小話 とある薬師の軌跡 後編
私が王都の施設に入り三年経った。今は冒険者ギルドに集められた孤児や、神官見習いの子達とともに、先生から薬師としての指導を受けている。
そんな冒険者になるための一歩を踏み出した頃、フォル様はタイター家の当主になり、シャイナ様と結婚した。貴族の結婚式に呼ばれるなんてすごく緊張したけど、ちゃんとフォル様とシャイナ様を祝福できたと思う。
だけど式が終わり帰ろうとした所で、ティナ様に呼ばれて少し人気のない所まで移動して話をすることになった。話は出会った頃から王都までの冒険などの懐かしい思い出話を二人でしていたら、私はとうとう泣いてしまった。そんな私をティナ様は抱きしめ、泣き止むまで背中をなでてくれた。
なんで泣いてしまったか、それは自分では自覚していなかったけどフォル様がずっと好きだった事に気がついたからだった。ティナ様はずっとそんな私の事を心配してくれていたということだった。
使用人にならずに冒険者になるといったのも結局は、冒険者で上り詰めれば貴族になれる可能性もあり、そうしたらフォル様と結婚できるかもしれないなんて、現実的には不可能な望みを持っていたからだった。
だって私とフォル様の年の差は15歳くらいちがうのだから、私が仮に冒険者になり名を売り貴族になったとしても、その頃には確実にフォル様は結婚しているのはわかりきったことだったのにね。
さめざめと泣く私を慰めてくれたティナ様だけど、そんなティナ様と私は一晩ティナ様の部屋ですごした……。うん、何をしていたとかは秘密です。
現金かもしれないけど、ティナ様に慰められたおかげでフォル様のことは吹っ切ることが出来たし、冒険者を目指すことをやめて本気で薬学を学び薬師になることにした。
先生からも筋が良いと言って貰えて、他の子が卒業していく中でも私は一番多くの時間を割いて色々教えてくれた。それは先生が旅に出ると言って最後の授業としてすごく大きな薬学に関する本と収納袋を卒業のしるしとして渡された。
「頑張りなさい、あなたならきっとこの王都では最高の薬師になれるよ」
王都ではという言葉に少し疑問を感じたけど、その疑問は数年後アデラという女性と出会うことで理解することになるけど、このときの私はそれを疑問に思うことすらなく、先生との別れに涙を流していた。
先生がいなくなってからは貰った本を頼りに薬師の修行を続けた。素材が必要になったときは冒険者ギルドに依頼をしたり、ティナ様が付き合ってくれたりした。そんなティナ様も、結婚して今は遠くの街で暮らしている。
いつしか私は国一番の薬師と言われるようになっていた、だけど私は自分自身をそうは思っていなかった。あの先生の一番弟子のアデラには全然負けているのだから。
それでも王都一番の薬師だとは名乗れると思っている、そしてあの別れの時に先生が「王都で最高の」といった意味もわかった。私とアデラの違いは、一人の女性の存在が大きいと思っている。
噂で聞いた話になるのだけど、アデラの相棒であるその女性は自らを魔女の弟子と名乗っている。その女性は王都から遠く離れたダーナの街に拠点を構える錬金術師だ。
アデラは、その錬金術師の助けとなるために薬師になったらしい。そしてその錬金術師を助けるために、薬師としての技術を磨き、素材を自らの手で手に入れるために冒険者としても力をつけていったのだとか。
そう、私はあくまで薬師としての技術しか磨いてこなかった。小さいながらも自らの店を持った頃には自分で素材を集めることも無くなった。それが私とアデラとの間にある高い壁なのだと理解させられた。
いつしか店も大きくなり、弟子もたくさん育て世に送り出してきた。一時期は国から専属の薬師にならないかとも言われた事もある。断るのは不敬にあたるのではと悩んでいた所に、何故か国王様が訪ねてきて「
先生はその後一度だけ訪ねてきてくれたけど、国王様の師匠をしていたなんて一体何者なのだろうか。最初に出会った時も再会した時もその姿は全く変わっていなかった。
そして時はたち二度目に訪ねてきてくれた先生は「よく頑張ったね」と私の頭を撫でてくれたけど、笑っていいのか泣いていいのか不思議な気分になったわ。だって私はもうおばあちゃんなのに先生はあの時のままなんだから。
私は数年前に店を弟子に譲り、ティナ様に請われ今はティナ様の世話係として一緒に暮らしている。旦那さまは数年前に先立たれたとのことだった。ティナ様が結婚されてからも付き合いは続いていた。ティナ様は一年に何度かは王都に来られた。そのときなどは必ずといって共に過ごした。
きっと私よりもティナ様のほうが先にいってしまわれるだろう、そうなった時私はどうするのだろうか。思い残すことはない、満足のいく人生だったと思う。ああ、そうだね、最後は旅にでも出ようかしらね。
今はティナ様のお世話をしながら、最後の弟子に手ほどきをしている。その子がもう少し成長したら旅に同行させるのもいいかしら。私はずっと王都から出ずにいたから国一番にはなれなかったけど、きっとあの子なら国一番、いいえ大陸で一番になれるかもしれないわね。
残りの人生、旅をしながら弟子とともに流れの薬師でもやってみようかしらね。うふふ、まだまだ私の人生は楽しみがあるようだわ。
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な、な、なんと、この話を持ってエリーさんは小話をあわせてちょうど100話になるようです。
ここまでお読みいただきました皆様に感謝を。
そして今後ともお読みいただければ幸いです。
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