第111話 魔女、素材を受け取る
港で待つこと3日、アダルたちが帰ってきた。港が一瞬大騒ぎになっていたけど、アダルたちが途中で遭遇した巨大魚を倒して牽引してきたからだった。今回牽引されてきた巨大魚は小さい方らしいけど、アダルの船と同じくらいの大きさがあった。
名前は龍魚と言われているらしいけど、竜要素はないよね。見た目はなんというかリュウグウノツカイ? それっぽい、リボンのように細い体は銀色で、頭から赤い飾り紐が数本見えている。そしてこいつはあまり美味しくないらしい、ただこの図体なので色々使い道はあるみたい。
ちなみに船ほどの大きさがあるのにこいつは魔石を持っていないので魔物ではないようだ。魔物なら錬金術の素材がなにか取れるかもしれないのに残念だよね。今更になるけど、海の魔物を素材とした錬金術ってあまりしたこと無い。
魔の森暮らしじゃなかなか海の素材は手にはいらなかったから仕方ないけど。どうしても必要な素材は師匠が保存していたり、どこかから持ってきていたのを使っていたけど、自分で採取したことが無かったことに気がついたよ。
獣人大陸の事が終わったらしばらくどこか海の近くを拠点にして色々と錬金術の研究をするのも良いかな。それもこれも戦が終わってからになるだろうけど、あとはアダルに船大工を紹介してもらって、船を作ってもらいたい。
「ティッシモお帰り」
「ただいま戻りました、素材はこちらに全て入れています」
ティッシモが収納袋と残ったお金を差し出してきたので、素材だけ受け取りお金はそのままティッシモに返した。
「残ったお金は今日の宴にでもアダルたちと使っていいよ、余ったらはティッシモが持っていていいよ」
「わかりました、そうさせていただきます」
「えっとそれでダイゴはどこ行ったの?」
「ダイゴならあちらに、久しぶりの再開ですし放っておいてあげてはいかがですか」
ティッシモが指し示した方向には、抱きしめあってるキッカとダイゴの姿があった。情熱的だねと思われがちだけど、獣人にとってはああいうスキンシップは普通のことなのだとか。特に仲の良い、早い話が恋仲の者同士はお互いの臭いを相手にこすりつける行為にもなっているので接触が増えるんだって。
あちらの大陸や船の上ではまだキッカとダイゴはそういう仲ではなかったので、距離が開いていたけど、今後はあの距離感が普通になるようだ。
「そうだね、あの二人は勝手に好きにやるでしょうから放っておきましょうか、それで今回の旅はどうだった? 面白いことがあったのなら聞きたいかな」
「そうですね、その辺りは夜にでも酒場で歌わせていただきますよ」
「歌にできるほどのことがあったんだね、それは楽しみだ」
夜まで少し休むということでティッシモとは一度別れる。龍魚を引き取ってもらい、積み荷を降ろす作業を終えたアダルとギーラが私を見つけてやってきた。
「よう、素材は受け取ったか」
「受け取ったよ、アダルとギーラもありがとうね」
「報酬は十分に貰ったからな」
「残ったお金はティッシモに渡してるからそれで今日の宴で使ってね」
「そうか、ありがたくそうさせてもらおう。あーそれでだな少しエリーに頼みたいことがあるんだが聞いてくれるか?」
「なにかな、素材も集めてもらったし、私にできることなら大抵のことは聞いてあげるよ」
「船なんだがな、あれを持ち運べるように出来ないものかと思ってな。俺もギーラも収納アイテムは持っているのだが、流石に船ほどの大きさのものは無理でな」
そう言ってアダルは腕輪をかざして見せてくる。どうやら腕輪に収納の機能を組み込んでいるらしい。ぱっと見ただけだけど、よくわからない、錬金術とも違う作りをしているように見えるのだけど。どちらかというと変態が作る魔道具に通ずるものがあるかもしれない。
「もう少しよく見せてもらえないかな」
「おうっと、少し待ってくれ」
そう言ってアダルは腕輪から、その腕輪と似たような物を取り出して私に差し出してきた。収納アイテムに収納アイテムを入れれるって事は錬金術も絡んでいるのかな、よくわからないね。錬金で作った収納袋なんかには魔道具としての収納アイテムは入れることができるんだけど、魔道具としての収納アイテムには収納アイテムを入れることが出来ない、理由はわからないけどね。
「同じ物というわけではないが、これをやるよ」
「いいの?」
「まだ何個かあるからな、それでどうにかなりそうか」
「ん? あぁ船ね、それならこれをあげるよ」
私は収納ポシェットから一つの収納袋を取り出してアダルに渡す。この袋は実は失敗作なんだけど、なにかの役に立つかもと思って収納ポシェットに入れっぱなしにしていたものになる。どう失敗作なのかというと、一つの指定した空間内にあるものを全て収納してしまう、そして収納できる空間は一つのみになる。
「その収納袋はちょっと昔作った時に失敗したものなんだけど、ある一定の範囲を指定するとその空間内にあるものを全て収納してしまうんだよね。そしてその一つの空間を入れてしまうと他には何も入れることができなくなる」
「空間をか。なあもしその範囲内に生きている生物がいたりしたらどうなるんだ?」
「それはその生物ごと取り込まれることになるよ」
「ちなみにだ、その取り込まれた生物は中で生きていられるのか?」
「中の時間経過が止まったり遅くなったりはしないから、しばらくは生きてられるだろうね、ただ取り込んだ空気が無くなると死んじゃうかな、それと中からは出れないから気をつけてね」
「試したのか?」
「そりゃあまあね」
出来上がった時になにかおかしいのが出来たなという事で、師匠と一緒に色々と実験をしたんだよね、その実験の一つとして私自身が中に入ってみた。中は真っ暗で魔法や魔術は使えたけど何をしても外に出ることは出来なかった。
「今回の船の収納って意味でなら最適なものだと思うよ。ただその腕輪に入れられるかまでは試してみないとわからないけどね」
「確かにな、それは後で試すわ、もし駄目でもこの大きさなら腰にでも下げておけばいいだろ」
「それでどうして船を持ち運びたいなんて思ったの?」
「そりゃあ一つしか無いだろ、俺とギーラも今回の戦とやらに参加するつもりだからな」
そう言ってアダルとギーラは不敵な笑みを浮かべている。参加する理由はなんだろうね、まあ私に止める権利はないから好きにしたら良いと思うけどね。
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