小話 アダルとギーラ 下

「ここはどのあたりだ」


「あー、っとこれか。どうやら島の南のようだな」


 アダルが水晶を操作すると前方にこの地図らしきものが表示されている。ただ映し出された地図は古いものなのか俺の知る島よりもかなり大きな島が映っている。


「おいおい、この映っているの島が本当の大きさだったってことか」


「みたいだな、それが沈んで小島だけ残ったってことだろうな」


「それにしても運良く船のある場所が沈まなかったもんだ」


「それなんだがな、あの場所は本当の出口じゃなかったみたいだ」


「どういうことだ?」


「本来あの高さまで水がなかったってことだ。船に乗り込む前に水の中を見てみたんだが、海中の遥か下に色々な施設があったみたいだな。それが沈んだことで、本来船や入口を守っていた機械仕掛けの人形なんかも沈んでいたんだろうな。ちなみに俺達が通って来た通路は非常口だったようだ」


「そうなのか、俺たちは本当に運が良かったみたいだな」


 アダルが操作する船はいつしか見覚えのある海岸へと到着していた。座礁しないくらいの位置で船が止まる。船から降りたアダルと俺は貯め込んでいた食料や水などを腕輪に収納していく。アダルに貰った腕輪だが収納の機能もついているとは便利なものだ。


「俺はじいさんを呼んでくるわ」


「じいさん? ギーラは何を言ってるんだ」


「おいおい、アダルもじいさんと会ってるだろ」


「いや俺はこの島に来てからギーラ以外の人間と会ったことはないぞ」


「いや、おかしいだ、ろ……」


 どういう事だ? アダルはじいさんと会っていない? 意味がわからない。俺は疑問を覚えながらもじいさんが寝泊まりしている小屋へと走りたどり着いた。


「じいさん入るぞ」


 扉を開けて中に入るとそこには、ボロボロになった布を纏った骸骨が置かれていた。


「は、はは、これはどういうことだ……、俺を治療したのも看病したのも骸骨がやったってことか」


 その時骸骨の傍らにボロボロの手帳が落ちているのに気がついた。それを拾い破らないようにページをめくっていく。そこには俺がじいいさんから聞かされた話しが書かれていた。


 俺は一人である孤独に耐えられなくなり、この手帳に沿ってじいいさんの幻を生み出して生活していたようだ。


「落ち着いたか?」


「あ、ああすまん」


「ならいい、食料などの積み込みはやっておくから、ギーラはその人をどこかに埋めてやれ」


「すまん、そうさせてもらう」


 俺は手帳をしまうと、じいさんの骨をまとめると、小屋の外に穴をほって埋める。手帳はじいさんの故郷へ行った時にでも家族がいれば渡してあげようと思う。


「じいさん、じいさんは俺が作り出した幻かもしれねえがそれでも助かったんだ。だから感謝はしておく……、それじゃあな」


 俺は立ち上がりもう一度小屋へ入り必要なものをあつめアダルと合流する。


「もういいのか?」


「ああ大丈夫だ」


「なら出発するか」


 船に乗り込みアダルが船を動かし始める。俺は島に別れを告げるために船尾から島を眺めている。進み始める船は速度を増していきどんどん島から遠ざかっていく。その時俺には島の小屋からこちらを見て手を振るじいさんの姿が見えたような気がした。



 とまあこれが俺とアダルの出会いになる。この後もアダルといろんな場所に行き、いろんな遺跡に入ったりと冒険を続けた。何度命をなくすかと思ったかわからないくらい危険な目にもあった。だが俺とアダルは冒険をやめないでいる。


 あの島で手に入れた船は最終的に売り払うことになったが、その代わりに機能を継承したこの大型船を手に入れることができたわけだ。船自体は俺かアダル一人でも動かせるが、そんな特殊な船が狙われないはずはないわけで、あとは海賊対策だな。


 そう言った事情で今は偽装のために船員を雇い、半分交易のようなことをしながら冒険をしているわけだ。そんな俺とアダルは北方の海域では、髪の色からか赤鬼アダル、青鬼ギーラなんて呼ばれている。


 さて、俺とアダルの出会いの話しはここまでだ。今までの冒険譚はまた話す機会もあるかもしれないな。取り敢えずアダルが戻るまで少しのんびりとバカンスでも楽しませてもらおう。

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