第102話 魔女、過去を知る
「妾と主様は京の都で暮らしておった、その当時の妾はただの一匹のキツネであっての、ただまあ、珍しいことに白毛のじゃがな。そんな妾を見つけ式神としたのが主様じゃった」
そこまで話した所で外から入室を乞う声が聞こえた。カルラが許可を出すと、先程の二人がお茶と茶菓子をそれぞれの前に置いて、戻っていった。茶菓子はおはぎだったので、一緒に置かれているお箸で一口食べる。
「おいしいね」
お茶を一口飲んで口の中を洗い流す。
「おかわりがほしければ、外に声をかければよいからの」
「わかった、ありがとうね」
「さて続きじゃ。妾の主様はのある陰陽師の家系の一人娘であった。その関係で様々な術を習得しその才能を開花していった。じゃが12の頃に婚姻を申し込まれての、相手が見も知らぬジジイだと聞かせれ、それが嫌で家を出た所でこの世界にたどり着いたわけじゃ。もしかすると主様の逃げたいという願望がこの世界へ迷い込むきっかけじゃったかもしれぬの」
カルラは言葉を止めキセルをふかし煙を吐く。
「この世界に来てから当初はかなり苦労した。まずは近くに誰もいなく野宿を強いられ、人と会っても言葉が通じぬしの。ただこの世界に来たことにより膨大な魔力を手に入れ、主様はその魔力を利用し陰陽の力を存分に発揮したのじゃ。そして妾も同時に膨大な魔力を手にしておった、そのおかげで三尾へと至ったわけじゃな」
やっぱり転移者はこの世界に来ることにより膨大な魔力を得ることになるようだね。カルラもその主も、私とは違って陰陽という力の使い方を知っていたのが功を奏したって所だろうね。
「そもそも主様は優秀じゃったからの、言葉も文字もすぐに習得なされた。それからは、ある事情であちらの大陸からこちらの大陸へと移り、妾と共に旅をしたわけじゃな。その頃はまだ冒険者ギルドというものはなかったわけじゃが、村や街の酒場に張り出されていた依頼を受けたり、魔物退治をして路銀を稼ぎ旅を続けたわけじゃ。そしていつしか主様は御使いや聖女様などと言われるようになっておった」
少し冷めたお茶を魔法で温めて一口のむと少し思い浮かんだ疑問を投げかけてみる。
「少し気になったのだけど聞いていい?」
「なんじゃ、答えれることがあれば答えるぞ」
「その頃って今いるこの場所だったのかなと思ってね」
「それは否じゃな、その当時ここはただの荒野じゃった。それこそ草木一本生えておらぬな。妾と主様が旅をしたのはこの地より遥か北西じゃたの」
「へー、それじゃあ今じゃこの国の北西にも国があるってことだね」
「国は今は無い、この大陸で残っているのはここ獣人の国のみじゃ」
「そうなんだ」
「何も無いが行くことはおすすめはせぬ」
「見るものがないなら行くつもりはないけど」
「それが正解じゃな。それでは先程の続きから話そうかの──」
とまあ、こんな感じで過去話を聞かされたわけだけど、この後の話しを簡単にまとめてみる。カルラの主が聖女やら何やら言われ始めたころには、主様という方は陰陽術とこの世界に来たことにより獲得した魔力を使って、不老を手に入れていたらしい。
その頃にはカルラも今私の目の前にいる姿となっていて、主様に引っ張られるようにアヤカシとしての位階をあげていったとか。カルラと主様はいつしか人里を離れ、当時未開の地だったこの場所に小屋を建てて二人でひっそりと暮らしていた。
たまに迷い込んでくる人などを助けたりはしたようだけど、殆ど人とは会わずひっそりと暮らしていたのだけど、数百年経ったころに別れがやってきた。どういった別れだったのかは詳しくは後で話すとだけ言ってはぐらかされたけど、その別れ以降はしばらくカルラは一人でこの地に留まり続けたのだとか。
そして幾百年と過ぎた時、転生者を名乗るものと出会い結ばれることになった。そして子が生まれたわけなんだけど、生まれた子が成長をした結果、獣人が誕生したのだとか。カルラの子どもが生まれる以前はこの世界には獣人という存在はいなかったんだって。
カルラの子どもたちは、その姿が全然違ったらしい。猫や犬がベースだったり、トラやうさぎ、熊に様々な獣の要素を持った獣人が誕生することになったんだと。旦那さんは受け入れてくれたの? と聞いた所、重度のケモナーだったらしい、なんだか業が深いね。
それに旦那さんは精力旺盛で、ガンガン子どもを作ったんだと。そして子が子を生み、孫がさらに子どもを生みといった感じでどんどん人口が増えていき、いつしか小屋が村に、村が街に、そして最後はこの都が作られるまでになった。
旦那さんが天寿を全うしたあたりで、カルラは先見の魔女になり今に至るるのだとか。そんな話しを旦那さんとの惚気6割で聞かされた。うん、ちょっと勘弁してほしいよね。
この世界に元々いなかった獣人という存在によるトラブルは色々あったらしいのだけど、最終的に受け入れられるようになったのは、六神の存在が関わっているんだとか。
「さて、ここまでが妾の今までの話しじゃな。ここからはお主にも関係のある、魔女と六神のそして神と呼ばれる存在との関係になる。知っていても知らなくても問題はないがどうする? 聞くかね」
「ここまで話しに付き合ったんだから、最後まで聞かせてもらおうじゃないの」
「そうか、では話そうかの。その前に少し疲れたので休憩をさせてもらおうかの」
カルラがそう言ったタイミングで襖が開き、お茶と茶菓子が再び運ばれて来た。休憩は願ってもないのだけど、ちょっとトイレへ行きたい、トイレはどこかな?
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