第104話 魔女、滅びを知る

 一度休憩ということで、外で待機しているシロさんとクロさんがお茶のおかわりとお茶菓子を用意してくれたのでいただきながら、少し雑談をしてから本題に入ることになった。


「依頼の話をする前に、この国の現状を少し聞いてもらいたいと思う」


 十分な撫でられを堪能したのかカルラは元の人の姿に戻っている。尻尾の数が一本になっているけど、九本もだしてたら邪魔なので威厳を保つ理由以外は出さないでいるとのことだ。


「そもそもの話になるけど、この大陸が獣人大陸と言われている理由って知ってる?」


「知らないかな、そういうものだと思ってたけど。さっきこの大陸にはこの国しか残ってないとは聞いたからそれが関係してるのかな」


「そう、関係しているんだよ。この大陸にあった他の国は、エリーたち魔女と同じ立場の者たちが選択の時に滅びを選択したんだよ。そのためにこの大陸で人が住んでいる場所はここだけで、住んでいる住人の大半が獣人のために獣人大陸と言われ始めたんだよ。本来はこの国も滅びの対象だったのけど、その時にはカルラがこの国をボクの管理地にしてしまったおかげで一応は免れたってわけだね」


「そういった理由があったんだね。それにしても管理地の拡張とでも言えば良いのかな? そういう事もできるんだね」


「ボクたちの知る限り前例はなかったのだけどね、まあできちゃったんだよね」


 ゆかりはそう言ってカルラに視線を向けるが、カルラはむしろドヤーって感じの表情を浮かべている。聞いた限りだとカルラがこの神社を建てゆかりの神域としたことで獣人の住まう地がゆかりの管理地になったから助かったって感じかな。


「そういったわけで、直接的な滅びは免れたのだけど、それでも問題がないわけではないんだよ。元々この国のある場所は、他の土地へ行くことがかなり難しい立地だったんだよ。他の土地に行くには大山脈を超えないといけないんだけど、その大山脈を超えるなら海路のほうが簡単かもしれない感じだね」


「そんな大山脈を超えてゆかりとカルラはここにたどり着いたんだね」


「そうだね、今思っても無謀としか言いようがない行為だったね」


 ゆかりはそう言って笑っている。


「一つ良いかな、滅びるってのはどういう感じで滅びるの?」


「闇に飲まれるんだよ。陽の光の無くなった地で人が生きていけるかはわかるよね。作物はまともに育たない、雪と氷に閉ざされた地。そして無いものはよそから奪うしか無い、奪い奪われそして最後には滅びるわけだね」


 闇に飲まれるってそういうことなんだね。


「なんとなく依頼の内容はわかったかな。人は滅んでも魔物は生き残っているんでしょ、そして生き残った魔物がここになだれ込んでくるんじゃない?」


「概ね正解だ。少し修正するなら人もわずかながら生き残っていて、この地へ誘導しているのが正確かな。本来ならこの地も闇に飲まれ死の大地となっていたはずなんだけど、ご覧の通り無事だからね。何処かからその情報を知った生き残りたちがここを奪うためにやってくる」


「つまりは私にそいつらの対処をお願いしたいと」


「そうなるけど、エリーだけに押し付けるつもりはないからね。カルラも戦うし、他にも戦える者たち全員で当たるつもりだから」


「ちなみに闇に閉ざされていた期間ってどんなものでいつ晴れるとかってわかるの?」


「さてね、まだ500年は経ってないと思うけど」


「500年ってそんな土地でよく生きながらえてられるね」


「人の知恵と生命力はすごいものなんだよ。それが良き方向に使われていれば滅びなんてなかったかもしれないけどね」


 ゆかりの言ってることを考えると、なんとなく滅びに至った経緯も見えてくるね。もしかしたらこの世界をひっくり返すような物を作ったか、もしくは生み出したか、したんじゃないだろうか。


 そして、私たちのような魔女や聖女などと呼ばれる神に至る可能性のある者たち、もしくは関係者がなんらかの犠牲になった事で、滅びが選ばれたのかもしれないね。まあ私の想像だけど、試しにやってみようポチッとななんてやるわけ無いから、何らかの事情はあったんだろうね。


「それでいつ闇が晴れるとかもわからないの?」


「わからないね、そもそも滅びの選択なんてめったに選ばれないからね。ただそこに住まう生物が死に絶えるまでは続かないとは思う」


「そして今回の襲撃で生物の数が大きく減れば闇も晴れるかもしれないって事だね。ちなみにどうやって生き残ったのかってわかってるの?」


「それは……、魔石だよそれと魔結晶もだね。それらを自らの身体に埋め込み生きながらえたんだよ」


「それってもしかして」


「そうだね、拐われたあの娘に埋められた魔石の技術と同じようなものだよ」


「つまりは、今回の襲撃を企んでいる奴らから、その技術をあっちの大陸の者が手に入れて使われたってことだね。代わりにここの情報が知られるようになったって事なんだろうね」


「概ねそんなところだね」


「はぁ、それじゃあ受けないわけには行かないわね。あの子の敵くらいはとってあげないとね。だけど報酬はちゃんと貰うよ」


「助かるよ、報酬だけど何がいいかな。カルラが用意できるものなら何でもいいよ」


「ゆかりが用意するんじゃないんだ」


「神であるボクが用意できるものなんて祝福くらいだけど、エリーには祝福は与えられないからね。物質的なものも無理だからカルラになにか用意しえもらうといいよ」


「そうじゃの、主様と妾の二人からの依頼とするので、何でも二つ望むが良い。エリーの仲間も依頼を受けてくれるならそのものたちの分も別に聞き届けよう」


 ずっと黙ってたカルラがそう言ってきた。カルラって微動だにしなかったけどちゃんと起きてたんだね。さてと報酬ね、何をもらおうかな。貰うにしても依頼が終わってからでいいだろうしなにか考えておこう。


「あっ、そう言えばさ知り合いに転生者がいるんだけど、その人って転生する時に神に会ってチートを貰ったって言ってたけどそういう事もできるの?」


「チートというものはよくわからないけど、そうだね魂だけでこの世界に来ることになった転生者には神と呼ばれるものが対応するんだよ。そうしないと生まれる時に膨大な魔力で周りごとボンッってなっちゃうからね。だからその膨大な魔力を使ってスキルといった形で埋め込むんだよ」


「そんな理由があったんだ……」


「もしかして報酬でなにか欲しいスキルとかあった?」


「いや、ちょっと気になっただけだよ。そっか私やゆかりたちみたいな転移と違って転生の場合はそういったリスクがあるんだね」


「そうだよ、転生者や転移者を見つけて処置するのもボクたち神になった者のお仕事の一つだね。ただエリーも分かっているように転移者はいつどこから現れるかわからないから見つけたときには死んでるか既に魔力をどうにかしているんだよ」


 この言い方からすると、転生者は見つけやすいけど、転移者は見つけにくいってことなんだろうね。それにしても神になってまで仕事をしないといけないとか、余計に神になりたくなくなっちゃったな。

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