小話 アダルとギーラ 中

実は「MFブックス10周年記念小説コンテスト」の最終選考候補にまで残っておりましたが、残念ながら受賞ならずでした。

ですが、そこまで残れたのはお読みいただき応援してくださった皆々様のおかげです。

そういうわけで今後とも宜しくお願いします。


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 遺跡に中に入った俺はその異様な光景を目の前にして、何も言葉が出なくなった。てっきり洞窟のようなものか、ダンジョンを想像していたのだが全然違った。


 どう言ったらいいのかわからないが不思議な空間だ。つなぎ目のない真っ白な壁がどこまでも続いている。壁自体が光っているのかどこを見ても明るい。ふと入ってきた場所を見るために振り返るとどこにもあの穴はなく、同じ通路が続いているだけだった。


「おいこれはどういう事だ」


「ほら、これを腕につけておきな」


 そう言ってアダルが付けているものとそっくりな腕輪を放り投げてきたので受け取る。


「これは?」


 腕輪に手を通すと不思議なことがおきた。頭の中に直接この腕輪の使い方が流れ込んできたのだ。流れ込んできた通りに操作をすると、目の前に穴が空いて、その奥には入ってきた場所の風景がみえた。


「それはここで何個か見つけた腕輪の一つだ、多分だが俺のとそう変わらないものだろう。それがあれば色々便利だからな」


「確かにこれは便利だな、頭に中に無理やり何かを詰め込まれたようで気分は良くないが、収納なんかも使えるみたいだしな。これを売るだけで一財産出来るんじゃねーか」


「それをしたら、いろんな奴らに目をつけられたり、こういった遺跡探索の邪魔をされたりと面倒くさいことになるだろうがな」


「あー確かにな、これは秘密にしておいたほうが良いな」


「そうしてもらえると助かる」


「ああ誰にも言わねーよ」


「さてと先へ進むか」


「おう」


 上も下も右も左も真っ白い通路を二人で歩いていくと、だだっ広い部屋にたどり着いた。そこには複数の不思議なブロックが空中に浮いていてなんとも不思議な部屋だった。


「ギーラこっちへ来てくれ」


「おう、なんだ」


「俺が合図をしたらこの板に触れてもらえるか? 俺はあっちの板に触れる。扉を開けるのには同時に触らないといけないみたいでな」


「わかった、タイミングは任せる」


 アダルが離れていき、合図とともに板に触れると、腕輪が緑色に点滅をし始め板の色が赤色から緑色へと変わった。それと同時に正面の大きな扉が開き始める。


「おい、これはいつまで触ってたら良いんだ」


「もう放していいぞ」


 試しに手を離してみても扉は勝手に開き続けているようだ。それを見て俺はアダルの合流する。


「ここが一人で通れなかったところか?」


「ああ、この扉を開くのには最低でも二人必要だったわけだ」


 扉が開ききるまで待ってから中へと進む。扉の向こうも今まで通ってきた通路と同じで、真っ白な道が続いている。


「それでこの先には何があるんだ?」


「俺が今まで入った遺跡だと、だいたい機械仕掛けの人形や、昆虫や動物の形をしたものがいたな」


「おいおい、そんなのと戦わないといけないのか? いやそもそもここって何千年も前の遺跡だよな、なんでまだ動いているんだ」


「さあな、それは俺にもわからんが多分ギーラがしている腕輪があれば襲われることは無いだろうな」


「どういうことだよ」


「その腕輪はこの遺跡で見つけたものだからな、きっと入場許可証みたいになっているはずだ。俺の腕輪も同じようなものだが、遺跡によっては敵とみなされることもあるな」


「まあ、敵がいるかも知れないということと、俺のこの腕輪があれば大丈夫なのはわかった。問題はなんかお宝があるかどうかだ」


「いいものがあればいいんだがな、さてと着いたようだな。扉の横にあるあの板に触れてくれ」


 アダルが指し示した所には、先程扉を開くのに触ったのと同じ板があったが、先程とは違い一枚だけのようだ。近より板に触れるとさっきと同じように赤色に光っていた物が緑色に光り扉が開く。


 アダルと二人並んで扉をくぐるとそこには信じられないものがあった。何があったかというと船があった。小さな船だ、人が2,3人も乗れればいいくらいの大きさの木造ではない不思議な船が水に浮いているのが見えた。


「おいおい、これは当たりかもしれないな」


「これがあればこの島から出られそうだな」


 いわゆる魔導船と言われるものかもしれないが、それとも違うようにも見える。念の為船の周りを一通り見て回り、最後に船に乗り込む。船は誰かが頻繁に掃除をしたのかきれいなものだった。


「動かせそうか?」


「たぶん、な」


 アダルは俺の知らない文字を見ながら、まん丸い水晶みたいなものに手を乗せると水晶に光が灯り、どこからかブォンと音がなるのが聞こえた。


「いけそうだな、それにしてもいい拾い物をしたな」


「本当にな、このまま外に出れそうか」


「ああ大丈夫だ」


 アダルはそう言って備え付けの椅子に座ると、そのイスの手摺部分についている水晶を操作し始めた。しばらく水晶をこねくり回した後に操作方法がわかったのか船が動き始めた。


「それにしてもこれしか無いというのはどういうことだろうな。ここを守っているはずの機械仕掛けのもいなかったしな」


「流石に年月が経ちすぎていて、だめになったんじゃないのか」


「なくはないか」


 ほのかに明るく見える洞窟を船で進んでいくと前方から光が見えてきた。あれが出口のようでアダルに操作された船が出口の光へと進んでいく。


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