第109話 魔女、死亡フラグを語る

「エリーさんは、いえエリーさまは仙人だったのですね」


 チワンが急に跪くとそんな事を言ってきた。


「えっ、違うけど。そもそも仙人っているの?」


 ファンタジーな世界だし、魔術師や魔女やらはわかるのだけど、流石に仙人はごちゃまぜじゃないのかな、とも思ったけど陰陽術がある時点で手遅れかもしれない。いやでも流石に仙人はどこから出てきたのだろうか。


「様々な薬に通じており、そして空を舞う姿はまさに仙人ではございませんか」


 目をキラキラさせてそんなに見つめられても反応に困るんだけど。


「えっとキッカさんや、仙人ってどういうことかな?」


「仙人とはこの大陸に語り継がれている伝説の存在ですね。不老不死であり、様々な薬に通じており、空を飛び、神通力を使えると言ったものになります」


 それだけ聞くと、あちらの世界で言われる仙人と変わらないのかな?


「ちなみにこの大陸というのは、獣人大陸ってことでいいんだよね」


「いえ、この話は闇に閉ざされる前にあった国々で語り継がれていたと伺っております」


 ふむ、薬に通じていて、空を飛び、神通力が使える……、なんかすごく覚えがある気がするね。どう考えてもさっきのヒュドラとの戦いがそんな感じだったよね。


「チワンくん、私は仙人じゃないからね。こちらの大陸じゃあ馴染はないかもしれないけど、私は魔女の弟子を名乗っているのよ」


「魔女の弟子ですか、それはもしかして仙人という身分を隠す隠れ蓑みたいな呼び名の事ですね」


「違うからね、仙人関係ないからね、わかる? わかったよね?」


「はい、わかりました、誰にもいいません、ですので僕をエリー様の弟子にしてください」


 いやこれ絶対わかってないでしょ。


「弟子は取らないから、それにチワンくんはキリエお婆ちゃんの弟子でしょ、そういう不義理な子は嫌かな」


「そ、そうですか」


 めちゃしょんぼりし始めたよ、垂れた耳が悲しみを現してる。


「はぁ、まあ仙人がどうとかは別として色々教えてあげるよ。戦闘に関しては……、諦めたほうが良いかな」


「それで構いません、よろしくお願いします」


 垂れていた耳がピント立ち、尻尾がフリフリしている。獣人ってほんと感情が解りやすいよね。


「それで仙人っているの?」


 キッカに聞いてみた所、闇に閉ざされる前のあちらの方には存在したらしい。ただ今となっては生き残っているかもわからないとのことだ。ちなみにここ獣人大陸では今のところ仙人を目撃したという話は聞いてないのだとか。


「まあいいか、とりあえずヒュドラは収納して後で解体しようね、その時にでも魔物の解体の仕方も教えてあげるよ」


「はい、よろしくお願いします」


 収納ポシェットにヒュドラを入れて洞窟から外に出る。


「これでこの辺のめぼしい魔物の討伐は終わりかな」


「はい、ありがとうございます」


「さっきのヒュドラなら、キッカ一人でも行けたんじゃないの?」


「どうでしょうか、うちは一人での戦闘は向いてませんので」


「ゲンタがいないとダメってことね」


「いえ、決してゲンタがというわけではなくてですね、前衛が戦っている隙をつかっての戦闘が得意というだけですね」


「あはは、わかってるから」


 少しキッカをからかってから山を降りる。今日は近くの村で一晩の宿を借りるつもりだ。途中で野生のイノシシっぽい動物やシカっぽい動物を狩ったので、一晩の宿代にするつもりではある。


 こんな感じで、薬の素材や錬金術の素材を集めるついでに珍しい魔物を倒して回っている。だけどこの旅もそろそろ終わりかな。予定通りならそろそろダイゴやアダルが戻って来てもいい時期だと思う。


「キッカ、そろそろ港に向かおうと思うのだけど、一度都に行ってからのほうが騎竜が使えるから早いよね?」


「そうですね、うちとエリー様の二人なら直接行っても変わらないと思いますがチワンもいますからね。それに直接行ってしまうと再び都に戻る時にエリー様と相性の良い騎竜がいるかどうかですね」


「僕もついて行ってもいいですか?」


「チワンくんも? ただ連れ合いを迎えに行くだけだよ」


「まだまだ僕はエリー様から学びたいのです、その薬だけではなくその錬金術というのにも興味があります」


「錬金術か、申し訳ないけどチワンくんには教えられないかな」


「駄目ですか」


「んー、駄目というか時間が無いんだよね。チワンくんも知っているでしょ? もう半月もしないうちに戦争が始まるって」


「はい」


「だから低級までだとしても教えている暇はないかな」


「それでは、戦争が終わ──」


「危ない! それ以上は言ってはいけないよ、それは俗に言う死亡フラグだからね」


「死亡フラグですか」


「そうだよ、覚えておきなさい。戦いが終わったらとか、戦争が終わったらとかは死亡フラグだから、口に出すと死ぬ確率が上がるんだよ」


 チワンくんの顔がなんだか青ざめているように見える。耳と尻尾のこころなしか元気がなさそうだ。


「エリー様あまりチワンをからかわないでくださいよ」


「えっ、嘘だったのですか」


「そうですね、エリー様は大げさに言ってますが、うちが知る限りでは半々と言ったところでしょうか」


 死亡フラグというものを怖がっているチワンくんをからかいながら、私とキッカは村に着くまで死亡フラグ談義に花を咲かせた。最後に全部冗談……かもしれないと締めたら、チワンくんに怒られました。それでも私は死亡フラグはできるだけ立てないほうが良いよと言っておくのでした。

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