第95話 魔女、暇をする
船旅は順調に続き、途中いくつかの港に停泊して休憩を挟みながらドレスレーナ国で最も西に位置する港に降り立った。港街の名前はシシリア、この港から西へ3日ほど歩くと魔の森があるようだ。
ここからは魔の森の南側を船で進むのだけど、獣人大陸までは港がないので最後の補給になる。英気を養うという事で2日ほどここに滞在するようだ。キャプテンと船員たちは早速酒場へ繰り出していった。
私たちはとりあえずギルドへ行って情報集めにいそしむ。この港街ははっきり言って賑わっていない。それはギルドも同様のようで、冒険者は殆どいないようだ。
その辺りを聞いてみると、ここはどん詰まりということで、人の流入が少ないからだとか。まあそうだよね、南は海、西は村が一つありその先は魔の森、東に進めば漁村がいくつかとその先にはここより栄えている港街、北は街道が通っているものの殆ど人の通らない有り様なのだとか。
特産品らしい特産品もなく、魔の森に分け入って魔物を倒して素材を手に入れたりしても買い取り手がいないどん詰まり状態なのだとか。それでもこの港街が維持されているのは魔の森からの魔物の警戒と、西側から来るかもしれない船への警戒のためらしい。
めぼしい依頼も無いので、良さそうな宿の場所を教えてもらってお礼をいいギルドを出る。飲食系を扱っている屋台もあまり見受けられない、はっきり言って寂れているの一言しか出てこないね。
「とりあえず宿をとって後は自由行動でいいかな」
「私はそれで良いですよ。そうですね酒場に行って小遣いでも稼いでこようかと思います」
「うちは、どうしようかね……ダイゴ、少し狩りに行こうか」
「狩りか? ギルドにはめぼしい依頼はなさそうだったが」
「北の方にある森に行けば何かいるだろう。ずっと船旅をしていたせいで体が鈍って仕方がないんだよ」
「そういうことなら付き合おう」
「ティッシモは酒場で、キッカとダイゴが狩りね。私はどうしようかな、屋台あらしをしようにも屋台自体が少ないからね」
「エリーさん……」
「エリー様……」
「エリー殿……」
「荒らしている自覚はあったんですね」
なぜか三人にジト目で見られている。
「そんな目で見ないでよ、あなたたちも食べてるでしょ。それにあらしって言ってもちゃんと考えて買ってるからね。すごく気にいったのは全部買ったりもするけど、それ以外なら他の人用に残してるでしょ」
「それは配慮と言えるのでしょうか」
「あっ、ほらあそこが教えてもらった宿みたいだよ」
いいタイミングで宿が見つかったので、ティッシモの言葉を華麗にスルーして駆け出す。普段よく泊まる宿とは違い、見た目は懐かしき大将の宿を彷彿とさせるものだった。
「こんにちはー、部屋空いてますか?」
中に入って声を掛けると、厨房の方から恰幅の良い女将さんらしき人が出てくる。
「はいはい、お一人様ですか?」
「えっと4人なんだけど、できれば別々がいいかな。無理なら二人部屋二つとかでお願いします」
「そうだね、二人部屋一つと一人部屋二つでどうだい?」
追いついてきたキッカとダイゴの方に振り向いてどうする? といった感じで視線を送る。
「それではうちとダイゴが二人部屋で、エリー様とティッシモ様は一人部屋でよろしいのではないでしょうか」
「二人がそれでいいなら」
「おう、わしはそれでいいがな」
「ということなので、それでお願いします」
再び女将さんの方に顔を向ける。
「わかったよ、食事2食付きで一人銀貨一枚、素泊まりなら銅貨5枚だよ」
「それじゃあ、食事付き4人分を2日お願いできますか」
銀貨を全員分纏めて払う。こういう時はキッカたちの分は後で払ってもらうことにしている。
「それじゃあ、鍵はこれだよ。二人部屋は階段を上がって一番奥になるからね。一人部屋は部屋番号が書いてあるから」
「はい、ありがとうございます」
「それと食事だけど、残り物になるがそれでいいなら準備しておくよ」
「お願いします」
鍵を受け取りそれぞれがまず部屋へ向かう、私も鍵の番号と同じ部屋へ入り込んで魔法でちゃちゃっと身綺麗にした後ベッドへ倒れ込む。揺れないベッドはなんだか久しぶりだね。
さてとこの後どうしようかな、2日もあるからね。とりあえず街を回ってなにかおもしろいものがないか探すしか無いかな。
「よっと」
ベッドから起き上がり部屋を出て食堂へ降りる。席に座ると女将さんが食事を運んできてくれた。その後キッカたちも降りてきて席につく。食事が全員分運ばれてきた所で、食事を開始する。
食事はシチューとパンだけの軽めのものだったけど、夜はもうちょっとちゃんとしたのを用意してくれるみたいだ。食事を終えてお茶を飲んでいると女将さんがやってきた。
「挨拶がまだだったね、わたしはこの宿のオーナーをしているファイナだよ、よろしくね」
「オーナーさんですか、一人でやっているんですか?」
「まあね、めったに泊り客もいないからね、旦那と子供は別で仕事をしているよ」
「そうなんですね。えっと私はエリーです、こちらがティッシモ、そちらの女性がキッカで、でかいのがダイゴです」
自己紹介を済ませた所で、この港街になにか珍しいものとかあるのかと聞いたけど「なにもないねー」とのお答えが返ってきた。なにもないらしい、本格的にやること無くなった感じだね。
まあ、街中をぶらぶらして何もなければ、久しぶりに魔の森までいって見ようかな、師匠の家からかなり離れた場所だし、変わったものがいたりあったりするかも知れないからね。
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