よ、土よ、矢となり穿て」


 飛ばされながらもガーリーに狙いを定め魔術を放つ、穿て程度じゃどうにもならないだろうけど、どの属性を嫌うか分かればいい程度の嫌がらせみたいなものだ。各種の属性の矢を複数作り出しガーリーに向かって殺到する。ガーリーの体や翼に魔術のいくつかは直撃したがただの穿て同様に傷らしきものは見受けられなかった。


「いったいどういう体をしているのよ」


「その程度か? その程度ではワシに傷一つ付けらないぞ」


「今のは小手調べよ、本番はこれからね」


 次はどうしようかと考えながら、こっそり魔法の準備を始める。

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