第105話 魔女、植生の違いに気づく

 この日はそこで話は終わり宿へ戻ることになった。というかさ、その襲撃まではまだ一ヶ月くらい時間はあるらしいんだよね。こうなってくるとアダルはどうしたら良いのかなと思ってね。シロさんに案内されながらそんな事を考えていると、控室に到着したようで、部屋の中ではキッカとダイゴが待っていた。


「二人ともお待たせ」


「おお、エリー殿話は終わったようだな」


「うん、二人は知ってるの?」


「およそ一月後のことでしょうか」


「そうそれ、って事は知っていたんだね」


「申し訳ございません、口止めをされていまして」


 頭を下げてくるキッカに辞めるようにいって頭を上げてもらう。上司に言われた事だから仕方ないよね。


「そういうわけで依頼として受けることになったからよろしくね」


「ほう、それは僥倖ですな、エリー殿に背中を預けられるのなら嬉しい限りだ」


「まだ詳細は聞いてないけどね、取り敢えず宿に戻ろっか」


「承知いたしました」


 ここまで案内してくれたシロさんにお礼を言って外へ出る。


「それで帰りもここ歩いて降りるの?」


「ええ、まあ」


「飛んじゃ駄目?」


「どうなのでしょうか」


「飛んでもよろしいですよ」


 気がつけばシロさんとクロさんが背後に立っていた。気配を全く感じなかったんですけど、最近鈍っているのかな?


「もしかして上りも飛んで大丈夫ってことかな」


「はい、主様より許可されておりますので、上りも下りも問題ございません」


 クロさんのお答えがこうである。


「それじゃあ、私は先に宿にもどってるね」


「エリー様」


「エリー殿」


 ポシェットから杖を取り出そうと思ったら、キッカとダイゴにローブを掴まれた。


「あのローブから手を放してもらえないかな?」


「「一人だけズルはさせませんよ」」


「いや、だって面倒くさいし」


 チリンと音が聞こえた。音が聞こえた方へ振り向くとシロさんとクロさんが鈴を差し出してきた。


「「どうぞこちらをお持ちください。これを持つものは階段を経由せずにこちらへたどり着けますので」」


 私とキッカとダイゴに一人一つずつ差し出されたそれを受け取る。軽く振ってみるとチリンチリンと良い音がする。


「「出入りはこちらの鳥居となります」」


 二人が指し示す方向には先程までは確かに何も無かったはずの場所に鳥居があった。


「これって魔道具か何かなのかな、でも魔力は全く感じないね」


「そちらは陰陽具となります」


「陰陽具っていうんだ、はーすごいね全く仕組みがわからないよ。それで二人ともどうしたの、そのなんとも言えないような顔をしてさ」


「いえ、こういう物があるなら」


「もっと早くもらいたかったと思いましてな」


 黄昏ている二人は置いておいて、シロさんとクロさんにお礼を言って鳥居をくぐってみる。鳥居をくぐり抜けるとそこはあの長い階段を下りきった場所から、ほど近い場所にたどり着いていた。試しに鈴をポシェットに入れるとくぐって来た鳥居が見えなくなった。


 再び鈴を取り出し手に持つと鳥居が現れる。再びポシェットに入れると鳥居が消えたので、鳥居があった場所に進むが何も起こらない。鈴を持っていないと鳥居の利用はできないわけだね。


 鈴をポシェットに入れてしばらく待っていると、キッカとダイゴが何も無い空間から突然現れた。だけど近くを歩いている人には気が付かれていないように感じられる。そこに鳥居があると知らなければ、認識が出来ないようになっているのかもしれないね。


「エリー様お待たせしました」


「それほど待ってないからいいよ」


「それにしてもこのような物があるとはな、もっと早く渡してくれれば良いものを」


 ダイゴがため息をつきながら、手に持っている鈴を振っている。鈴からはチリンチリンと良い音がしている。特に寄り道もせずに今日は宿へ戻ることにして三人並んで歩きだす。


「まあ足腰が鍛えられたと思えば良いんじゃないの」


「はぁ、そうとでも思っていないとやりきれないですね」


「わしは別に駆け下りても良かったがな」


「それじゃあ、あんたは今後も走って上り下りしなさいよ」


「いや、それは、たまには楽をするのもよいな」


 ダイゴは鈴を奪われないように懐へとしまい込んだようだ。露天を覗きながら宿へ向かう。そこで気がついたのだけど薬草の類が見たこと無いものばっかりなんだよね。これってもしかするとあっちの大陸とこっちだと植生が違うのかな?


 戦が始まるまでの一ヶ月の間にポーションや薬の類を作ろうと思ってたのだけど、植生が違うと同じように作れない気がするんだよね。流石に今からこっちの大陸の薬草や毒草を研究するなんて出来ないし、これはちょっと困ったね。


 流石に知らない材料で薬やポーションが作れるかと言われると、無理ではないけど難しいと答えるしか無い。ポーションに関しては、普段適当にぽいぽい錬金鍋に放り込んで作ってるようにしか見えないかもしれないけど、ちゃんと長年の経験を元に作ってるんだからね。


 とりあえず、露天の薬草なんかを手当たり次第買っていく。たまに偽物が混ざってるようでその都度キッカが教えてくれるので助かった。改めて買った素材を見てみるけどやっぱり見覚えのない物が多い。


 こういった所が、管理する神の違いに影響が出てるってことかな? 今はゆかりが管理しているけど植生は前のままってことだよね。なんかすごく面白いね、仮にこっちの素材で薬やポーションを作って、あちらの大陸の素材で作った薬やポーションを混ぜ合わせたらどうなるとか。


 同じような効果の素材を交換してみたらどうなるとか研究を始めたら面白いよねきっと。まあその前にこちらの素材だけで薬とポーションを作れないと意味はないけど、そもそも作れるのかさえわからないからね。


 ん? なにかの引っ掛かりを不意に覚えた……。あっ、私と師匠ってもしかして魔女になる条件を勘違いしているのかもしれない。ずっと魔法や魔術を、そして錬金術や薬学をある程度識る事が魔女になる条件かと思っていたけど、植生が違うこの地で錬金術が出来るか分からない時点でまだまだ識らない事だらけだよね。


 師匠がそうなんじゃないと言ってただけで、よく考えるとあの変態は魔法や魔術に錬金術はまだしも、薬学はあまり詳しくなさそうだし、カルラに至っては魔法や魔術とは違って陰陽術がメインぽいよね。


 答えを教えてくれるかはわからないけど、今度ゆかりに会ったら聞いてみようかな。条件の一つが不老を得ていることな気はするけどどうなんだろうね。まあ、知った所でどうこうなるものではないけど気にはなる。


 さてと、魔女になる条件は置いておくとして、取り敢えずキッカにお願いして錬金術が出来る家でも借りようかな。あのお宿なら滞在時の支払いはしてくれるって事だけど、一月近く宿に泊まるのもなんだからね。あーその前に一度あちらの大陸に行って素材集めもしないといけないか。その辺りはアダルにお願いして持ってきてもらうのも手だね。


 戦いが始まるのが一月先だとしても、なんだか忙しくなりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る