第114話 魔女、振り返る

 大山脈、特に名前はないらしいのだけど、そこへ向かって飛びながら少しここについてからの事を思い出してみる。そうそれは都から三日掛けてたどり着いた時のことになる。



 騎竜に乗り都を出てから三日ほど、獣人大陸と闇に覆われているという仮称暗黒大陸とを遮る大山脈が見える場所に到着した。


 そこにはいくつもの砦や野営地が出来ていて、既に武頼の剣士たちが集結している。大山脈から砦の間には荒野が広がっていて、そこには既に罠がわんさかと仕掛けられているらしい。砦の上から見ても逆茂木が所々に設置されているのがわかる。


 砦と砦は城壁で繋がっていて、この砦が最終防衛線ということだった。後は投石機なんかもかなりの数揃えられていて、防衛というよりもこちらが攻城でもするのかと言った様相だ。


 この砦にそれをつなぐ城壁や罠は一年ほど前から準備が始まり、つい最近完成したとのことだった。暗黒大陸から攻められるのはカルラの先見の能力で知ったときから準備を進めていたのだとか、それにしても私が森を出て、このタイミングでここにいるのは誰かの手のひらの上にいるようでなんだかなーって感じざるを得ないね。


「この感じだともう数日もしたら戦が始まりそうだね」


「そうじゃな」


 私とカルラにキッカたちは中央の砦の上から山脈を見ている。本来なら大山脈の頂上付近は万年雪で真っ白らしいのだけど、今は雲に覆われていて頂上付近は見えない。ただ見える範囲は無数の魔物が次々と山脈を超えてきているようで真っ黒になっている。全体的には大山脈の半分くらいまでが魔物の群れにより黒く染まっている。


 足を踏み外したのか、たまに転がり落ちるように山脈を落ちていく集団が見受けられる。ここからじゃあわかりにくいのだけど、大山脈はあちら側もこちら側も急斜面になっていて、そういう所が人を寄せつかなくしており、超えることが難しい理由でもあるのだとか。そのおかげで獣人大陸は暗黒大陸から今まで攻められることはなかった。そもそも暗黒大陸で生き残っている者たちは、情報を得るまで獣人大陸の存在を知らなかったのだからね。


「さてと、状況はわかったけど、私はどう動いたら良いかな?」


「そうじゃの、エリーには魔物共を誘導しているであろう者を探して欲しい」


「いるとしたら雲で見えない所かな」


「それもあっての頼みじゃな、エリーなら空を飛んで行けるであろう」


「そうだね、それじゃあ最初に一発攻撃してから探しにいくことにするよ」


「ふむ、お手柔らかに頼むぞ、灼熱やら極寒やらにされると後の戦いに影響があるからの」


「わかったよ、その辺りはなんとか考えてみる」


 さて私がどう動くかは決まったけどティッシモとアダルたちはどうするのかな?


「私は歌を奏でますよ」


「ねえティッシモ、呪歌って敵が聞いても効果があるものなの?」


「普通なら聞いたもの全てに効果がありますが、私の場合は味方だけに作用するように、風を操作していますので問題ないですよ」


「そうだったのね、ティッシモってなにげに器用だよね」


「エリーさん……、いえなんでもないです」


 なぜかティッシモに呆れられた。普通に器用なことするなーと感心しただけなのにね。続いてアダルに声をかけてみる。結局なにが目的にでここまで来たのかわからないけど。


「アダルとギーラは?」


「俺たちか? 俺たちはティッシモの護衛とかどうだろうか」


「どうだろうかって言われても、そうだねティッシモの護衛をしてくれるなら助かるけどね。で、そろそろアダルたちがここまで来た理由って教えてほしいかな」


「むっ、そうだな、わかった。エリーには頼みあいことがあるからな」


 どうやらここに来て話してくれるらしい。


「エリーにも渡したが、この腕輪に関係してることになる」


「収納の機能が付いている古代のアイテムだよね」


「そうだ、そして俺の腕輪は特別性でな、ここに穴が空いているのだがわかるか?」


「空いてるね、六個中埋まってるのは一つだけだね」


 宝石みたいなものが一つだけ埋まっているようだね、魔石とも違うしパッと見ただけじゃあよくわからないね。


「それでだな、これのうち一つがこっちの方向にあるようなんだわ。ただな、ありそうな場所っていうのが……」


 アダルは、大山脈の上の方へと顔を向ける。


「どうやらあそこらしいんだ」


「つまりは、私に探してきてほしいと言うことだね」


「端的に言うとそうなるな、まあ見つけられなくても戦が終われば探しに行くつもりだから見つけられなくても気にしなくてもいいがな」


「そういう事なら、どのみちあそこまでは行くからね、まあ気をつけてみてみるよ」


「頼む」


「ちなみにそれが全部揃ったらどうなるの?」


「それなんだがな、わからないんだわ。この腕輪自体は俺の家に代々伝わっていたものなんだが、どういったものとかは伝わっていないんだ」


「そうなんだね、まあなにかわかったら教えてほしいかな。面白そうだからね」


「エリーならそう言うと思った、なにか分かれば教える」


「それじゃあ、ティッシモの事よろしくね」


「おう、任された」



 という感じの話が今につながるわけです。サンダーストームを使った事で、雲が散らばった。そのおかげで大山脈の山頂が見えている。敵はそこにいないようだけど、頂上より上空に黒いヒトの型をした何かが目に入った。あれがこの魔物たちを誘導しているヤツなんだと、なんとなくそう感じた。

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