第106話 魔女、お願いする

「というわけで、お願いするね」


「帰ってくるなり何が、というわけなんですか」


 宿に着いた所でティッシモとアダルと出くわした。とりあえずみんなで部屋に戻りお茶を飲みながら少し話をすることにした。


「そうだね、アダルにお願いがあるんだけど聞いてもらえるかな」


「俺にか? なんだ?」


「簡単に言うとね、隣の大陸から錬金術に必要な材料をできるだけ多く持ってきてほしいいんだよ、そうだね期限はおよそ20日ほどかな」


「なにかがある、ということでいいんだな」


「そうだね、ねえキッカその辺り教えてもいいのかな?」


「お話されても大丈夫ですよ。戦える者はだいたい知っていることですので」


「ならいいか、戦が始まるんだよ、それも魔物も含めての人外とのね、だからねその時に備えるために素材がほしいんだよ」


「この辺じゃ手にはいらないのか?」


「それがね、この大陸とあっちの大陸では手に入る素材が全然ちがうようでね。私が知ってる錬金術や薬学の知識ではこちらの素材に対応してないから作れないんだよね、今の所はだけどね」


 そう今のところはね、ずっとそのままでいるつもりはないから。流石に一月でどうにかなるものではないけど、キッカに教えてくれそうな人を紹介してもらわないとね。


「魔物と人外相手の戦か、そういう事なら請け負おう」


「それでは私も同行いたしましょうか、ここに残っていても仕方ないですからね」


「わしも同行しようか、わしが同行するのなら港への出入りなどもやりやすかろう」


 ティッシモとダイゴがアダルに同行してくれるようだ。


「じゃあ、ティッシモとダイゴには買い出しをお願いするね、お金は渡しておくからじゃんじゃん買っちゃっていいからね」


「ではそのように」


 ポシェットからお金の入った小袋をティッシモに渡しておく。素材関係はこれで大丈夫かな。あとはこっちの素材に詳しい薬師か錬金術師がいたらいいのだけど。


「そしてキッカにお願いがあるのだけどいいかな」


「何でしょうか?」


「こっちの大陸の素材を使える薬師、もしくは錬金術師がいたら紹介して欲しいのだけど。一月でどこまでの物が作れるようになるかはわからないけど、やるだけのことはやっておきたいからね」


「そういう事でしたら、薬師に関しては幾人か宛はございますのでご紹介いたしましょう。ただ錬金術師に関してはうちにも伝はありません」


「そっか、錬金術に関しては自分でなんとかしないと駄目っぽいね」


 もしかしたらこの大陸では錬金術というものが無いのかもしれないね。私が知っている素材も無いわけだからそう言った可能性もあるのか。まあ色々自分で試して見るのがいいかもしれない。


「そういう事なら錬金術をやっても大丈夫そうな家とか借りられないかな」


「家ですか、この宿でしたら自由に使っていただいてもよろしいですが」


「いやー、流石に爆発とかしたら危ないでしょ」


「爆発するのですか?」


「まあ、使ったことのない素材を使うからね、爆発するだけならいいけど、何が起きるかわからないからね」


「承知いたしました。そちらもなんとか手配致します」


「それじゃあお願いね」


「私の話はこんなものかな、みんなはなにかある?」


 聞いてみたけど特に無いようだった。アダルたちは明日出発ということで今日はゆっくり宿を堪能するということで話し合いは解散となった。


「よし、お風呂に行こうかな、キッカも一緒にどう?」


「それではご一緒させていただきます」


 キッカと一緒にお風呂へ向かう途中でキコちゃんとキリちゃんと会ったので案内してもらい、お礼として飴ちゃんと受け取ってもらう。飴ちゃんの残りも少なくなってきたからこれも補充しないといけないかな。


 体と髪を洗った後は、キッカと一緒に湯船に浸かる。


「聞きそびれていたのだけど、キッカとダイゴってどういう関係なの?」


「うちとダイゴですか? うちとダイゴは幼馴染というやつですね」


「そうなんだ。あれ、そう言えばキッカとダイゴって歳はいくつくらいなの?」


「うちですか、うちは二十歳になった所ですね、ダイゴも同じです」


「えっ、キッカもダイゴも二十歳だったの? キッカはまだしもダイゴはもっと上かと思ってたよ」


「まあ、ダイゴはあの見た目ですからね」


「あはは、ダイゴって結構いかついよね、それで一緒にはならないの?」


「一緒にですか。別にあの脳筋のことなんてなんとも思ってないですよ」


 キッカはそう言っているが耳がへにゃりと垂れている。獣人って耳や尻尾で感情がわかりやすいのはなんだかほっこりするね。


「その感じだとキッカの方から告白しないと、ダイゴのことだから気が付かないままな気がするね」


「ほんと脳筋で困ります、ってそうではなくて別に待ってませんからね」


「ま、後悔だけはしないようにね」


「そうですね、戦いが始まるまでには……」


 それっきりキッカは黙ってしまった。ほんと後悔だけはしないようにしてほしいものだね。お風呂から上がり晩ごはんを頂いた後、キッカとダイゴが連れ立って外へ向かっていった。


 キッカが言うには幼少期から殆ど離れることなく過ごしてきたらしい。今回ダイゴが素材入手のためにティッシモたちと行動をともにするということで、暫くの間ははなればなれとなる。私がはっぱをかけたためか早速行動に移したようだ。


 三時間ほどが経ち、戻ってきたキッカの尻尾と耳の毛艶が良くなってたのだけど、いったい何をしていたのだろうね。

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