第91話 魔女、誘われる

「それじゃあ話しを聞こうかな」


 掃除も終わり私とティッシモが借りた家へとやってきた、和装の二人は家の中が綺麗なことに驚いたのかキョロキョロしている。


「あ、ああ、そのだな、すまん頼む」


 クマ耳の男の連れである女性に声をかける。


「はぁ仕方ないわね、お初にお目にかかります魔女様。うちはキッカと申します、この横の脳筋クマはダイゴです」


 キッカと名乗った女性の見た目は一言でいうとネコの獣人といったところだろうか、オレンジ色の髪に頭の上に猫耳が付いている。それ以外はクマ耳の男ダイゴと同じように人の耳がついている場所は髪で隠れている。獣人の耳はあの頭頂部の耳のみで、人と同じ耳は持ち合わせていない。


「私はエリーよこの横のはティッシモ。それからその魔女って呼びはとりあえずやめてね、それと敬語とか使わなくていいから普通にお願いね」


「あーはい、努力します」


 とりあえず居心地が悪そうにしているダイゴは放っておいてキッカと話をすることにする。


「それで私になにか用があるんだよね」


「はい、まずは我らが姪を救っていただきありがとうございます」


「救った、ね。あなたが言う姪っていうのは、火龍山で私が殺した銀髪で犬の耳をした女の子のことだよね」


 あえて殺したと言ってみたのだけど、二人は特にそこには反応を示さなかった、なんだか詳細をすでに知っているという感じだね。


「はい、彼女の名はハクア、銀狼の娘です。彼女とその両親はこちらの大陸で暮らしていたのですが、ある時から連絡がつくなくなました。わかったときには両親はすでに亡くなっており、ハクアだけ行方がわからなかったのです」


 犬じゃなくて狼だったのね、なんてどうでもいいことが頭をよぎったが黙って続きを待つ。


「そしてエリー様がハクアに救いを与えてくださったことにより、我らはハクアの事を知ることが出来ました。それも含めて感謝をいたします」


 そう言って頭を下げるキッカとダイゴ。救い、ね。本当にキッカは詳細を把握しているようだけど、あの場には私とドラグニスしかいなかったはずだし、見られている気配もなかったはずなんだけどね。


「一つ良いかな、キッカはどうやってそれを知ったの? 私にはあの時あの場所に誰かがいた気配も誰かに見られていた感覚もなかったんだけど」


「それは、我らが主様のお力によるものです」


「主様ね、つまりその人の能力で私に感知されること無く詳細を知ったってことかな」


「はいそうなります」


 さて、そんな事ができそうな人物は一人しか思いつかない、それに獣人関係となると十中八九その人物なんだろうね。直接会ったことはないけど師匠から話しは聞いている。


「あなた達の主様っていうのは魔女だよね、第2の魔女にして先見の魔女カルラ・カルマ、そうでしょ?」


 キッカとダイゴは驚いた表情をしている。もしかして私が知らないとでも思ったのかな? あーそうか、二人はきっと師匠の存在を聞いてないんだろうね。つまりは先見の魔女でも師匠を見通すことが出来なかったというわけだ。


 先見の魔女が関わってるのなら詳細がわかるのは不思議なことじゃない。師匠から聞いた話しだと「彼女に見通せないものは殆ど無いね」ってことだった、その殆どに師匠もちゃっかり入ってたわけだけどね。


 むしろ先見の魔女の目をかいくぐり、ハクアの両親を殺しハクアを誘拐し死の瞬間まで隠し通したということのほうが驚きだよ。きっとハクアはあの額の魔石だけじゃなく他にも色々といじられていたんだろうね。


「それで? お礼を言いに来ただけってわけではないよね、なんでわざわざ私に会いに来たのかな。そこのダイゴがお礼参りをしたかったってわけでもないよね」


「それは我が主様より、エリー様をお連れするようにとうけたまわった次第です」


 なにか用でもあるのかな、まあ目的のない旅だしそのうち行ってみようとは思っていたけど、獣人大陸に渡るつてがなかったんだよね。それを考えるとちょうどいいのかもしれないね……ってこの流れもきっと先見の魔女の手のひらの上って気がしてくるね。


 んーどうしようかな、とりあえず保留かな。というかさ、この二人はどうやってここまでやってきたんだろうね。獣人大陸ってさ、魔の森を西に突っ切った先の海を超えた所にあるはずなんだけど。


 ここって方角的に魔の森とは真反対だし、仮に船で渡るにしても、小国家群かそれより北の国から船に乗らないといけないはずだけど、そもそも獣人大陸まで送ってくれる船なんてあるのかな?


「とりあえず保留ってことでいいかな? ちょうどお迎えも来たことだし話しの続きは明日にでもしましょうか」


 私がそういったタイミングで入口の扉がノックされる。キッカとダイゴが頭の上の耳を隠したのを確認した後ティッシモが扉を開けると、そこには村長が立っていた。


「そろそろ宴会の時間ですじゃ、皆様も一緒に今日は楽しんでくだされ」


「ありがとうございます、ご相伴にあずかるに預かります」


「いやいや、お主が提供してくれた肉じゃからな、こちらこそ感謝じゃわい」


 キッカとダイゴは一度借りている家に戻ってから宴会に参加するということで出ていき、私とティッシモは村長の案内のもと集会場として普段使われているという広場に移動する。


 村人の数は100人くらいだろうか、すでに思い思いに食事を楽しんでいるようだ。村長にお肉の提供者として紹介をされた事で、迎え入れられた私たちは、村の特産だという食事を振る舞われ大いに楽しんだ。


 返礼と言うことで、お酒の樽を2樽ほど提供したら一気にお祭り騒ぎへと発展したのは言うまでもないだろう。特産だという変わった葉野菜を使った野菜炒めは美味しかったです。


 ちなみに、ダイゴに熊肉って食べても大丈夫なの? と聞いたら獣人と動物は別物だから共食いではないと言ってました。

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