第100話 魔女、和食を堪能する
温泉を堪能した。夜にはもう一回入ろうと思う。温泉からの部屋の戻る途中でキコちゃんともう一人そっくりな狐っ娘がいたので少し話し相手になってもらうことにした。
「わたしはキコの姉でキリと申します」
双子らしく見た目はそっくりだけど、着ている着物の色が違うのと、目の色が違うので見分けはつきやすいかな。キコちゃんは青色の瞳をしていてキリちゃんは緑色の瞳をしている。
とりあえずキリちゃんにも飴ちゃんを上げようとしたのだけど、遠慮してか断られた。それじゃあ、少し話し相手になってほしいとお願いして、報酬代わりにまずは一つずつ受け取って貰う。
「それでしたらこちらの方へ」
「ここは休憩スペースです」
二人に案内されたのは、長椅子の置かれた庭が見えるちょっとしたスペースだった。向かい合う形で座った所で二人を改めて見てみる。
キコちゃんもキリちゃんも、見た目は10歳くらいなのかな、獣人の年齢ってのはよくわからないけど、この辺りは基本的に人とかと変わらないと思うので間違ってないと思う。二人とも白い髪に白い耳と尻尾の狐っ娘だ。
「それで何を聞きたいです?」
「んーそうだね、私は今日この都についたばかりなんだけど、普段二人が行くお店とか、何が売っているとか聞きたいかな」
「そのような事でいいのですか」
都のお店事情なんかはキッカにでも聞けば良いんだけどね、キコちゃんとキリちゃんにわざわざ聞いたのは飴ちゃんを上げる口実のためだ。
「さっきも言ったけど都についたばかりだからね、他にも行ってみたらいい場所なんかあったら教えてほしいかな」
「わかりましたです」
「それでよろしいのなら」
二人からは近所の菓子屋や酒屋なんかを教えてもらった。他には近所の友だちの話や通っている学校みたいな所の話しなどなど、話しがあっちへこっちへぶれながらも色々教えてもらった。
その話しの中で一番興味深かったのはやっぱり酒屋だね。この都には5年ほど前から澄酒、つまりは日本酒や焼酎が売り出されるようになったみたい。それまではどぶろくやら濁り酒といったものや、普通にワインやエールといったお酒がメインだったようだ。
詳しく聞いてもお酒を飲まない二人にはよくわからないといった感じだったので、あとでキッカにでも聞いてみようと思う。今までなかった日本酒や焼酎が急に出始めたということは、転生者か転移者がお酒関連に関わっているってことだよね。
「キコちゃんにキリちゃん、いろいろ教えてくれてありがとうね。どうかこれを受け取ってね」
ポシェットから飴ちゃんを10個取り出して、5つずつ渡す。
「ありがとうございます」
「ありがとうです」
二人はお礼を言って尻尾をフリフリしながら歩いていった。それを見送ってから部屋に戻るとキッカが戻ってきていた。
「温泉はいかがでしたか?」
「気持ちよかったよ、夜にもう一回入りに行こうと思う」
「それは良かったです、本日は貸し切りにしていますから気軽に入ってきて下さい」
「人の気配がないと思ったら貸し切りにしてたんだね」
「そもそもこの宿は主様の許可した者しか泊まれませんので」
それなら他の従業員がいなくても問題ないのかな? 今のところハクさんとキコちゃん、キリちゃんの三人にしかあってないし、あとは父親が料理を作ってたりするのかもしれないね。
「それで会うのは明日ってことでいいのかな」
「はい、明日ご案内させていただきます」
話しは終わったタイミングで、ちょうどティッシモとダイゴにアダルがお風呂から戻ってきたようで、襖の向こうが騒がしくなった。襖を開けると浴衣を着た三人が目に入る。ちなみに私も今は浴衣姿だったりします。
この旅館のあれこれってなんだか元の世界っぽいよね、どこかで転生者か転移者が関わっているのだと思う。お酒といい旅館といい、異世界人の陰がちらついている。
「エリーも風呂じゃ無くて、温泉だったか、あれに入ってきたんだな」
「アダルも入ってきたんだね」
「おう、エリーのせいでお湯に浸かる風呂の良さを知ってしまったからな」
「私のせいってのはどうかと思うけど」
そんな話しをしている所へ、キリちゃんとキコちゃんがご飯の用意ができたと呼びに来たので、ぞろぞろと移動する。料理の内容はこれぞ和食と言ったものだった、これは確実に異世界人関わってるでしょう。
食事をしながらキッカにその辺のことを聞いてみた、10年ほど前から和食が徐々に広まっていき、5年ほど前に澄酒が世に出回り始めたのをきっかけに広まったらしい。ちなみにそれを広めた人はハクさんの旦那さんらしい。
流石にこんな近くにいるなんて予想外だよね。そういう事で、食事お終えた後に紹介してもらった。私はその人と別室で二人きりにしてもらう。
「はじめまして、私が現在この宿を任されております、シュンといいます」
「はじめまして、私はエリー、えっと本名は伊能英莉よ。あなたと同じ異世界人になるかな」
私が異世界人だと名乗ったらすごく驚いた顔をしていた。シュンは改めて、
私が師匠と出会ったのと同じように、シュンは先見の魔女のカルラに出会うことで生をつなぐことが出来たみたいだ。実際の所はカルラの先見の力によって見つけられたというのが正解かもしれないね。
この世界に落ちてきたのは14年ほど前で、あちらの世界ではとある酒蔵に併設された食事処で見習いの料理人として修行をしていたということだった。そんな中この獣人大陸に落ちてカルラに救われ今に至るのだとか。
カルラの勧めでこの旅館で働き始めたわけだけど、自然な流れというべきかハクさんと一緒になり、キリちゃんとキコちゃんの二人が生まれたというわけだね。宿が今のように変わったのも、澄酒や焼酎が出回ったのもシュンの影響なんだとか。
澄酒や焼酎がほしいと言ったら、二つ返事で譲ってもらえることになった。代わりにケンヤが作ったカレー粉と、私がひと手間加えたカレー粉を渡してあげると、涙を流して喜んでくれた。やっぱりカレーというのは最強の調味料なのかもしれないね。
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少し中途半端ですが、ここで章を区切らないとすごく長くなりそうですので一旦章を区切らせていただきます。
次章は小話が3話の後に入ります。
今後ともご贔屓にー。
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