6章 魔女、戦に備える

第101話 魔女、先見の魔女に会う

 私の目の前にはどこまで続いているのかわからないほどの階段がある。階段の先に目をやると霞んで終りが全く見えない。この場には私とキッカとダイゴだけが来ている。ティッシモとアダルは観光と買い出しをしている。


「ねえ、飛んでいっちゃだめ?」


「駄目です」


「これ登るの?」


「登ります」


「キッカって昨日もこれ往復したの?」


「毎回しています」


「そうなんだ……」


 もう一度階段の先を見ても状況は変わらないようだ。こうなったら仕方がない。


「On your marks」


 その場にしゃがみ、いわゆるクラウチングスタートの態勢になる。キッカがそれを訝しげに見てくるが無視だ。


「get set」


 下げていた顔と腰を上げて階段の先を見上げる。


「go!」


 という掛け声と同時に一気に階段を駆け上がる。歩幅を開いて三段飛ばしならぬ五段飛ばしで飛ぶように一気に駆け上がっていく。


「うりゃーーーーーーーー」


 ひたすら手を振り階段を蹴って登っていく。途中でなんか結界のようなものを通った気がした。はっはっはー、この私をちゃちな結界程度で止められると思うな。そう、そして私は今こそ風になる!


 とか思っているうちに階段を登りきっていた。体感3分ほどだろうか、いやー久しぶりに全力で走ったよ。


「いい眺めー。はっはっは、人が豆粒のようだね」


 階段の上から眺める景色は絶景だね。遥か下にはキッカとダイゴが一生懸命階段を登っているのが見える。辺りを見回してみると、そこは私の知っている神社と同じに見える。


 階段を登りきったこの場所から少し奥に大鳥居がありその奥に手水舎が見える。そしてそのさらに奥には神楽殿っぽいものがあり、その先には本殿だと思われる建物が見える。他にも建物があるが流石に何の建物かまではわからない。


 階段に腰掛け、ポシェットから果実水を取り出して、魔法で冷やして飲みながら、ぼーっと景色を眺めること10分。キッカが「ぜえぜえ」と息も絶え絶えやってきた。


「意外と早かったね」


「ちょっと、休ませて、くだ、さい」


 キッカはそれだけ言ってその場に倒れ込んだ。それから遅れること数分、ダイゴも登りきったようだ、キッカとは違いダイゴはペース配分が良かったのか結構余裕そうではある。


「ダイゴは余裕そうだね」


「わしは休憩しもってきたからな、それよりもエリー殿は凄まじいな」


「だってのんびり登るほうがしんどそうだったからね」


「それはわからなくもないがな、何のためらいもなく駆け抜けていくのは流石に正気を疑ったぞ。足を踏み外したら大変なことになる」


「んー、まあ大丈夫じゃない? 多分ここから飛んでも死なない自信はあるからね」


「ここから、飛ぶのか」


 ダイゴが下を覗き込んで、首を振っている。


「はぁ、お待たせしました。それではご案内します」


 やっとキッカが復活したようだ。キッカの後についていき手水舎で手と口を清めて、本殿を超え更に先へと進んでいく。建物がなくなり鳥居が何本も並んでいる道を進んでいくと、一軒の小さな家にたどり着いた。


「案内はここまでとなります、どうぞ中へお進み下さい」


 キッカとダイゴが門の前で立ち止まり道を開ける。


「ここまで案内ありがとうね」


 門に手を軽く触れると、ゆっくりと門が内側に開いていく。門をくぐり少し進むと背後で門が閉まるのがわかった。背後を振り返ることなくそのまま進む。平屋の一軒家が目に入りさらに進む。そして玄関にたどり着いた所で、二人の女性が待っていた。


 一人は白い髪と同じ色のキツネの耳と尻尾を持ち黒い着物を着ている。一人は黒い髪と同じ色のキツネの耳と尻尾を持ち白い着物を着ている。


「「伊能英莉様、お待ちしておりました」」


「わたくしはシロと申します」


 白い髪の女性がそう名乗った。


「わたくしはクロと申します」


 黒い髪の女性がそう名乗った。


「「こちらへ」」


 二人に従い靴を脱いで玄関に上がり付いていく。廊下を進み一番奥まった場所だと思われる部屋の前で二人が止まる。


「「お客様をお連れいたしました」」


 部屋の中から入るようにと声が聞こえた。二人は左右に別れて座ると襖を開ける。私は左右に分かれた二人の間を通り部屋に入る。入って少し進んだ所で襖が閉められるが気にせずに進んでいく。


 部屋の奥には御簾がかけられており姿が見えないが、人がひとりいるのはわかった。部屋の中ほどに座布団があったのでそこに座ると、御簾が上にあがってそこにいる者の姿が見えた。その姿は狐の耳と複数の尻尾を持つ女性だった。


 着ている着物は豪華なのだが、肩があらわになっていて胸元も強調するような着こなしをしている。体を脇そくに預けてキセルをくゆらせていた。キセルを手に持っている姿を見るとディーさんが思い浮かぶね。


「よう来たの、妾はカルラ・カルマじゃ。気軽にカルラとでも呼ぶが良い」


「はじめまして、私はエリーと名乗っているわ、よろしくね」


 しばらくお互いに視線をあわせて無言で見つめ合う。


「ふむ、エリーよ、お主は妾に付いてどのくらい知っておるのかの」


「えーっと、第二の魔女で先見の魔女ってこと、あとは九尾ということくらいかな」


「それだけかの?」


「それだけだね」


「そうであるか……、それなら少し昔話がてら妾について話しをしようかの、聞いてくれるかの」


「拒む理由もないし聞かせてもらいましょうか」


 カルラはキセルを一度くわえたのちに煙は吐く。


「ふむ、まずはそうじゃの、妾もお主と同じ転移者なのじゃよ。そして妾はお主の生きた時代よりもはるか昔、いわゆる平安の時代から、今より3000年ほど前のこの世界へと主様と共に流れ着いたのじゃよ」


 初っ端から話しが壮大過ぎてわけがわからないんだけど、どう反応したらいいのだろうか。

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