5章 魔女、獣人大陸へ行く

第89話 魔女、旅を続ける

 一週間ほど掛けて王都から隣街まで馬車で送ってもらった後はブラブラと徒歩で東へ向かう。街から街へ移動するための乗合馬車に乗っても良かったけど、途中にダンジョンが何個かあるとわかったので、徒歩で移動しながらそれらを壊して回った。


 どのダンジョンも誰かが管理しているわけでもなく、野良の魔物がダンジョンに取り込まれて出来たものと思われた。特に強い魔物もおらず、手に入ったのは鈍らの武器がせいぜいだった。


 ちなみに、なぜダンジョンの場所がわかったかというと、あの変態から受け取った魔道具に備わってた機能にダンジョンが近くにあると知らせてくれるというものがあったからだ。


 邪魔になるものでもないから腰に下げていたのだけど、いきなりブルブルと震えだして見てみると、黒かった針が赤色へと変わっていて、ある方角を指し示していた。それに従い進んでいくとダンジョンがあったというわけだ。


 どのダンジョンも人気はなく、長い年月放置されていたのがわかるほどの物しかなかった。それもそのはず、どのダンジョンも人里から離れすぎていて、私も変態謹製の魔道具がなければ見つけることは出来なかったと思う。


 とりあえずティッシモと中に入り、最下層まで行きダンジョンボスを倒してダンジョンコアを解放して回った。今回回ったダンジョンには結局アルダとベルダのように、自らダンジョンコアを埋め込んだといった人はいなかった。


 魔道具が指し示す方角へ向かい、ダンジョンを解放するといったことを繰り返していたら一月近く時間が過ぎていた。


「やっと魔道具が反応しなくなったね」


「思いの外索敵範囲が広いようですねその魔道具は」


「この収納ポシェットに放り込んでおけばいいんだけど、なんて言ったら良いのかな、収集グセというかコンプリート魂というか、なんだかこういうのって制覇したくなるんだよね」


「なんとなくその気持ちはわかりますね。私もこの世のすべてのお酒を手に入れたいと考えていますからね」


「エルフってそんなにお酒好きじゃないよね。師匠もディーさんも飲んでる所見たこと無い気がするし」


「自分で言うのもなんですが、私ほど酒を飲むエルフはいないでしょうね」


 ティッシモとは出会ってそんなに経ってないけど、宿などに泊まる度に珍しいお酒探してた気がするね。飲んでいる所はあまり見た覚えがない。酒場へ入る度に小銭稼ぎ代わりに吟遊詩人らしく客のリクエストで歌ったりしていたからね。


 ティッシモは意外と、といったら悪いかもしれないけど、私からしてもついついお捻りを渡してしまうくらいに、歌も詩もうまいと思った。そしてレパートリーも結構あるみたいだったね。


 まあ、そういったわけでダンジョンから開放された私とティッシモはさらに東へ向かって旅を続ける。これといった明確な目的はないのだけど、とりあえず魔の森とは反対方向にいってみようかといった所である。


 このまま東へ進んでいくと、隣国との国境に向かうことになるので、途中で南東へと進路を変えて進む。各領地の領都へたどり着く度に冒険者ギルドで面白そうな依頼を受けたり、その街特有の料理を食べたりして旅を満喫している。


 特にこれといった事件に巻き込まれることもなく、穏やかではあるが暇な旅路であった。そんな私とティッシモの前に彼らは現れた。


 その姿は、まさしく侍と言って良い装いだった。打裂羽織ぶっさきばおり裁着袴たっつけばかまに編笠を被り、脚絆に草履を履いていた。そして腰には刀らしき物がさしてあり背には大きな槍を背負い、刃の部分には布が巻かれている。連れの女性は壺装束と呼ばれる装いをしていて、この男女の二人を見た時私はどこの時代劇だと言いそうになった。


 いやホント、時代と世界を間違えてるんじゃないのかなと思ったが、それよりも二人が視界に入るまで全く気配に気が付かなかったことに驚いた。それはティッシモも同じだったようで、二人して一気に警戒を強めた。


 なんとなくこちらに歩いてくる二人の視線が私に向いているのがわかり、私とティッシモは歩みを止めて接触してくるのを待つことにした。



side:???


 ははさまが予見をした場所で私と連れはある人物が通りかかるのを待ち続けること一週間、やっとその人物が現れた。母さまの予見ではそれこそ一週間前にここを通るはずだったのだけどその予見をずらされてしまっている。


 母さまの予見がここまでずれるというのは、私が知る中では初めてかもしれない。待っているうちにもしかしたらどこかですれ違い、ここで待っていても無駄なのではないかとも思っていた。だけど連れが「俺の勘だがな、待っていれば来る」と自信満々に言われたので待っていた。


「あれが目的に者で良いんだよな?」


「ええそうです、女性の方が目的に人物です」


「ふむ、あまり強そうには見えぬが、あの者が我らの姪の命を終わらせた者か」


「そうなりますね、さてどういたしますか? 無難に話しかけるかそれとも」


「くはは、そりゃあ決まってるだろ、一手お相手いただくさ」


「はぁ、わかっていましたが程々にお願いしますよ」


 ほんとこの連れの男は脳筋なのだから世話が焼ける。


「では行くぞ」


「はいはい、もう一人の方は私が相手するわ」


「おぉ、すまんが頼む」


 私は手に持っている杖の感触を確かめながら、前をゆく男のあとに続く。しばらくすると相手もこちらに気がついたようで立ち止まった。私たちを警戒しているようだ。


 あの男性に関して、母さまは何も言っていなかった。遭遇時期のズレといい、いないはずの人物といい何かと不安ではあるが、母さまの元へ連れて行くという目的を考えると、喧嘩をふっかけるのは悪手な気がする。


 と言ってもこの男はバカでアホで脳筋だから止めても止まらないだろうね。そっと一つため息を吐きながら、どう説得したものかと考えるだけで頭が痛くなりそうだわ。

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