第93話 魔女、情報を共有される

 街道から少し離れた草原を駆ける。


「そっちは任せるね」


「おう」


 相対しているのはグレイヴォルフの群れ。グレイヴォルフとはその名の通り、灰色のオオカミだ。魔物ではなくて動物枠なのだけど、こいつらを操ってるのはブラックヴォルフという魔物になる。ブラックヴォルフはグレイヴォルフが何らかの原因で魔物になり群れのボスとなった存在だ。


「薙ぎ、払え」


 牽制をするつもりで呪文を唱えながら腕を横薙ぎに振るうと、見えない風の刃が真っすぐ飛んでいきグレイヴォルフの群れに襲いかかる。思ったよりもグレイヴォルフの動きが鈍いようで、半数近くが避けることなくまともに当たり動かなくなった。


 背後からティッシモの呪歌が聞こえる。効果はよくわからないけどグレイヴォルフの動きが鈍いのは呪歌の効果かもしれない。


 残ったグレイヴォルフが私とダイゴに殺到するが、私は杖で応戦する。噛みつきや爪での攻撃を躱しながらカウンター気味に殴りつける。ダイゴの方を確認すると、盛大のグレイヴォルフが吹っ飛んでいくのが見えた。


 襲いかかってきたグレイヴォルフの半数以上が倒れた所で、遠くから群れのボスのブラックヴォルフだと思われる断末魔が聞こえた。


 私たちを襲っていたグレイヴォルフにもそれが聞こえたのか、ブラックヴォルフが倒された事でいっせいに逃げ出し始めた。


「終わったようだな」


 ダイゴが血の付いた槍を拭って布で刃の部分を巻いた後に背負っている。私は倒したグレイヴォルフを収納しながら数を数えると50匹くらいは倒したようだ。まだ息のあったものにトドメを刺して収納していく。


 合流したティッシモと手分けして一通り収納が終わった所でキッカが、全長2m程もあるブラックヴォルフを引きずって来るのが見えた。


「キッカ、おつかれー」


「ただいま戻りました」


「それも収納しておいてさっき見つけた川で血抜きだけしちゃおっか」


 ブラックヴォルフを収納する。キッカとダイゴは収納系の魔道具を持っていないようで、倒した魔物なんかは私とティッシモがすべて収納している。収納袋を作って渡せれば良いのだけど、流石に使える施設もないうえに材料も心もとないので作れずにいる。


 今私たちはドレスレーナ国の東にあるイーラと呼ばれる港街の近くの平原にいる。グレイヴォルフを倒していたのは港街のギルドでクエストを受けたからだ。別に私はお金に困っているわけでもないし受ける必要はなかったのだけどね。


 イーラに着いた所でさっそくギルドに向かった。ギルドでは情報収集をしながらいい宿の情報などを聞いて、さっそく宿の場所に移動した。私はその宿の名前を見てやっぱりそうかと納得した。グランゴルドという名の宿はまたかーと言いたくなるほどの頻度で泊まっている。


 行く先々で見つけたら泊まるようにしている高級宿のグランゴルドだけど、ちょっとした規模の街にならだいたいあるんだよね。イーラの港に着くまでに何個か街を通ってきたけど、その度に泊まっているせいかダイゴとキッカのお財布に大ダメージを受けたようだ。


 そういうことでこの依頼も、二人のために受けたようなものだったりする。二人にはただの暇つぶしと言っているけど、実際の所はまあ二人にお金を回すためなんだけどね。


 クエスト達成の報酬に、ヴォルフを売ったらいいお値段になると思う。イーラの港街は今まで通ってきたどの街よりも賑わっていると思う。理由としては国境に近い事もあり交易が盛んに行われているからだと思う。


 まあ、毛皮を剥いだり鞣したり解体するのは面倒だから血抜きだけして売っちゃうつもりだけど、50匹近くいるからね。私もダイゴもなるべく傷つけないように殴って倒したからその辺りも金額の上乗せに期待できるかもしれないね。



 街に戻り、ギルドで依頼達成の報告がてら、カウンターに大量のグレイヴォルフを取り出して「なにもんだあいつら」的なお約束をしたかったのだけど、普通に解体所まで案内された。


 よくよく話を聞いてみると、クラーケンのことや他の街のギルドでやっちゃったあれやらこれやらが共有されちゃってるということだった。いったい何をやったかって?


 ほらやっぱり初めて行ったギルドで絡まれたら、あれやらこれやらやりたくなるよね。大量の魔物をカウンターに出してドヤーってしたり、絡んできた酔っぱらい冒険者をワンパンでのしたりとか。


 他にも「騒がせて悪かったわね、これで好きなだけ飲み食いしてね」とかいってお金をだしたり、いろんな街の屋台で大人買いをしたり、大怪我して運び込まれてきた冒険者をちゃちゃっと直したり、異世界あるあるお約束をやっていたらいつの間にか要注意人物になっていたようだ。


 それも、ひと所に留まらず移動しながら騒動を起こしていたのも原因らしい。うん、ちょっと悪ノリした感はあるけど、私は悪くないよね。


 そんなわけで、シルバーランクでエリーと名乗る不審人物が現れたら気をつけるようにという感じでこの国の各ギルドでは共有されているとか、なんだか扱いがひどいと思わない? 一応人助けもしているはずなのにね。

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