第110話 魔女、名前を決められない
「おぉよしよし、元気にしてたかな」
愛しの騎竜ちゃんの首元をなでなでしてあげると気持ちよさそうに目を細めている。一度都に戻ってきた私たちは宿で一晩休み、港へ向かうために騎竜を受け取った。相変わらずこの子は私を怖がらないどころかすり寄ってくる所なんて可愛くて可愛くて……。
「ねえキッカ、この子を買い取ったりって出来ないかな?」
「騎竜をですか? 出来なくは無いと思いますが、所有者に聞いてみないとなんともですね」
「所有者って港のこの子がいた所?」
「そうですね、あそこの主人が買い取った騎竜が殆どだと思いますが、牧場主から借り受けている場合もありますので話を聞いてみないことには。ただ今は騎竜が不足がちなので売ってもらえるかまではわかりません」
この大陸には騎竜を育てている牧場がいくつかあるらしい、そしてその牧場から各町や村に貸し出されているのが殆どということだ。ただ都の場合は戦いに携わる剣士と呼ばれる人達が騎竜を個人所有していたりするようだ。それに関連して、今は騎竜が不足しているのだとか。
騎竜に乗って港へ向かいながら、暇つぶしも兼ねてこの獣人大陸のあれこれをキッカに聞いてみた。あっ、ちなみにチワンくんはキリエお婆ちゃんにお返ししておきました、別れ際に捨てられた子犬のような目で見つめられたけど仕方ないよね。
えっとなんだったかな、あーそうそうこの獣人大陸に関してだね。まずは都について、都は特に呼び名とかなく普通に都とだけ呼ばれている。そしてこの獣人大陸の戦力として武頼と呼ばれる組織がある。武頼と呼ばれる組織に所属するものは剣士と呼ばれていて、ダイゴやキッカも剣士の一人なんだとか。簡単に言うと武頼とは軍隊のようなものと思って貰えればいい。
それで統治に関してだけど、あちらの大陸のように貴族がいたり、そういう人達が領主になり領地を持って治めているわけでは無い。そういったわけで全ての統治を都で行っていて、町や村に都から役人を送り統治する形を取っているのだとか。といっても、流石に広いので村長や町長が普段は町や村をまとめていて、いわゆる年貢を計算したり集めて運ぶのが役人の仕事となっている。
そう言った年貢は都にすべて集められるわけではなく、一定間隔に作られている砦に集められ、その砦に武頼から派遣された剣士が常駐していて、魔物の討伐などを請け負っている。不作で困窮する村などが出た時は、その砦から援助がされたりとうまい具合に回せているようだ。
もうお分かりかもしれないけど、この獣人大陸には冒険者ギルド的なものはない。何かがあれば武頼の剣士が対応している。武頼の剣士と一言で言っても色々な役割に分類されているみたい。
ダイゴの様に戦闘一辺倒の者から、キッカの様に諜報に長けた者、雑用全般を担うものもいたりと多岐にわたる。獣人の種族によって得意不得意があるからね、自然とそういう形になっていったみたい。
面白い事にこの獣人大陸には賊と呼ばれるような物はいないらしい、つまりは賊になるほど困窮するということが無いということだね。あちらの大陸とは違い、現在この獣人大陸と呼ばれる地域は他国に責められるということが無いから、国内統治が行き渡っているのかもしれないね。
そういう意味では平和なのかもしれないけど、魔物はどこにでも沸いてくるからそれに対する戦力として武頼は維持されているのと、どこの村や町でもあぶれ者は出るようで、そういった人達の受け皿となっているようだ。
そして今回の戦では、最低限の人数をそれぞれの砦に残し武頼の剣士が総出で当たるらしい。そういった事もあって、今は騎竜が不足がちになっているようだ、なんとか一般の人が使う騎竜は残すようにしているようだけど、それ以外の騎乗が可能になった騎竜は武頼の剣士に回されているとのことだった。
ただ私の乗っているこの子は、今まで私以外に懐くことがなかったと聞いているので大丈夫だろうと言うことだった。私もその戦に参加するわけだし、なんとかこの子を購入したいものだね。
◆
そして港町に着いたわけだけど、まだアダルたちは戻ってきていないようだった。ただあと数日もしたら戻ってくるという予感は感じられたのでそれまでゆっくりしようと思っている。
肝心の騎竜の問題だけど、購入は出来なかった。いやね別にオーナーさんが売り渋ったとかそういうわけじゃないんだよね。理由としては都から販売の停止を言い渡されているとのことだった。ただこのまま専属としてレンタルは可能という事と、販売許可が下りれば購入してやってほしいと逆に頼まれてしまった。
どうやらこの騎竜は、年齢としては結構ご高齢なんだとか。後何年生きられるかわからないけどそれでも良ければということだったけど、問題なく購入させて欲しいといっておいた。
あと名前を決めてあげて欲しいと言われたのだけど、今まではなんと呼んでいたのかと聞いた所、騎竜は騎手としての主人以外が名前を付けるのを嫌うようで付けていないということだった。
そんな理由で、いま私はこの子に何と言う名前をつけようかとものすっごく悩んでいます。黒◯号や松◯とかは怒られるだろうし、赤兎馬は色が違うし風雲◯起やマ◯バオーもアウトだと思う。シルバーは流石にベタだよね、さてどうしたものかな。
「よし決めた、君の名は……エリーサンブラッぐふぉ痛い痛いって、レバーに頭突きはやめて、冗談だから、ホント冗談だからね」
んーいい名前だと思ったんだけどな、エリーサン◯ラックは気に入らないようだ。いやホント名前どうしようかな。
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