小話 アダルとギーラ 上
獣人大陸、そこの港から俺の相棒であり船の船長であるアダルティンが旅立つのを見送る。
「ギーラさんどうします?」
「あん、どうするって何がだ」
「このままキャプテンが返ってくるのを待つか、他の船に雇ってもらうか、もしくは……」
「やめとけやめとけ、アダル以上に金払いの良い船なんてねーだろ。それになあの船を乗っ取ろうなんて考えるなよ」
ギロリと睨みつけるとディッパは一歩下がる。
「そ、そんなこと考えてないっすよ」
慌てて言い訳を始めるが無視して船に向かい歩きだす。そもそもあの船はアダルと俺しか動かせない。それは生死にかかわらずだ。移乗は出来るが
そもそもの話しになるが、あの船を動かすだけならアダル一人でも出来る。だが一人だと荷物の積み込みやその他の雑用も一人でしないといけないわけで、他の船員を雇っているというのが現状だ。
そう言えば、自己紹介がまだだったな。俺はギーラ、青鬼ギーラといえば船乗り界隈じゃあ有名なんだが、こんな異郷の地だと知るものもいないだろうな。さてアダルが戻ってくるまでしばらくバカがバカをしないように見張っておくくらいしかやることはないな。
暇つぶしにでも、俺とアダルの出会いの話でも聞いてもらおうか。
◆
俺が所属していた海賊団が敵対していた海賊連合にやられ船長をはじめ船員がバラバラになった。物理的にバラバラになったやつもいるが散り散りになったと言ったほうが正確か。
ま、奮闘むなしく大半のやつは船とともに海の藻屑となったわけだな。俺自身は船から投げ出さえた時に気を失っていたようで、気がつけば浜辺に打ち上げられていたみたいだ。
気がつけば治療されベッドに寝かされていた。治療してくれた漁師のじいさんが浜辺で見つけたと言っていたからそうなんだろう。特に何があったとも俺の素性なども聞かれずに、俺からも言うことなく、ある程度動けるようになるまで世話になった。
起き上がれるようになり、動けるようになり、その頃から俺はじいさんの漁の手伝いをするようになった。じいさんも「やるな」やら、「邪魔だ」とも言わずにただ「ふんっ」というだけだったがな。
じいさんの手伝い以外の時間は浜辺に行って使えるものが無いか漂流物を
一番背の高い木の上に登って辺りを見回してもこの島以外に何も見えない、こりゃあどうしようもないなと思いつつも、どうにか島から抜け出す方法を考え続けた。じいさんとの生活が数ヶ月も続くとじいさんも身の上話をポリポツリと話してくれるようになった。
じいさんは元から漁師だったが、嵐にあってここに流されそれ以来何年もここで生活しているのだとか。
これはもう駄目かなと、でも諦めきれないそんな毎日を過ごしていたわけだが、そこにある男が流れ着いてきた。
そう、赤髪の冒険家を名乗るアダルティンだ。やつも案の定嵐に見舞われ流れ着いたのだとか、だがやつは一味違った。怪我らしい怪我もなく流れ着いたその日から精力的に島を探索し、ある場所にある地下遺跡を発見しやがった。
これには俺もじいさんも驚いたが、それ以上に驚いたのが一人でさっさと遺跡に入り攻略をし始めた事だろうか。あとから聞いた話になるが「この文明の遺跡はなれている」というものだったな。
「それにしてもこんな小さな島に遺跡があるなんてな」
「小さな島というのは間違っているな、そもそもこんな海のど真ん中に島がぽつんとある方がおかしいと思わないか」
「たし、かに、もしかしてここからは見えないが、見えない所に陸があったりするのか?」
「その可能性もある、だが俺の考えではここは元々かなりの大きさの島だったんじゃないかとな。それが何らかの理由で沈んで小さな島だけが残ったってわけだ」
「そういう事もあるのか」
「ああ、いくらでも似たようなのはあるぜ。昔よりも高くなった山や大地、ここのようにある日地面が揺れたら陸が沈んでいたやらな」
「ははは、それは面白そうだな。それでここの遺跡には何か良いものがあったか?」
アダルはニヤリと笑うと、俺も一緒に遺跡に潜ろうと言ってきやがった。どうやら一人ではどうにもならない仕掛けがあるようだ。まあ、外で腐っていてもなんにもならないからな、俺も遺跡に行くことにした。
武器なんかは流れてきていた物を磨いたのを使う。小屋で黙って座り込んでいるじいさんには、朗報を期待していてくれと言って出てきた。
「待たせたな」
「俺もいま来た所だ」
アダルの後を付いていくと、島の中央付近に石造りの崩れた建物の残骸が目に入ってきた。
「これか」
「そうだ、ここを見てくれ」
そう言われて見た場所には不可思議な文様が描かれていた。
「この文様がある所の近くには古代文明の遺跡があることを示している」
「そうなのか……、あーどこかで見た気がするんだが思い出せないな」
「それは興味深いな、思い出したら教えてくれ」
「わかった。それより入口はどこだ?」
キョロキョロと辺りを見回して入口があるようには見えない。
「入口はな、ここにある」
そう言ってアダルが手をかざすと、先程まで何もなかったはずの空間に黒い穴が出来上がった。よく見てみるとアダルの付けている腕輪が光っている。
「それじゃあ行くぞ」
「おう」
まずはアダルが穴をくぐり、俺もそれに続いて中に入った。
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