第97話 魔女、蕎麦を食べる
船は魔の森から離れて、視認できないほど距離を開けて進んでいく。魔の森から近いと何があるかわからないので陸沿いには進むわけにはいかない。
けっきょく出港は昼過ぎになった。前日にしこたま飲んだ人たちがヘロヘロだったからね。少しずつ復活した船員が食料などの積み込みを済ませて出港出来るようになったはお昼すぎだったわけだね。
私の目算では一週間から十日くらいで獣人大陸につくとは思うのだけど、実際の所はわからないんだよね。嵐なんかに巻き込まれなければ良いのだけどね。空を見上げても今は雲一つ無い青空が広がっている。
「エリー殿、暇つぶしに一手お相手いただけぬかな」
「まあ良いけど、あんまり暴れて前みたいに樽なんか壊すと怒られるからね」
「大丈夫だ、そのために棒を用意している」
「それじゃちょっとやりますか」
私は杖を取り出して、甲板の中央へ向かう。それに合わせて船員が観戦し始める。ダイゴとこうやって手合わせするのは結構な回数になっている。私とダイゴは向かい合い軽く杖と棒を打ち付け勝負が始まる。
◆
港街シシリアを出てからおよそ一月。思ったよりも時間は掛かったが獣人大陸が視界に入った。最初は夜見島を目指していたのだけど、海流に流されてたようで南へ南へと流されていった。
キャプテンも船員も何度か修正しようと思ったらしいのだけど上手くいかなかったようだ。私が魔法なり魔術で海流を操作しても良かったのだけど、なんとなく流れに任せたほうが良い気がしたので何もしなかった。
途中嵐の結界に閉ざされた島を発見したのだけど、私とアダルの二人だけが波にさらわれ島まで流された。そこでは大冒険が繰り広げられたのだが、それはまた別のお話というやつですね。
そんなわけで結局獣人大陸カトレアまでたどり着くのに一月もかかちゃったわけですよ。食料なんかは嵐の結界が解けた島で手に入れたので問題はなかったし、いざとなれば私のポシェットに入れている物を出すつもりだったからね。
獣人大陸カトレアが見えたという事で、どこか港があればそこに一度上陸する予定だけど、キッカがいうには、船が停泊できる港などは南にはないらしい。あるのは漁村程度の小さなものしかいようだ。
陸を目視しつつ、東へ向かって進んでいく。最終的には夜見島にはよらずに、キッカとダイゴの権限を使って唯一と言ってもいい東の港に入港出来たのは、予定よりもだいぶ遅れた感じになった。
「ようこそ、カトレアへ」
「やっと着いたな、キッカの
キャプテンがキッカにこの後どうしたら良いのか聞いている。キッカのことを船員は姉さんというようになってたけど、何があったのかは知らない。前もって滞在予定は最長で半月くらいになるとは話している。
キャプテンたちには悪いけど、帰りのこともあるので待っていてもらうことにした。キャプテンたちも船のメンテナンスのために一度船を作ってもらった所へ行く予定らしいので、乗せていってもらうつもりでいる。ちなみに滞在してる間の入港料や滞在費などのもろもろの資金はキッカが出してくれるということになっている。
「この港街の中なら自由にしていただいてよろしいですよ。あとはそうですね、後ほど手形をお渡ししますのでそれまでは、あそこの門より外へは出れませんので。ただ、あそこの酒場や商店での買い物などは自由にしていただけます、門の内側ですと両替も必要ないです」
キッカが一つ一つ施設を指さしながら何の店か説明している。
「わかりました姉さん。よしおめーらちょいと酒場へ繰り出すぞ」
「「「よっしゃ」」」
留守番を残してキャプテンたちは酒場へ向かっていった。
「エリー様とティッシモ様ですが、今日は自由にしていて下さい。明日から都へ向けて出発する予定ですので」
「わかったよ、それじゃあティッシモどうする?」
「エリーさんにおまかせしますよ」
「じゃあ、ちょっと屋台でも回ろうかな」
「いつも通りですね」
「それでは明日には迎えに来ますので、ダイゴ行くよ」
「おう」
キッカとダイゴは連れ立って門をこえて行った。それを見送り港を見て回る。立っている建物は時代劇で見るような和風の建物で、木造平屋の瓦屋根となっている。たまに石造りの建物もあるけど数はそんなにないように見える。
歩いている人は流石に獣人大陸ということもあり、獣人が多いのだけどそれ以外もちゃんといる。むしろこの港の周りは獣人以外の方が多いように感じた。
「この辺りの雰囲気は私たちの大陸とあまり変わりませんね。流石に獣人の方は多いようですが」
「そうだね、売っている食べ物も変わらない感じだね」
さっき買った串焼きを食べてみたけど味付けなんかも変わらないみたいだ。多分だけどこの港街の食べ物は、外からくる人向けに作っているのかもしれないね。他にも店を覗いてみると、お米が売っていたけど多分ここで買うと高いんだろうなと思ったので今は買わないでおいた。
ぐるりと屋台と商店を見て、適当なお店に入ったらそこで珍しいものに出会った。食べるのはいついらいだろうか、こっちの世界に来てからは食べていない。
「お姉さん、このざる蕎麦大盛りでお願いします。ティッシモはどうする?」
「それでは私は、この並盛というのでお願いします」
「はーい、少々お待ち下さい」
そうなんだよ、蕎麦だよ、お蕎麦があったんだよ。ケンヤでも蕎麦粉は手にはいらなかったようで食べれなかったんだよね。
「お待たせしました、お客さんはここ初めてですよね。箸は使えますか? フォークをお持ちしましょうか」
「よく私たちが初めてってわかったね」
「まあ、ここの港は狭いですからね、見覚えのない人がいればわかりますよ」
「そうなんだね、ちなみに私も彼も箸は使えるから大丈夫ですよ」
「そうですか、それではごゆっくり」
犬耳の店員さんが下がっていくのをちらりと見てから、お蕎麦を食べ始める。ツユにワサビらしきものと、ネギっぽいものを入れて、蕎麦をツユに軽く付けてから、ずるずるとすすって食べるとティッシモが何してるのみたいな目で見てくる。
「お蕎麦はこういうふうにすすって食べるんだよ」
「本当ですか?」
「ほんとほんと、でもあまり勢い付けると汁が飛んで服についたりするから気をつけてね」
そうはいったものの、ティッシモは上品に少しずつ食べている。まあ初めてだとすすって食べれないよね。久しぶりに食べたお蕎麦は美味しかったですまる。
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