4章 魔女、骨を休める
第77話 魔女、クラーケンを食べる
魔術で作り出した岩の槍がクラーケンの眉間へと突き刺さる。しばらくの間ビクビクと痙攣をしていたがそのうち動かなくなった。そして全身がサーッという感じで白くなっていく。
上手く胴体部分を締める事に成功したようなので、もう一差しして頭の方にも槍を突き刺す。頭の部分も白くなった事で、クラーケンの全体を締めることができた。
クラーケンが沈まないように魔術でクラーケンの周りごと凍らせておく。上空に炎を打ち上げて合図を送ると、近場で待機していた漁師達が集まってくる。その漁師たちに向かって片腕をあげる。
「とったどーーー」
「「「おぉぉぉぉぉ」」」
といった感じの歓声が沸き上がる。
「さてとこれで依頼は完了ってことでいいのかな?」
「ああ、本当に助かった。自分たちの手で敵は討てなかったのは残念だが、これでこの辺りの漁場でも漁ができるようになる」
「報酬はちゃんともらうからね」
「おう、そっちに関しては任せてくれ。おーいお前らロープをかけろこいつを持って帰るぞ」
「「「おう」」」
テキパキと船から船へとロープが渡され、全長500メートルほどあるクラーケンを縛ると港へと戻り始める。500メートル級なんてとんでもない大きさに思えるけど、これでもまだ小さい方なんだよね。でかい個体ならこれのまだ3倍位は大きいのがいるとか。私は見たこと無いのであまり信じていないけどね。
さて私が今何をしているかと言うと、前国王に誘われて海辺の避暑地へとやってきたわけなのですよ。だけど着いて早々に漁場を荒らしているクラーケン退治の依頼を受けることになった。
漁師の元締めの元へ行ったのだけど最初は私みたいな小娘には任せられんって言われたんだけどね。その後酒場で繰り広げられた酒飲み大会が開かれ、最終的になぜか認められる結果になった。いやさ、なんで酒飲み勝負で認められるんだよ、私のほうがコイツラ大丈夫か? って思ったわ。
まあそんなわけで海に繰り出し出てきたクラーケンを退治したわけです。そして肝心な報酬だけど、漁場を荒らしていたクラーケンを倒したことで得られる魚介の数々とクラーケン料理といった所です。
別にお金とかいらないからね、ここに滞在する間は前国王の別荘に毎朝届けてくれるとのことだった。そもそもなぜ私がクラーケン退治なんてものをしたのかというと、おわかりのように前国王ことご隠居に頼まれたからだ。
◆
「それでご隠居はクラーケンのことで私をここに呼んだのかな?」
「クラーケンは偶然だよ、わしらが王都へ出発した後に出現したのでな。こちらに戻ってきてから知ったのだよ」
「そうなんだー、偶然なんだねー」
「そうだよ、偶然だよ」
「「はははははは」」
このご隠居は随分とたぬきなようだね、確かにクラーケンがあの漁場で暴れ始めたのは確かにご隠居が王都に着いた後だけど、クラーケンが目撃されるようになったのはかなり前って話なんだよね。
「まあ良いけどね、結果的に新鮮な魚介を食べられるわけだからね」
「ここに滞在する間はこの屋敷を好きに使ってもらって良いよ」
「わかりました、お言葉に甘えてしばらくはここをお借りします」
この屋敷は、ご隠居の別荘の近くに建てられているゲスト用の屋敷だということだ。この場所はご隠居を含めて王族の避暑地となっているのだけど、プライベートビーチなんかもあったりするようで、そこも自由に使って良いとのことだった。
「それでは何かあれば使用人に伝えれば直ぐに連絡がつくようにしておくよ」
「わかったよ、しばらくのんびりさせてもらうよ」
ご隠居さんは馬車も使わずにそのまま歩いて帰っていった。それを見送った私がまっさきに何をしたかと言うと、お風呂に入りました。王城のお風呂には負けるけど、いい感じのお風呂でした。珍しいことに海水を引き込んで、その海水で作られた露天風呂なんてものがあって、海を一望できるようになっていて満足でした。
◆
そんなわけでクラーケンを持ち帰った港では現在お祭りが開催されております。漁師だけではなく、街総出で解体作業が行われ、そして解体されたクラーケンが次々と料理されています。
そりゃあ全長500メートルのクラーケンの解体なんて街総出でやらないと時間かかるよね、それは料理も然り素材が駄目になる前に次々と料理され各所で振る舞われている。お酒を含めて祭りで振る舞われた料理にかかったお金はご隠居が出すとのことだった。
「よお、嬢ちゃん楽しんでるか」
「漁師ギルドの、えーっとボス?」
「ボスってなんだよ、漁師ギルドのギルド長をしているグラードだ」
「いやー酒飲み大会で早々に潰れたグラードさんですね」
「ぐっ、あんな強い酒ガバガバ飲める嬢ちゃんがおかしいんだよ」
「はっはっはっは、私に酒飲み勝負で勝とうなんて100年は早いよ」
「なんか具体的だな、そもそも100年も生きれないからな。それはそれとして今回は助かった礼をいう」
「私は依頼を受けただけだから」
「それでもだ、犠牲者もなく討伐できたんだ、ギルドからも謝礼は出させてもらうつもりだ」
「ん~別にいらないかな、報酬は魚介類食べ放題ってことになってるし、隠居にも貰う予定だからね。それでもって言うなら私が倒すまでに犠牲になった人の家族になにかしてあげて」
「それは、そうだな、そうさせてもらう、気を使わせてすまないな。それじゃあ祭りを楽しんでくれ、3日位かけてクラーケンが全部皆の腹に収まるまで祭りは続くからな」
「あれを全部食べるの?」
「弔いの意味もあるからな」
「そうなんだね、まあ他にも食べたいのあるから楽しませてもらうよ」
「おう、それじゃあな、落ち着いたらギルドにも寄ってくれ」
「また酒飲み勝負でもする?」
「勘弁してくれ、あんたに負けて俺の財布はすっからかんだ」
グラードは一度ガックリと肩を下げてから去っていく。それを見送り私は反対側へと歩みを進める。さっきから良い匂いがしているんだよね、まだそんなに出回ってないはずの魚醤とは違う、醤油の焦げる匂いがね。
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