第96話 魔女、森で迷う
「ここは誰、私はどこ」
なんてベタな事を呟きつつも私は迷子になっている。まあいざとなったら転移を使うか空を飛べば良いんだけどね。わかっているかも知れないけどここは魔の森です。
暇なので一人で魔の森にきたわけですよ。だけど管理されてない、いや魔の森が管理されてたらそれはそれでおかしいけど、師匠の家の周辺とは違い人を寄せ付けない感じのそんな魔の森です。
一歩踏み込んだだけで感覚を狂わされて道に迷った、一歩だよ一歩踏み入っただけで迷うとか無いでしょ普通。まあその普通が通じないのが本来の魔の森なんだよね。
迷ったものは仕方がないという事で適当に進んでいると、見たこともない植生に魔物が出てきてフィーバー状態ですよ「ここは宝の山か!」なんて叫んだのは仕方がない。
特にどれもこれも毒持ちってのが良いよね、このヘビなんか気配が全く感じられなかった上に、噛みついた時点で麻痺毒を流し込んだのかしばらく気が付かなかったよ。
私には毒系統は効かないはずなのに、このヘビの麻痺毒は毒判定じゃないのかもしれないと考えるとテンションが上がるね。生きたまま持ち帰れないのが残念だよ。フラスコを用意して、牙から麻痺毒を採集してから首を切って魔法で血液だけ取り出して別の容器に保存する。
「まだ時間は大丈夫かな」
鬱蒼とした木々に遮られて上を向いてもまだ明るい時間ということくらいしかわからない。腹時計的にはまだお昼前だとは思うんだでどね。どこかでお昼を食べれる場所はないものかな、まあこの様子じゃ無理か。
そこらの見たことのない虫や蝶や毒草なんかを採集しながらさらに奥へ……多分奥のはず。奥だと思いながら進んでいくと水の流れる音が聞こえてきた。
水場にもなにかあるのかもしれないのでとりあえず向かってみる。そして水場なのだけど、うんピラニアみたいなのが群れをなしていたよ。あの歯がギザギザしたあれだね。とりあえず一匹捕まえてさばいてみたけど、珍しく毒はなさそうだった。
寄生虫もなし、火で軽く炙って食べてみたけど普通に美味しかったので、追加で捕獲して切り身にしてからまとめてポシェットに放り込んでおいた。水辺には他に見るものもなかったので、とりあえず川に沿って上流へ向かってみる。
上流に向かって歩いていくと、かなり大きな滝にたどり着いた。その場所は結構開けていて、滝を見ながらランチをするには良さそうだ。パッと見た感じでは魔物もいなさそうなので、少し遅めのお昼にすることにする。
ポシェットからテーブルとイスを取り出して、ランチョンマットをひいてその上に適当に屋台で買った物を並べて食べ始める。なんだか一人での食事って久しぶりな気がするね。滝の音と風に流されてくる水しぶきが心地いい。
さてとどうしようかな、このまま森を進んでもこれ以上行っちゃうと時間内に帰れなくなりそうに思える。今のところ、人の形をした魔物なんかは見ていないので、ここら一帯にはいないのだろうね。
テーブルとイスなんかをポシェットにしまって、代わりに杖を取り出して空へあがる。空から周りを見回すと思ったよりも奥まで進んでいなかったようだ。このまま空を進めば30分もかからずに森を抜けれそうだね。
今回の探索はここで終わって、そのうちまた来ようと思う。魔の森を抜けようとした所で久しぶりにアレを遠目に見つけることが出来た。なんだか前にも同じことがあったなーと思いつつ、杖の上に立ち上がり腕は弓を引くようにして狙いを付ける。
「穿て」
魔力の塊が一直線に飛んでいく、それを追いかけるように飛んでいき魔の森に落ちる前に死使鳥を回収する。うん、死使鳥なんて久しぶりだね。いい具合に肉がついていて美味しい唐揚げが出来そうだ。
そのまま港街シシリアの近くまで飛んでいき歩いて街に入る。なんとか日が暮れる前に戻ってこれた。死使鳥の解体とかは船の上でやっちゃおうかな、まあポシェットに入れておけば腐るものでもないし入れっぱなしでも良いかな。
明日の早朝には出港するらしいから、あまり遊んでいる暇はなさそうだ。相変わらず寂れた街中を進み宿へたどり着く。
「おかえり、すぐにご飯にするかい?」
「ただいま戻りました女将さん。すぐに食べられるならいただきます」
「それじゃあ座って待ってなさい」
ティッシモやキッカたちは既に食べ終わっていて、今は近くの酒場に繰り出しているらしい。ティッシもは小遣い稼ぎかな、ダイゴやキッカたちは森での狩りが良い稼ぎになったのか、お酒を飲みに行ったのかもしれないね。
「おまたせ、今日は魚貝盛りだよ」
眼の前に置かれた大きなドンブリには、魚の刺身と貝が並べられていた。いつも通り神に祈るまねごとしてから食べ始める。魚は船の上で結構食べたけどこっちのほうが美味しいね。
「女将さん美味しかったです」
「そう言ってもらえると作ったかいがあるってもんだよ」
食事も終わったし、私もちょっと酒場でも覗いてみようかな。一度部屋に戻って魔法で体と服をきれいにしてから酒場へ向かう。なんだか酒場が騒がしそうだけど何をしているのだろうね。軽快な曲が聞こえてきているから喧嘩ってわけでもなさそうだね。
恐る恐る酒場に入ると、ダイゴたちとは別にキャプテンと船員が勢揃いして貸切状態になっていた。なんかそこら中に酔っ払った船員が寝ている。まあ明日からはしばらく陸には寄れない船旅だから羽目を外しているんだろうね。
結局私は酒場に入らないで回れ右をして船に向かう。さてお風呂好きの私がお風呂のない宿屋に泊まっているのをおかしいと思っている方もいることでしょう。その答えは、船にお風呂を設置させてもらいました。
水がもったいないとか言われても、水なんて魔法で出せばいいし、排水がと言われてもその辺りはなんとでもなるからね。私が船に乗っている間はお風呂入り放題だよと言って作らせてもらったわけですよ。
というわけで、今日もちゃんとお風呂に入ってから、ぐっすりお休みします。
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