第99話 魔女、温泉に入る
騎竜に乗って移動すること三日目。治安が良いのか、盗賊や魔物に襲われることもなく順調に進み、キッカが言う都に到着することが出来た。
都はパッと見た感じは、昔教科書などで見た覚えのある京都の都といった感じに見えた。碁盤の目といえば良いのかな、そんな感じに木造の建物が建っている。
その中で、一箇所だけ違う場所があるとするならば、そんな街並みの奥に山を背後にして大きな鳥居を備えた神社があることだろうか。そしてそこへ行くための階段がかなりの段数があるように見える。
「皆様には一晩こちらで用意しております宿に泊まっていただきます。主様とのお目通り前に旅の疲れなどを落としていただきたいと思います。ちなみに、その宿は温泉がありますのでごゆるりとおくつろぎ下さい」
「おー、温泉があるのね、そりゃあ楽しみだね」
都というだけのことはあり、かなり人通りが激しい。そのため騎竜から降りて歩いている。キッカの後についてしばらく進むと、立派な門構えのかなり大きな建物の前にたどり着いた。
「こちらが今日の宿となります」
キッカが門番の人と話して門を開けてもらい私たちは中にはいる。そこで待っていた使用人に騎竜を預けて宿の中に入る。
「皆様お待ちしておりました」
狐の耳と尻尾を生やした金毛の女性が三指をついてお辞儀をしてくる。
「わたくしはこの宿の女将をしておりますハクと申します」
女将さんの挨拶が終わった後は、見た目10歳くらいの狐っ娘が部屋まで案内してくれた。部屋は男性陣と女性陣で別れているが、二間続きになっていて襖を開ければ一部屋として使えるようになっている。
「それでは、少し席を外しますのでエリーさんは温泉にでも入っていて下さい」
「キッカも一緒に入ったら良いのに」
「うちは、主様に到着したことを知らせないと駄目ですので、夕食までには戻りますから、そのときにでもご一緒しますよ」
「了解、温泉なら何回入ってもいいからね。それじゃあ温泉に行ってくるね」
「ゆっくりと疲れを癒やして下さい」
キッカといっしょに部屋を出て一度玄関までいく。キッカはそのまま外へ行き、私は近くにいた狐っ娘に温泉まで案内してもらうことにした。
「ちょいちょい、温泉に行きたいんだけど案内して貰える?」
「はい、案内はこのキコに任せるです」
ピンと手を上げて真剣な表情を浮かべて前を歩き出す。
「ついてくるです」
「お願いね」
キコと名乗った狐っ娘の後ろを歩いていく。私の眼の前には右へ左へフリフリしている狐の尻尾が目に入る。うん、かわいい、触りたい。触りたいけど獣人にとって尻尾はかなり敏感らしいので、気に入った人以外は触ったら駄目なんだとか。
でも旅の途中キッカの耳と尻尾は堪能させていただきましたけどね。キッカの尻尾を触ってなでなでしていると、すごく艶っぽい声を出したりするのは面白かったかな。だけど、それ以降触らせてもらえなくなったのは残念で仕方がない。
「ついたです、ここです」
「キコちゃんありがとうね」
お礼を言いながらポシェットから飴ちゃんを3つほど取り出して渡してあげる。この飴ちゃんは、ここに来る途中の街で売っていたのでまとめ買いしておいたやつだ。
味はべっこう飴で大きさと見た目は大きめのおはじきといった所だろうか。一つずつ紙に包まれていて結構良いお値段だったけどね。
「いいのです?」
「いいよ、案内してくれたお礼ね。そういうの受け取っちゃ駄目だったりする?」
「そんなことはないです。ありがとうございますです」
ペコリと頭を下げてから、ニコリと笑いかけてくれる。めちゃ可愛い、このままお風呂に連れ込みたい、そしてお持ち帰りしたい。
キコちゃんは尻尾を右に左にさっきよりも勢いよくフリフリしながら戻っていった。名残惜しいけど女湯を示す赤い暖簾をくぐって脱衣所に入る。脱衣所にはカゴが複数おいてあり、そこに着替えや装備などを入れて浴場に入ればいいようだ。
私の場合は、ポシェットにとりあえず放り込んでおけばいいのでササッと服を脱いで全部放り込む。ポシェットだけをカゴに入れて早速お風呂場に移動する。
「おー」
つい声が出てしまった。目の前には、雨よけの屋根がありその下には大きな露天風呂があった。お湯がドバドバと滝のように流れていて、溢れたお湯はそのまま排水されているようで、かけ流しのようだ。ちなみに今は誰も入っていないので貸切状態だね。
備え付けてある桶でお湯をすくって、ポシェットから染髪剤を取り出し、髪から洗う。髪が終わったら石鹸を取り出し、しっかり泡立ててから体を洗う。一通り洗い終わったあとは、早速湯船に浸かる。
港から都まではお風呂に入れなかったから、久しぶりのお風呂だね。少し熱めのお湯が体にしみる。
はぁー、なんだかこの感じ大将の所のお風呂を思い出すね。ニーナちゃんたち元気にしてるかな。噂ではダーナの錬金術師として活躍をしているみたいだけどね。まだ別れてからそんなに経ってないのに、すごく懐かしい気分になった。
師匠はちゃんと御飯食べれてるのかなとか、ディーさんはまだ師匠のところにいるのかなとか、考えても仕方がないことが次々と浮かんでくる。自覚はないけどこれは一種のホームシックってやつなのかもしれないね。
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