第108話 魔女、ヒュドラと戦う

 本日は晴天なりー。

 あれから数日は、キリエお婆ちゃんの所で薬作りをしていた。まずは簡単な傷薬から作り始めて、少しずつ難易度を上げていった。最後には高難易度の物を作った所で材料の違いや分量の適切な量もわかるようになった。


 その頃には、最初は批判的な目で見てきていたチワン君以外のお弟子さんも、普通に接することが出来るようになった。キリエお婆ちゃんには「わしの後を継がないか」と言われたけど断ったけどね。その代わりキリエお婆ちゃんには、今回作った薬のレシピ帳を渡しておいた。レシピ帳があれば、お弟子さん育成にも役に立つだろうからね。


 そして一通り薬を作りきったのだけど、素材がなくて作れない物も出てきた。という事で、キッカの案内のもと素材集めに来ているわけです。なぜかチワン君も付いてきているのだけど、山道でも弱音をはかずに着いてくるのは偉いね。


「それで、この先に例の魔物がいるのかな」


「はい、最近見かけたという報告が上がってきていまして、調査の結果この山の中に生息していることが判明しています」


 目の前には洞窟があり、獲物はこの中にいるということだった。


「チワンくんは外で待っていてもいいよ」


「付いていきますよ、むしろこんな所でおいていかれると魔物に襲われて死ぬ自信があります」


「いや、そんなことに自信を持たなくても、キッカはチワンくんを守ってあげてね」


「わかりました、はぁチワンはふもとの村で休んでいれば良いものを」


「すみませんキッカ姉さん」


 チワンくんの犬耳と尻尾がへにゃりと垂れていてかわいい。


「それじゃあ行くよ」


 私は魔法で灯りをともして洞窟内に足を踏み入れる。奥からはなんだか生ぬるい風が吹いてくる。確実になにかはいるね。奥へと進んで行くと、通路の脇には骨が散らばっているのが見えた。それを見てしまったのかチワンの動きが遅れる。それに合わせて私とキッカも少し歩く速度を落とす。


「チワンくん大丈夫? その辺りに転がっている骨は人のものじゃないから安心しなさい」


「だ、大丈夫です、平気です」


 私とキッカは視線を交わして苦笑を浮かべる。さらに奥へ進むと広い空間が広がっている場所にたどり着いた。そしてそこに獲物がいるのが見えた。獲物の方も私たちを見つけたようで寝ていた体勢から起き上がり、こちらを睨みつけてくる。


 2つの首と4つの瞳、そこにいたのは2つ首のヒュドラだ。本来ヒュドラは9つの首を持つのだけど、いま目の前にいる双頭のヒュドラは突然変異のたぐいだと思う。普通のヒュドラよりも倍以上の体躯をもち、それが持つ毒は普通のヒュドラよりも濃度が10倍とも言われている。


 今回の目的はそのヒュドラの毒の回収だ。ついでなので討伐依頼なんかはないかなと探した所で、ちょうど発見の知らせをキッカが受け取ったというわけだ。チワンくんの事はキッカに任せて、私は杖を片手に持ち双頭のヒュドラへと歩み寄る。


 ある程度近づいた所で、横合いから尻尾が伸びてきて私を薙ぎ払おうとする。それを飛び上がることで回避した所へ、左右からヒュドラの首が伸びてきて、空中にいる私を丸呑みにしようと迫ってくる。


 その攻撃を魔法で作った足場を蹴ってさらに上空へ上る事で躱す。私の足下を首が獲物を見失って通り過ぎていく。再び空中に作った足場を蹴って私を見失ったヒュドラの頭を杖で殴りつける。


 殴りつけたヒュドラの頭はそのまま地面に打ち付けられ動かなくなった。そして残った方の頭が私を見つけて大口を開けたと思えば、口内から毒液が飛ばされてくる。私は魔法を使い空気で壁を作り毒液を防ぐ。


 空気の壁により塞がれた毒液は毒霧に変わり、空気の壁を突き抜けて私にまとわりつこうとしてくる。その毒霧から距離を取るために後ろへ下がりながら魔術を使う。


「水よ」


 毒液と毒霧を包み込むように水で囲い込み、濃度を薄めるために水を生み出し続ける。この双頭のヒュドラは無傷で手に入れたいんだよね。珍しいのもあるけど、下手に傷をつけて毒が手にはいらないのが困る。片方の首はさっき殴りつけた時に頭蓋骨を砕いた感触があったので、もう動かないと思う。


 水で薄めた毒液と毒霧はそのまま地面へと落ちて水たまりを作っている。再び私はヒュドラへ向かって駆け出す。その動きに合わせるように再びヒュドラが口を開け毒液を吐き出そうとしてくるが、そこで私は良いことを思いついた。


「水よ」


 再び水を生み出し、今度はヒュドラの顔を覆うような大きな水球を生み出した。それによりヒュドラは毒液を吐き出す事もできず、首を右に左に動かして水球から逃れようとする。次第に体も暴れ出すが、倒れ伏しているもう一本の首が邪魔で大きく動くことが出来ないようだ。


 私はそんなヒュドラを眺め、呼吸が出来ずに溺れ死ぬのを待った。ヒュドラの動きが次第に弱くなり最後は地面へと倒れ伏した。念の為にずっと倒れていた方の首にも水球を生み出し頭を囲ってみたが全く動く気配がないので既に呼吸が出来ないようになっているみたいだ。


 こうしてヒュドラは山の中にもかかわらず溺れ死ぬことになった。呼吸をする魔物を無傷で手に入れるならこの方法が有効だなと改めて思った。珍しい毒も手に入り、双頭のヒュドラという珍しい素材も手に入った。こいつは錬金術にも使えるから捨てるところのない。ほんといい獲物だったね。

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